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③月夜の告白-3-
しおりを挟む六年前までのエカルラートは、王家のたっての願いでローザリアの婚約者に選ばれる時まで、女顔である事を除けば普通の男子だった。
だが、精通を迎えた年の秋
『カルディナーレ・・・僕、あんな女の婿になりたくない!』
君が女であれば・・・僕が女であれば良かったのに!!
カルディナーレの前では強がっていたが、第一王女から婚約破棄されるかどうか分からないエカルラートが雲で隠れている月を眺めながら泣き叫ぶ。
雲から顔を出した小望月の光を浴びたその時、泣き叫んでいたエカルラートの背中に淡く光る巨大な純白の翼が出現したのだ。
『て、天使になった・・・?あれって、単なる伝説・・・では、なかったのか?』
男女問わず美形で魔力が秀でているエルグラード家は天使の末裔だと、実しやかに囁かれている。
その証拠に、何代か前の人物の肖像画の背中には翼が生えているくらいだ。
しかし、あくまでもそれはエルグラード家の箔を付ける為に当時の画家に描かせていたのだと思っていたエカルラートは真実である事に驚きを隠せないでいた。
『%&!☆@♣☹♡☺』
自分が女であればカルディナーレの側に居る事が出来ると願っただけで変化してしまったという不安があるからなのか、エカルラートは慌てて両親が居る居間へと向かう。
『父様!母様!』
『『エカルラート!?』』
息子に羽が生えたという事実に両親───サジタリアとエスメラダは驚いたが、そこは腹の探り合いが当たり前の貴族。
すぐに我を取り戻した二人は息子に天使がどのような存在であるかを教える。
天使よ
汝は世界の守護者にして破壊者である
汝の力は救いであり災いである
天使よ
汝が愛に目覚めし時
御子の父となり母となるであろう
『でも、天使って男性ですよね?』
彫刻や宗教画で目にする天使には女性に見える者もいるが実は男性であるというのが、ガブリエラ王国における常識だ。
これは他国でも同じことが言える。
母なる海を、生命を育む大地を、そして天をも従える天使が守護者にして破壊者、救いであり災いというのは何となくイメージ出来るのだが、御子が誰を指すのか分からない。
女性が存在しない天使を母と表現するのはおかしいのではないか?
御子は自分の子供ではなく、全人類を指すのではないか?と、エカルラートが疑問をぶつける。
『天使は男しか存在しないし、産まれてくる天使も男だ。子孫を残す為に一部が満月期に女性と化すらしい。月齢が十九になると元に戻ると、ご先祖様の日記にそう書いてあるな』
『だから、娘のアフロディナはエカルラートのように天使にならないのね』
アフロディナというのはサジタリアとエスメラダとの間に産まれた長女で、エカルラートから見れば姉に当たる人物だ。その彼女はというと、去年の春に侯爵家に嫁いでいる。
政略結婚であるが、夫との仲は良好であったりする。
『さっきも言ったように、天使が女性と化すのはあくまで自分達の血を次代に繋ぐ為のものだ。しかし──・・・』
理由は分からないが満月期に女性と化す天使の数が少なくなっていった事で、危機感を覚えた彼等は人間との間に子を成すようになったらしい。
『人間との間に成した子供というのが、神話に出てくる超人なのね?』
『超人って確か、外見だけではなく身体能力も秀でているのですよね?』
『そうだ』
サジタリアは語る。
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