46 / 60
第46話 愛の誓い
しおりを挟む
「レオルド様っ!!」
アリアの絶叫が、静かな夜の城に響き渡った。目の前で、自分をかばって黒い呪いの靄に直撃され、崩れ落ちていくレオルドの姿。アリアの思考は一瞬、完全に停止した。
(嘘……! そんな……!)
しかし、すぐに我に返ったアリアは、恐怖を振り払い、レオルドの元へと駆け寄った。
「レオルド様! しっかりしてください! レオルド様!」
彼の身体に触れると、ぞっとするような冷たさと、禍々しい穢れの気配が伝わってきた。リリアーナが放ったであろう呪いは、レオルド自身の体内に巣食う古い呪いと共鳴し、彼の生命力を急速に蝕んでいるようだった。彼の顔は青白く、呼吸も浅く、意識がない。
(死なせない……! 絶対に!)
アリアの胸に、激しい怒りと、そしてレオルドへの強い想いが燃え上がった。この人を失うわけにはいかない。彼を守りたい。その一心で、アリアは自分の持つ『浄化の力』を、力の限り解放した。
「お願い……! 消えて……! 彼から離れてっ!」
アリアの両手から、これまで見たこともないほど眩い、黄金色の光が溢れ出す。それは、レオルドへの深い愛情と、彼を守りたいという強い意志によって増幅された、魂の光だった。
光は、レオルドの身体を包み込む黒い靄へと叩きつけられた。激しい抵抗を示すかのように、靄は蠢き、捻じれ、アリアの光を押し返そうとする。二つの相反するエネルギーがぶつかり合い、部屋の中には凄まじい圧力が満ちていた。
アリアは、歯を食いしばり、必死に力を送り続けた。自分の体力が急速に奪われ、意識が遠のきそうになるのを感じながらも、決して諦めなかった。
(あなたを、失いたくない……!)
その想いが、彼女の力の源だった。
騒ぎを聞きつけ、ジルや侍従長、そして薬師や他の騎士たちも部屋へと駆け込んできた。彼らは、部屋の中の異様な光景と、アリアが一人で呪いと戦っている姿を見て息を呑んだ。
「アリア様! 公爵閣下!」
ジルが叫び、レオルドの元へ駆け寄ろうとするが、浄化の光と呪いの靄がぶつかり合うエネルギーの奔流に、容易には近づけない。
「ジル殿! アリア様を助勢するのだ! 我々も祈りを!」
侍従長が叫び、薬師は回復薬の準備を始めた。騎士たちは剣を抜き、万が一に備えて周囲を警戒する。誰もが、アリアとレオルドのために、自分のできることをしようとしていた。
アリアは、孤独ではなかった。彼女の戦いを、皆が見守り、支えようとしていた。その事実に気づき、アリアの心に新たな力が湧き上がる。
(みんながいる……! そして、レオルド様がいる……!)
アリアは、最後の力を振り絞り、黄金色の光をさらに強く輝かせた。その光は、ついに黒い靄を圧倒し始めた。靄は苦しむように形を歪め、そして、まるで浄化の光に溶けるように、少しずつ、しかし確実に消滅していった。
やがて、部屋の中を満たしていた邪悪な気配は完全に消え去り、残ったのは、アリアの放つ穏やかで温かい黄金色の光だけだった。
「……はぁ……はぁ……」
アリアは、力の全てを使い果たし、その場に崩れ落ちそうになった。ジルが慌てて駆け寄り、彼女の身体を支える。
「アリア様! 大丈夫ですか!」
「……はい……。レオルド様は……?」
アリアは、掠れた声で尋ねた。視線の先では、レオルドが静かに横たわっている。彼の顔色はまだ悪いが、先ほどまでの死相は消え、呼吸も少しずつ安定してきているようだった。黒い穢れの気配も感じられない。
薬師がすぐに駆け寄り、脈を取り、回復薬を飲ませる。
「……峠は越えたようです。あとは、ご本人の体力次第ですが……」
薬師の言葉に、その場にいた誰もが安堵の息をついた。アリアも、ジルに支えられながら、ほっと胸を撫で下ろした。
その後、アリアはジルや侍女たちの助けを借りて、レオルドのそばで懸命に看病を続けた。自分の力で彼の体力を回復させようと、時折、浄化の力を送りながら、片時も離れずに寄り添った。
数時間が経ち、夜が白み始めた頃、レオルドがゆっくりと目を開けた。その青い瞳が、すぐそばにいるアリアの姿を捉える。
「……アリア……?」
彼の声は弱々しかったが、確かに意識は戻っていた。
「レオルド様! よかった……! 本当に……!」
アリアの瞳から、安堵の涙が溢れ出した。彼が生きていてくれた。それだけで、胸がいっぱいだった。
