ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ

文字の大きさ
29 / 49
○3章 温泉へ行こう

 -11『ドミナータ』

しおりを挟む
 目が覚めると、俺は地面を舐めるように横たわっていた。
 腕は腰の後ろで拘束され、足も何かで縛られているようだ。

 まったく身動きがとれず、頭だけを持ち上げて辺りを見回してみても、そこは薄暗くて何も状況がわからなかった。

 しくじった。

 少しずつ情報を集めるつもりだったのだが、いきなりビンゴだったらしい。それもこれも、マルコムがきまぐれ亭のことを話したせいだろうか。いきなり拘束してくるとは随分性急にも思うが。

 拘束を解こうにも、なにやら強力な魔法によって拘束具が強化されているらしい。力を入れたところでまったく緩まず、ならば魔法を使えないかと思ったが、念じてみてもまったく発動しなかった。

「くそっ。これはやらかしたな……」

 俺はただただこの世界でのんびり暮らしたいだけなのに、こんなとこで捕まって、それで人生でも終わった日には死んでも死に切れない。

 温泉という言葉に目が眩んだけれど、こんなクエスト、最初から受けなければよかった。

 だが、そう思ったのと同時にエルのことが頭に浮かぶ。

「貴様がフォルンからの冒険者かの?」

 声が聞こえたかと思うと、ランタンの光が淡く周囲を照らし出した。
 部屋の全貌が見え、ここが金属の太い格子がついた牢屋なのだとわかる。

 その格子の向こうから、俺を見下すように佇む男の姿があった。

 中肉中背。
 肉団子のような輪郭をした、四十台くらいの男だ。くるりと巻いたような眉毛とキノコのような笠型の頭。着飾った服装は金具の装飾がふんだんに使われているほど豪奢で、赤褐色のスーツに白い上掛けを羽織っている。

 男は葉巻を咥え、下卑た笑みを浮かべながら俺を見ていた。

「あんたがドミナータか?」
「ふむ、わらわの身から溢れ出る尊厳は隠しきれぬの。いかにも。わらわがこのフミーネルの領主、ドミナータだの」

 別にそんな凄そうな雰囲気は出てないんですけど、と突っ込みたいのを我慢した。自尊心が高そうなのが少しマルコムと似ている気がする。関わりすぎると面倒なタイプだ。

 だがその男――ドミナータはその圧倒的上から目線を崩さずに問いかけてくる。

「フォルンから来たというのは本当かの?」
「さあ、どうかな」
「ふっふっふっ。しらばっくれてももう遅いんだの。お前たちが泊まっている宿から何から、いろいろと調べさせてもらったんだの」

 随分と仕事が早いことだ。
 旅館にもあまり俺たちの情報はないはずだが、この口ぶりからすると、おおよそ特定されているのだろう。それだけこのドミナータという男の情報収集力は長けているのか。

 ただの小太りの詐欺師かと思ったが、思ったよりも有能のようだ。町を一つ統括しているだけのことはある。

「だったらもう開き直るか」
「なんだの?」
「俺はここで無理やり働かされてたって奴に依頼されてな。お前の悪事を調べにきてたんだよ」

 適当な嘘も織り交ぜて単刀直入に言う。
 中途半端に誤魔化すよりは、向こうにも隠しても無駄だという雰囲気を与え、深々と切り込んでいくほうがいいと思ったからだ。

「なんでも、借金をしている獣人たちを集めて強制労働させてるらしいじゃないか。借金の肩代わりまでして働かせて、おまけに何年と縛るような変な契約書まで取り交わして」

 断片的に知っている情報を掻き集めて無理やり縫い合わせる。
 苦し紛れのような作戦だったが、ドミナータは思いのほか疑いはしなかった。

「なるほどだの。そこまで知っているのなら、もはやお前たちを生かして帰す訳にはいかないんだの」
「やっぱり事実なのか」

「事実もなにも、わらわは手助けをしてやってるだけなんだの」
「手助け?」

「そうだの。借金にまみれて返済する能力すらない者たちを雇用してやってるんだの。あいつらは返済への糸口と働き口を得て、わらわたちは町の労働力としてあいつらを使えて活気付けられる。お互いに良いこと尽くめなんだの」

 たしかに聞こえは良いが、問題はそこだけじゃない。

「じゃあエルがかわした契約ってのは何なんだよ。借金の返済金額すらわからねえ。ただただ年数を固定されて、朝から晩までひたすら働かされて。あんなのがあの子らへの救済って言えるのかよ」

「言えるんだの。わらわが手を差し伸べなければ、路頭に迷ってのたれ死んでた者も少なくないんだの。あのエルという小娘少年だってそうなんだの。知性をもたない獣人なんぞ、働き口は限られているんだの。借金を抱えているのなら尚更なんだの。そんな彼女らを雇ってやっているのだから、感謝して欲しいくらいなんだの」

 それがこの世界での常識なのだと言われればそれまで。
 ドミナータはまるで善行を働いているかのようにすら思える言い回し。

「でも、十年ってのはどうなんだよ。金額は……」
「それは知らないんだの。借用書を持って逃げた奴に文句を言って欲しいんだの」

 ほっほっほっ、とドミナータが余裕の含んだ高笑いを浮かべる。

「まあ、借金の額が多かろうが少なかろうが、ちゃんと十年は働いてもらうんだの。そういう契約なんだの。だから、お前たちにどうこう言われるようなものでないんだの」

「後ろめたさがないわりには随分と手厚い拘束じゃないか」
「お前たち冒険者は粗暴なんだの。暴力で好き勝手される前に、わらわの魔法でしっかりと封じさせてもらっただけなんだの」

「じゃあ、話も終わったし、もう帰してくれるんだよな」
「そうはいかないんだの」

 きりっ、とドミナータの表情が鋭く引き締まる。

「お前たちには此度の騒動で店に迷惑をかけたんだの。その償いとして、店で働いてもらうんだの」
「なに?」

「あ、男には用はないんだの。お前たちは適当に雑用でもさせるんだの。店で働くのは女だけでいいんだの。特にあの、トカゲの尻尾を持った獣人はナイスバディで良い客を釣れそうなんだの。他は子供とまな板だが、需要はあるんだの。この町にくる男どもの接待をしっかりやってもらうんだの」

 まさかヴェーナたちまでも、エルと同じように働かせるつもりか。

「お前たちを捕らえる時の騒ぎで、居合わせた客への心証が悪くなったんだの。その賠償として体で償ってもらうんだの」
「ふざけんな。それはお前らが勝手に」

「被害が出てるのは事実なんだの。それに、契約さえ結べば反故にはできないんだの。もし店で働くのがイヤだというのなら、わらわの側近として雇うんだの。もちろん、いろんな世話をしてもらうんだの。あんなこととか、こんなこととか。ぐふふ、なんだの」
「この下衆野郎」

 醜い本性を現しやがったな。

「まあ、お前はゆっくりとそこで横たわっているいいんだの。あの少女たちは、わらわがしっかりたっぷりと可愛がってやるんだの」
「ふざけんな、おい!」

 必死に叫ぶ俺を卑しい笑みで見下しながら、ドミナータはゆったりとした足取りで去っていった。

 彼の手にしていた明かりがなくなり、また深淵のような闇に飲み込まれる。

「くそっ、このままだとみんなが」

 マルコム以外のヴェーナたちの顔を頭に思い浮かべながら、俺はがむしゃらに、拘束具を外そうともがき続けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...