盗賊だって勇者の仲間で良いじゃないか!

桐条 霧兎

文字の大きさ
36 / 41
第4章 改革と祭り

第2話

しおりを挟む
♢♦︎♢

 ヴァイスは身支度を整えると、愛刀の短刀にラナから借りている代替えの両刃剣バゼラードを腰に備えて部屋を出る。
 祭りやオフとは違い、普段の仕事着でヴァイスは部屋を後にした。

 ほんの数時間前、ギルド職員として働くティファにより直接仕事を請け負う羽目になっヴァイスは、大通りへ出る事無くクロムの街の出入口、大門に裏道を使用しながら向かった。

 ヴァイスはティファに頼まれた事を歩きながら思い出した。

 ーーーー………………。

「なんでもここ数日、クロムの街の地下道で変な呻き声が聞こえるって話なんだけど」

 なんでもと言われても、ティファさんは突然の開口から話が付いて行けないながらも、いつもの事と諦めながら話の続きを聞く事にした。

 要約すると、地下道で冒険者又は騎士団が調査したが何も見つからない。
 だが呻き声だけは耳にした者が数名、そして昨日冒険者のパーティが消息を絶ったとの報告がある。
 本来なら大規模に調査したい所だが、領主からの厳命で祭りは続行と内密な調査とそれに特筆する者を向かわせろとの事だった。

「それで、俺…ですか?」

 すっごく嫌そうな顔をしていたのだろう。
 ティファさんは申し訳なさそうに、苦笑気味に両手を合わせて懇願した。

「他に都合つく冒険者居なくて、警護員だけで精一杯なの! お願い出来る…ヴァイス君?」

 まあ、ティファさんひ頼まれればノーとは言わない主義なのだが……。
 昨日冒険者パーティの消息不明…。

「それを俺一人…ですか?」

「別にパーティで行っても良いわよ」

 とは言うも、イリスとアスティアは今日を随分前から楽しみにしていたのを頭の中で思い浮かべ、急な仕事が入ったとか言ったら彼女らのヒステリックに面倒事が増えるだろうと考える。
 客観的に見ても、調査類は盗賊としての職業がピッタリであり、スキル的には問題無い仕事範囲だろう。

「良いですよ。ソロでやりますよ」

「ええ、それじゃヴァイス君危なくない?」

 危なくない?と心配しても、それを頼んだのは誰なんですか…と言いたいが、イリスとアスティアが楽しみに今日を迎えた手前、仲間としてはフォローするしかない。
 それにーーーー。

「居たら足手まといでしょ」

 バッサリと本人達が居ない事を良い事に、本音をティファさんに告げる。
 彼女は乾いた笑い声を上げるだけで、職業柄肯定も否定しない。
 それが俺にとっては肯定あると受け止められるのだが、ティファさんはコーヒーを口にして話を逸らそうと辺りを見渡す。

「本当に大丈夫? なんなら何人か無理矢理呼び集めるのも…」

「いや、調査だけで解決はしなくて良いならソロが1番良いから大丈夫だよ」

「そ、そう? でも、うん。本当に調査だけだから、何かわかったり嫌な予感がしたら直ぐに撤退してね?」

 心配では無くギルド職員としてのクエストの細かな内容と、心配を織り交ぜた言葉だった。
 俺は静かに頷くと、思い出した様にティファさんに1つ代わりと言ってはなんだが、お願いをする事にしたのだった。

 ーーーーー……………。

 そして今、闇夜の時に至る。

「ここだっけ?」

 イリスとアスティアが怒ってないか何度となく不安に思いながら、大門を抜けて南西に進んだ森の中にて地下道に通じる洞窟の前に辿り着く。
 洞窟には鉄格子で封じられ、自由に出入り出来ないように固く閉ざされているが、その一箇所に鉄格子の扉がありティファから預かった鍵を差し込んで中に入る。

