氷の公爵は、捨てられた私を離さない

空月そらら

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第47話 王太子への鉄槌

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レオルド公爵が一命を取り留め、徐々に回復へと向かう中、ヴァイスハルト城では、今回の襲撃事件の真相究明が迅速に進められていた。

アリアの部屋から発見された呪いの媒介物(装飾箱)、呪いの性質、そしてアリアが悪夢で見たというリリアーナの姿。それらの情報から、犯人が聖女リリアーナであることは、ほぼ間違いなかった。

「やはり、あの女か……!」

病床で報告を受けたレオルドは、冷たい怒りに身を震わせた。アリアを害そうとしたこと、そしてその卑劣な手段。断じて許せるものではない。

さらに、ジルたちの調査によって、リリアーナの背後で悪徳神官が協力していたこと、そして、時を同じくしてエリオット王太子がローゼンベルク侯爵家を使ってアリアを連れ戻そうとしていた事実も明らかになった。

「王太子殿下も、関与していたと……?」

レオルドの怒りは、リリアーナだけでなく、エリオットにも向けられた。彼は、アリアを力ずくで奪い返そうとしただけでなく、リリアーナの暴挙を止めもせず、結果的にアリアを危険に晒したのだ。その責任は、決して軽くない。

「……もはや、看過できん」

レオルドは、静かに、しかし断固たる決意を固めた。リリアーナとエリオットの罪を白日の下に晒し、正当な裁きを受けさせなければならない。それは、アリアを守るためだけでなく、王国の秩序を守るためにも、必要なことだった。

数週間後、レオルドの体調がほぼ回復すると、彼はアリアを伴い(彼女の安全を確保するため、片時も離すわけにはいかなかった)、ジルをはじめとする精鋭の騎士たちと共に、再び王都へと向かった。目的は、国王陛下への直訴である。

王宮に到着したレオルドは、すぐさま国王への謁見を求めた。辺境伯からの緊急の申し出に、国王は驚きながらも謁見を許可した。

謁見の間には、国王陛下とその側近たちが顔を揃えていた。エリオット王太子の姿もあったが、彼はレオルドとアリアの姿を見ると、顔色を変え、明らかに動揺した様子を見せた。リリアーナの姿は、そこにはなかった。

「ヴァイスハルト公、急な謁見の求め、いったい何事かな?」

国王が、厳かな口調で尋ねる。

レオルドは、恭しく一礼すると、単刀直入に本題を切り出した。

「陛下、本日は、我が領地にて発生した、ある重大な事件についてご報告に上がりました。そして、その事件に関与した者たちの断罪をお願い申し上げる次第でございます」

彼の言葉に、その場の空気が一変する。

レオルドは、ジルが用意した証拠品(呪いの媒介物の残骸、悪徳神官の自白書、密偵からの報告書など)を提示しながら、事の経緯を冷静に、しかし詳細に説明していった。聖女リリアーナが、アリアに対して悪質な呪いをかけたこと。その結果、アリアだけでなく、彼女をかばったレオルド自身も生命の危機に瀕したこと。そして、その背後で、エリオット王太子がアリアを不当に連れ戻そうと画策していたこと。

次々と明らかにされる衝撃的な事実に、国王陛下をはじめ、その場にいた誰もが言葉を失った。特に、聖女であるはずのリリアーナが、禁忌である呪いを用いたという事実は、信じがたいものだった。

「……そ、それは、真実なのか、ヴァイスハルト公……?」

国王が、震える声で尋ねる。

「ここに提示いたしました証拠が、全てを物語っております。悪徳神官も、すでに捕らえ、全てを自白いたしました」

レオルドは、揺るぎない口調で答えた。

国王の視線が、顔面蒼白になっているエリオットへと向けられた。

「エリオット……! これは、どういうことだ! 説明せよ!」

国王の怒声が響き渡る。

「ち、父上……! こ、これは、ヴァイスハルト公の、でっち上げです! 私も、リリアーナも、そのようなことは……!」

エリオットは、必死に言い訳をしようとしたが、その言葉は説得力を持たなかった。彼の動揺ぶりと、提示された証拠が、彼の関与を雄弁に物語っていた。

アリアもまた、国王の前に進み出て、自身の経験を証言した。悪夢のこと、部屋で起きた呪いの発動のこと。その言葉は、誠実で、嘘偽りのないものとして、人々の胸を打った。

もはや、言い逃れることはできない。

国王は、深い苦悩の表情を浮かべながらも、厳しい決断を下さざるを得なかった。

「……聖女リリアーナを、直ちに捕らえよ! 聖女の資格を剥奪の上、厳重に審問し、その罪を問う! 悪徳神官も同様とする!」

衛兵たちが、国王の命令に従い、動き出す。

そして、国王は、苦渋に満ちた顔で、息子であるエリオットに向き直った。

「エリオット……。そなたの行いは、王太子として、いや、人として許されざるものだ。聖女の暴走を止めもせず、私欲のために元婚約者を不当に追い詰め、あまつさえヴァイスハルト公にまで累を及ぼした。……もはや、そなたに次代の王たる資格はない」

国王は、重々しく宣言した。

「……本日をもって、エリオット・フォン・ハールラントを、王太子の地位から廃嫡する!」

「なっ……!? 父上、お待ちください! それだけは……!」

エリオットは、絶望の叫び声を上げた。しかし、国王の決意は固かった。彼のこれまでの行状と、今回の事件の重大さを考えれば、当然の結末だった。

エリオットは、その場で崩れ落ち、力なくうなだれた。全てを失ったのだ。地位も、名誉も、そして、かつて自ら手放したかけがえのない存在(アリア)も。彼の身勝手な行動が招いた、当然の報いだった。

同時に、ローゼンベルク侯爵家に対しても、王太子の圧力に屈し、娘を不当に扱った責任を問い、爵位の剥奪と領地の没収という厳しい処分が下されることになった。

リリアーナは、捕らえられた後、罪を認め、辺境の修道院へと幽閉されることになった。聖なる力を悪用した彼女の末路は、惨めなものだった。

こうして、アリアを巡る王都での陰謀は、レオルドの断固たる行動によって白日の下に晒され、関係者はそれぞれに相応の裁きを受けることになった。アリアにとって、それは過去との完全な決着であり、長年の呪縛からの解放を意味していた。

レオルドは、国王に対して最大限の敬意を払いながらも、自身の正当性を貫き通し、アリアを守り抜いた。その行動は、彼の領主としての器の大きさを示すと共に、アリアへの深い愛情の証でもあった。

すべての決着がついた後、アリアとレオルドは、安堵と共に、しかしどこか複雑な思いを抱えながら、再び辺境への帰路についた。王都での騒動は終わった。しかし、彼らの物語には、まだ最後の、そして最も重要な章が残されていた。
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