レオルドは、アリアの涙を見て、ゆっくりと手を伸ばし、その頬にそっと触れた。
「……また、君に……助けられたな……。すまない……」
「いいえ……! 私の方こそ……! 私のせいで、貴方を危険な目に……」
アリアは、自分を責めた。あの呪いは、明らかに自分を狙ったものだったのだ。それを、彼がかばってくれた。
「君のせいではない」
レオルドは、弱々しくもきっぱりと言った。「君を守るのは、私の……役目だ」
彼は、アリアの頬を撫でる手に、少しだけ力を込めた。
「……怖かったか?」
「……はい。貴方を失うかと思って……本当に、怖かったです……」
アリアは、正直な気持ちを打ち明けた。彼のいない世界など、もう考えられなかった。
「……私もだ」
レオルドは、静かに言った。「君を失うことほど、恐ろしいものはない」
その言葉は、彼の偽らざる本心だった。アリアをかばった瞬間、彼は死をも覚悟した。だが、それ以上に、アリアを失うことへの恐怖が、彼を突き動かしたのだ。
二人は、しばらくの間、互いを見つめ合った。言葉は少なくとも、その視線には、深い愛情と、相手を失うことへの恐怖を乗り越えた、強い絆が宿っていた。
「アリア……」
「レオルド様……」
どちらからともなく、互いの名前を呼び合う。
「君を守る。何があっても」
「私も……あなたを支えたいです。ずっと、おそばで……」
それは、改めて交わされる、愛の誓いだった。この危機を乗り越え、二人の気持ちは完全に通じ合い、揺るぎないものとなったのだ。もう、迷いも、疑いもない。ただ、互いを信じ、愛し、共に未来を歩んでいく。その決意だけが、そこにはあった。
夜明けの光が、窓から静かに差し込み、寄り添う二人を優しく照らし出していた。新たな試練は乗り越えられた。しかし、この事件の黒幕を、決して許しておくわけにはいかない。二人の戦いは、まだ終わってはいなかった。
アリアの絶叫が、静かな夜の城に響き渡った。目の前で、自分をかばって黒い呪いの靄に直撃され、崩れ落ちていくレオルドの姿。アリアの思考は一瞬、完全に停止した。
(嘘……! そんな……!)
しかし、すぐに我に返ったアリアは、恐怖を振り払い、レオルドの元へと駆け寄った。
「レオルド様! しっかりしてください! レオルド様!」
彼の身体に触れると、ぞっとするような冷たさと、禍々しい穢れの気配が伝わってきた。リリアーナが放ったであろう呪いは、レオルド自身の体内に巣食う古い呪いと共鳴し、彼の生命力を急速に蝕んでいるようだった。彼の顔は青白く、呼吸も浅く、意識がない。
(死なせない……! 絶対に!)
アリアの胸に、激しい怒りと、そしてレオルドへの強い想いが燃え上がった。この人を失うわけにはいかない。彼を守りたい。その一心で、アリアは自分の持つ『浄化の力』を、力の限り解放した。
「お願い……! 消えて……! 彼から離れてっ!」
アリアの両手から、これまで見たこともないほど眩い、黄金色の光が溢れ出す。それは、レオルドへの深い愛情と、彼を守りたいという強い意志によって増幅された、魂の光だった。
光は、レオルドの身体を包み込む黒い靄へと叩きつけられた。激しい抵抗を示すかのように、靄は蠢き、捻じれ、アリアの光を押し返そうとする。二つの相反するエネルギーがぶつかり合い、部屋の中には凄まじい圧力が満ちていた。
アリアは、歯を食いしばり、必死に力を送り続けた。自分の体力が急速に奪われ、意識が遠のきそうになるのを感じながらも、決して諦めなかった。
(あなたを、失いたくない……!)
その想いが、彼女の力の源だった。
騒ぎを聞きつけ、ジルや侍従長、そして薬師や他の騎士たちも部屋へと駆け込んできた。彼らは、部屋の中の異様な光景と、アリアが一人で呪いと戦っている姿を見て息を呑んだ。
「アリア様! 公爵閣下!」
ジルが叫び、レオルドの元へ駆け寄ろうとするが、浄化の光と呪いの靄がぶつかり合うエネルギーの奔流に、容易には近づけない。
「ジル殿! アリア様を助勢するのだ! 我々も祈りを!」
侍従長が叫び、薬師は回復薬の準備を始めた。騎士たちは剣を抜き、万が一に備えて周囲を警戒する。誰もが、アリアとレオルドのために、自分のできることをしようとしていた。
アリアは、孤独ではなかった。彼女の戦いを、皆が見守り、支えようとしていた。その事実に気づき、アリアの心に新たな力が湧き上がる。
(みんながいる……! そして、レオルド様がいる……!)
