屑の男

猫丸

文字の大きさ
21 / 39
第三章 番外編~片恋~ 義成

5.親友からの侮辱

しおりを挟む
 その日の章介は相変わらず酔っていて、帰ったと思ったら俺が眠りについた頃、再び泥だらけの泥酔した姿で現れた。
 その時の章介は泣いているようにも見えた。
 俺はこのような表情を学生時代に見たことがあった。
 だが、いつもと変わらぬ態度で接した。
 どんなに慰めたくても、俺では女の代わりにはなれない。ただ親友として、その位置を守り続けるだけだった。

 なのに……。
 その晩、俺は夢の中で、亡くなった妻を抱いていた。
 妻はもう亡くなっているし、生前も妻とこのように濃厚なセックスをしたことはない。だから俺には「これは夢だ」という意識があった。
 疲れていたり、性欲が溜まればこういう夢を見ることもあったし、夢でも現実でも、最後は妄想の章介の中で果てるのだ。

 それは妙に生々しく体温を感じる夢だった。
 きっと、隣に章介が寝ているせいもあるだろう。寝る前に、風呂に入る前の章介の裸体をちらりと見てしまったせいもあるかもしれない。
 だがその日に限って、果てそうだというのに妻の幻影が消えることはなかった。

 妙な罪悪感を感じて、夢から醒めようと無理矢理目を開けた瞬間、暗闇の中、俺の上で腰を振っている章介の姿があった。
 俺はまだ夢から覚めていないのかと驚いた。
 だが、夢ならば問題ない。俺は驚きながらも章介の腰を掴むと、その体内に射精した。

 そのリアルな射精と、自らのペニスを包み込む体温に、俺はこれが現実であることを悟った。
 そして「なぜだ」と戸惑う俺に、章介が突きつけた言葉。
「なんでって利息だよ。お前のことだから、どうせ亡くなった奥さんに操を立てて発散してないんだろう?」
 馬鹿にするように言い放たれて、俺は怒りで顔が真っ赤になるのがわかった。
 
 ――だからと言ってお前がこんなことをするなんて。
 
 そんな俺に章介は更に言った。
 
「……男で悪かったな。でも……男だろうが女だろうが、結局快楽を求める本能は、俺も、ご立派なお前も大差ないってことだな」
 
 ――本能だと? ご立派だと? 俺の長年の苦しみをそんな簡単な言葉で片付けるな。
 
 俺は言いしれぬ恐怖におびえ、思わず章介を殴った。
 
 ――いつからだ? いつから章介は俺の気持ちに気づいていた?
 
 こんな形で俺の長年の片思いを冒涜した章介が許せなかった。
 章介は俺を嘲笑うように薄ら笑いを浮かべ、出て行った。
 
 ――最悪だ。こんな形で長年の片思いも、大切に守ってきた友情もすべて踏みにじられるなんて……。

 怒りと羞恥で頭に血が昇る。
 もう二度と章介に会うことはないだろう。
 俺は当然そう思った。
 俺に対してあんな侮辱をしたのだ。向こうだって俺と二度と会う気がないからあんなことをしたのだろう。
 
 そして予想通り章介が店に顔を出さなくなって、俺は諦めの感情が生まれてきた。
 これが失恋というものなのだろう。
 男が男を好きだなんて、気持ち悪いと思うのが当然だ。だが俺は男が好きなんじゃなくて、章介が好きだったのだ。それにはもう理由なんてなかった。
 俺は心の中でずっとそう言い訳をした。
 
 だが、それでも長年こじらせた感情がすぐに解消されることはなかった。
 むしろ今まで章介でイクことにずっと罪悪感を抱えていたのに、あの一件で俺のタガが外れた。
 俺は夜な夜な章介の中で果てたあの瞬間のあの姿を思い出し、章介が乱れる姿を想像しては自慰をした。
 俺達の縁は完全に途切れたのだ。
 ならば妄想の中で俺が章介をどう抱こうが自由だ。
 
 そして、ある日ふと思った。
 あの日、章介は初めてではなかったのではないか、と。
 そうでなければ、どうして男が自分の肛門に他人のペニスを突っ込むなどという発想が生まれるだろうか?
 逆なら……俺のように、入れたいという感情なら、百歩譲ってあり得るような気もする。
 だが、章介は自ら入れて、腰を振った。
 そんなに簡単に入るものなのだろうか?
 俺は試しに自分の穴をいじってみた。だがどうやっても指一本か頑張っても二本が限界で、簡単に入れることはできなかった。
 
 俺は混乱した。
 ――章介は男と付き合った経験があるのか?
 いつ? どのタイミングで?
 もし俺が勇気を出して告白していたなら、結ばれていた未来があったのだろうか?
 
 だが、あれ以来章介は姿を見せなかったし、俺から会いにいく勇気もなかった。
 俺は臆病なのだ。
 守るものがない時だったらもう少し違っていたかもしれない。
 だが今の俺には大成がいる。
 一番に守らなきゃいけないもの。
 
 いや、違う。大成のことは言い訳だ。
 万が一、俺の考えが、俺にとって都合が良いだけの独りよがりの解釈だったらと思うと怖かったのだ。
 今度踏み躙られたら、俺はもう今までのようにはいられない。
 今まで必死に取り繕ってきた『親友』という仮面を捨てて、俺は章介に何をするかわからない。
 必死に抑え続けている俺の醜い感情が、章介を壊してしまいそうな、そんな恐怖をひしひしと感じていた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

自分勝手な恋

すずかけあおい
BL
高校の卒業式後に幼馴染の拓斗から告白された。 拓斗への感情が恋愛感情かどうか迷った俺は拓斗を振った。 時が過ぎ、気まぐれで会いに行くと、拓斗には恋人ができていた。 馬鹿な俺は今更自覚する。 拓斗が好きだ、と――。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい

マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。 しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。 社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。 新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で…… あの夏の日々が蘇る。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

処理中です...