 ぴちゃんと、洞窟内で水滴が落ちる音が遠方から響きながら人一人が歩ける脇道を通りながら先に進む。
 ヴァイスは『感知』スキルを使いながら、音を出来るだけ立てないように慎重に先に進む。

 ー気配だけは感じる。
 何かが奥に息衝いており、反応はあると地下道に足を踏み入れた瞬間に感じた。

 だがヴァイスは、その一瞬にして感じ取った気配に疑問を覚える。
 何故、こんなにもわかりやすい大きな気配に誰一人気付かないのか、そして何故それを確かめないのか不思議でならなかった。

 その理由はヴァイス自身気づいていないが、『感知』スキルの成長度は大きく変化していたのだった。
 大幅なスキルの上昇、本来なら助ける程度がスキルであるが……。
 ヴァイスの『感知』は普段から良く使い込まれ、そして繊細にコントロールしたせいか独自のスキル進化を遂げていた。

 “未確認能力アンノウンスキル”、ヴァイスの固有スキルの『完璧なる盗みパーフェクトセフト』とは違い魔導端末に表示されないスキルをさす。
 固有スキル『完璧なる盗みパーフェクトセフト』は魔導端末に表示されるという事は、それは一度でも歴史的に具現者がいたという事である。
 つまりヴァイスの『感知』スキルは新たな名前で表示されないという事は、歴史的に見て前代未聞なのである。

 だが、それをヴァイスは気付かず、知らない所であり普段使っている『感知』スキルと思っていた。

 ふと、ヴァイスは何かに気付き足を更に緩めながら呼吸をゆっくりと行いながら近づく。

「おかしいな……」

 ボソリと呟き、目の前に手を伸ばす。
 掌には冷たい感触で、辺り一面壁である。
 スキルではこの先、壁の向こうに反応があるのだが、目の前に壁とT字となっていた。

「あれかな。どっちかでこの裏に行けるって事か……」

 参ったなと、頭を掻きながら左右暗闇ながら交互に見る。
 灯りをつけたい所だが、ヴァイスはそれを我慢した。
 気配が複数に多い・・・・・・・・のだ。
 ここに辿り着くに連れて反応がどんどん増えて行き、嫌な予感がひしひしと感じる。

 ーソロで来て正解でもあって、失敗だったかも。

 と、ヴァイスは心の中で思いながらなんの根拠もなく、ただ理由を上げるとしたら右側の通路を歩いているというだけで右折した。

 ただ若干心の中で、潜入調査、探索類に役立つスキルを覚える必要性を考えながら少しばかり突き進むとまたT字の道へとぶつかる。

「さっきの反応だから……左か」

 道ハサミに川が流れているので、新スキルとして『エアラ』による二段ジャンプにより難なく飛び越える。
 飛んだ際に、足元に小さな魔力の薄い壁を作りそれを土台に二段ジャンプとする仕組みだ。
 一瞬だけの薄い魔力の壁なので、持続時間も僅かばかりである。
 一瞬躊躇したり、発動するタイミングを間違えると二段ジャンプ出来ずに足が空を切って間抜けな落ち方をする為に、少しばかり練習して今回で初めて成功したのは内緒にしたい。

 無計画に突き進みながら、広い場所に出た。
 地下道にこんなドームが存在する事に多少驚きながら、ふと更に辺りを見渡しながら疑問を抱く。

 ー灯りが点いているのだ。
 ティファさんからの説明では地下道として、街の水脈として使用していたり生活面の為の場所だと聞いた。
 それならこのドームを作る理由は何か、壁際によりながら壁をざらっと感触を感じながら触る。

 どうやら最近無理矢理にでもドームとして削ったらしく、そんな跡が手触りで残っていた。

「良くまあ崩れずに作れたな、黄の魔法使いかその上の希少職業レアジョブか?」

 人為的であり、魔造的なのを推測しながら更に奥の通路を発見する。

「ただ広いだけで、ここは何も無いな」

 そう思い、更に奥へと踏み入れる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...