アリアは、最後の力を振り絞り、黄金色の光をさらに強く輝かせた。その光は、ついに黒い靄を圧倒し始めた。靄は苦しむように形を歪め、そして、まるで浄化の光に溶けるように、少しずつ、しかし確実に消滅していった。
やがて、部屋の中を満たしていた邪悪な気配は完全に消え去り、残ったのは、アリアの放つ穏やかで温かい黄金色の光だけだった。
「……はぁ……はぁ……」
アリアは、力の全てを使い果たし、その場に崩れ落ちそうになった。ジルが慌てて駆け寄り、彼女の身体を支える。
「アリア様! 大丈夫ですか!」
「……はい……。レオルド様は……?」
アリアは、掠れた声で尋ねた。視線の先では、レオルドが静かに横たわっている。彼の顔色はまだ悪いが、先ほどまでの死相は消え、呼吸も少しずつ安定してきているようだった。黒い穢れの気配も感じられない。
薬師がすぐに駆け寄り、脈を取り、回復薬を飲ませる。
「……峠は越えたようです。あとは、ご本人の体力次第ですが……」
薬師の言葉に、その場にいた誰もが安堵の息をついた。アリアも、ジルに支えられながら、ほっと胸を撫で下ろした。
その後、アリアはジルや侍女たちの助けを借りて、レオルドのそばで懸命に看病を続けた。自分の力で彼の体力を回復させようと、時折、浄化の力を送りながら、片時も離れずに寄り添った。
数時間が経ち、夜が白み始めた頃、レオルドがゆっくりと目を開けた。その青い瞳が、すぐそばにいるアリアの姿を捉える。
「……アリア……?」
彼の声は弱々しかったが、確かに意識は戻っていた。
「レオルド様! よかった……! 本当に……!」
アリアの瞳から、安堵の涙が溢れ出した。彼が生きていてくれた。それだけで、胸がいっぱいだった。
レオルドは、アリアの涙を見て、ゆっくりと手を伸ばし、その頬にそっと触れた。
「……また、君に……助けられたな……。すまない……」
「いいえ……! 私の方こそ……! 私のせいで、貴方を危険な目に……」
アリアは、自分を責めた。あの呪いは、明らかに自分を狙ったものだったのだ。それを、彼がかばってくれた。
「君のせいではない」
レオルドは、弱々しくもきっぱりと言った。「君を守るのは、私の……役目だ」
彼は、アリアの頬を撫でる手に、少しだけ力を込めた。
「……怖かったか?」
「……はい。貴方を失うかと思って……本当に、怖かったです……」
アリアは、正直な気持ちを打ち明けた。彼のいない世界など、もう考えられなかった。
「……私もだ」
レオルドは、静かに言った。「君を失うことほど、恐ろしいものはない」
その言葉は、彼の偽らざる本心だった。アリアをかばった瞬間、彼は死をも覚悟した。だが、それ以上に、アリアを失うことへの恐怖が、彼を突き動かしたのだ。
二人は、しばらくの間、互いを見つめ合った。言葉は少なくとも、その視線には、深い愛情と、相手を失うことへの恐怖を乗り越えた、強い絆が宿っていた。
「アリア……」
「レオルド様……」
どちらからともなく、互いの名前を呼び合う。
「君を守る。何があっても」
「私も……あなたを支えたいです。ずっと、おそばで……」
それは、改めて交わされる、愛の誓いだった。この危機を乗り越え、二人の気持ちは完全に通じ合い、揺るぎないものとなったのだ。もう、迷いも、疑いもない。ただ、互いを信じ、愛し、共に未来を歩んでいく。その決意だけが、そこにはあった。
夜明けの光が、窓から静かに差し込み、寄り添う二人を優しく照らし出していた。新たな試練は乗り越えられた。しかし、この事件の黒幕を、決して許しておくわけにはいかない。二人の戦いは、まだ終わってはいなかった。
581
あなたにおすすめの小説
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、そして政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に行動する勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、そして試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私が、
魔王討伐の旅路の中で、“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※「小説家になろう」にも掲載。(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?
小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。
しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。
突然の失恋に、落ち込むペルラ。
そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。
「俺は、放っておけないから来たのです」
初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて――
ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。
【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません
との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗
「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ!
あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。
断罪劇? いや、珍喜劇だね。
魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。
留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。
私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で?
治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな?
聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。
我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし?
面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。
訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結まで予約投稿済み
R15は念の為・・
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
婚約破棄ですか? 損切りの機会を与えてくださり、本当にありがとうございます
水上
恋愛
「エリーゼ・フォン・ノイマン! 貴様との婚約は、今この瞬間をもって破棄する! 僕は真実の愛を見つけたんだ。リリィこそが、僕の魂の伴侶だ!」
「確認させていただきますが、その真実の愛とやらは、我が国とノイマン家との間で締結された政略的・経済的包括協定――いわゆる婚約契約書よりも優先される事象であると、そのようにご判断されたのですか?」
「ああ、そうだ! 愛は何物にも勝る! 貴様のように、金や効率ばかりを語る冷血な女にはわかるまい!」
「……ふっ」
思わず、口元が緩んでしまいました。
それをどう勘違いしたのか、ヘリオス殿下はさらに声を張り上げます。
「なんだその不敵な笑みは! 負け惜しみか! それとも、ショックで頭がおかしくなったか!」
「いいえ、殿下。感心していたのです」
「なに?」
「ご自身の価値を正しく評価できない愚かさが、極まるところまで極まると、ある種の芸術性を帯びるのだなと」
「き、貴様……!」
殿下、損切りの機会を与えてくださり本当にありがとうございます。
私の頭の中では、すでに新しい事業計画書の第一章が書き始められていました。
それは、愚かな王子に復讐するためだけの計画ではありません。
私が私らしく、論理と計算で幸福を勝ち取るための、輝かしい建国プロジェクトなのです。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる