真実の愛とは何ぞや?

白雪の雫

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④天使達の婚約-1-

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 話は二週間近く前まで遡る。






 「あなた、エカルラートがリヒトシュタインから戻ってきませんわ」

 十日後には満月期を迎える。

 この期間は、天使にとって繁殖期。

 つまり、エカルラートが女性になる事を意味する。

 秘密を誰にもばらしたくないエスメラダは、息子をエルグラードに連れ戻そうと必死に訴えた。

 「・・・そうだな」

 エカルラートが普通の男子であったのなら、サジタリアは元第一王女であるローザリアから婚約破棄された次男に自立の道を促しただろう。

 だが、それもエカルラートが天使になった事で難しくなってしまったものだから、妻の言い分は尤もだ。

 まず、サジタリアはリヒトシュタイン家の当主であるカイザーに連絡を入れて、それから家令に自分達が留守の間にやるべき指示を出している間に、エスメラダがメイド達に荷造りを命じる。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 十一日後

 満月期に入った次の日に───道中でトラブルがあったせいで予定より一~二日遅れてリヒトシュタインに到着したエルグラード夫妻は、当主夫妻と軽く挨拶を交わした後、エカルラートを連れ戻しに来たのだと告げる。

 「エルグラード公爵夫人、よろしいでしょうか?子供というのは何時か親から離れて新たな巣を作るのです」

 既に成人しているエカルラートを手元に置いておくという事は、彼の自立を阻止して親離れが出来なくなるだけではなく人格を無視している行為なのだと、グレースがエスメラダに訴える。

 「エルグラード公爵。親にとって子供は何時まで経っても子供です。ですが、親が思っている以上に子供は大人でもあるのです」

 そのような事、カイザーとグレースに言われるまでもなくサジタリアとエスメラダは理解しているのだが、我が子の体質を第三者に知られる訳にはいかないので口を噤むしか出来ないでいた。

 「「父上!母上!失礼いたします!!」」

 非礼を承知の上で両家の当主夫妻が話の場を設けている部屋にやって来たのは、エカルラートとカルディナーレであった。

 「「カルディナーレ!どこの馬の」」

 「「エカルラート!」」

 『どこの馬の骨とも分からぬ女を連れ込むなど言語道断!』と、カルディナーレを責めようとするカイザーとグレースの言葉をサジタリアとエスメラダが遮る。

 「「えっ?」」

 カルディナーレと共に入って来た白銀の髪を持つ長身の女性は確かにエカルラートに瓜二つであるが、サジタリアとグレースがエルグラード家次男の名前を口にした事でカイザーとグレースは驚きを隠せないでいた。

 「エ、エカルラート殿?聞いてもいいかな?・・・・・・エカルラート殿って女だったかな?」

 女だったら、第一王女であったローザリアの配偶者に選ばれたりなんかしないよね~?

 家庭の事情で男として育てられたとか?

 「いえ、男です。今はある理由で女になっていますが」

 「性転換手術をしたの?」

 「していません!」

 今の自分の胸元にある立派な山は手術による詰め物ではなく、紛れもない本物なのだと告げる。

 「「エカルラート!」」

 「父上!母上!リヒトシュタイン辺境伯夫妻には当事者である私が説明いたします!」

 「エカルラート、ここは俺が話す。エルグラード公爵、公爵夫人。実は私もエカルラートと同じ体質なのです」

 息子の告白を止めようとするエルグラード公爵夫妻に、カルディナーレが天使の証である純白の翼を出現させる。

 「カルディナーレ殿?・・・女にしては随分と筋骨隆々な男に見えるのは、私の目が悪くなったからなのかな~?」

 「あなた。どこからどう見てもカルディナーレ殿は男性ですよ」

 「いや!この世には王后陛下に仕える女騎士団長のようにゴリマッチョな女性が存在するのだから、満月期のカルディナーレ殿が普段のカルディナーレ殿と変わらない姿であってもおかしくない!!」

 「エルグラード公爵。確かに私はエカルラートと同じ体質ですが、月の光を浴びても女性にならないという点だけが異なります」

 カルディナーレの、この一言だけで天使についての知識があった両家の夫婦は納得してしまった。

 エカルラートの体質を考えればエルグラード公爵と公爵夫人が心配するのも当然であるが、結局のところ、それは子供の自立を阻むものでしかない。

 天使の血に目覚めた時期と方法は分からないが、満月期の間のエカルラートはローザリアの前で男性として振る舞っていたはずだ。

 そんなエカルラートであれば、将来の事も考えているのではないか?

 グレースは息子の幼馴染みに尋ねる。

 「・・・・・・・・・・・・」

 今までの自分は、元第一王女から『婚約破棄する』という一言を引き出す為だけに行動をしていたようなものだ。

 それは成就されたと同時に、エカルラートにとって目標を失ってしまった事を意味する。

 教師、治癒師、デザイナー等

 自由の身となり人生の選択肢が広まったからこそ、兄のように跡取りでない自分はどうすればいいのかを悩んでいるのだ。

 「何時かは親から離れないといけない事だけは分かっているのですけどね」

 「「エカルラート!?」」

 「それでしたら、エカルラート殿。カルディナーレの嫁になるというのはどうかしら?」

 「「「「「は?」」」」」 

 グレースの一言に当事者であるエカルラートとカルディナーレだけではなく、親達も戸惑いの声を上げる。

 「エルグラード公爵と公爵夫人はエカルラート殿の体質の事があるから不安なのですよね?それでしたら、同じ秘密を抱えている二人を一緒にした方がいいと思うのですよ」

 しかも、カルディナーレの本命はエカルラート殿

 幼馴染みの二人が結婚する事に対して何の問題もありませんわ!

 グレースの主張に、確かに一理あるのかも知れないとエルグラード夫妻は考える。

 「は、母上!?母上は俺がエカルラートに対して幼馴染み以上の想いを抱いていたのをご存じだったのですか?!」

 (えっ?そこ?カルディナーレにとってそこが大事なところなのか!?)

 過程をすっ飛ばして結婚に話が行ったところにツッコミを入れないカルディナーレに対して、エカルラートが心の中でツッコミを入れる。

 「当然よ。だって、カルディナーレは婚約者だったマリエ嬢と居る時より、エカルラート殿と過ごしている時の方が楽しそうだったもの」

 (それに、カルディナーレのエカルラート殿に対して向ける瞳は熱が籠っていたわ・・・)

 「母親の勘を舐めないで欲しいわね」

 エカルラートに対する想いを隠しきれていたと思っていたはずなのに、実際は母親にばれていたという事実に顔を赤くしているカルディナーレをグレースが上品に笑い飛ばす。

 「カルディナーレ、あなたはエカルラート殿との結婚は嫌かしら?」

 「いえ!全然!寧ろ、話を進めちゃって下さい!!」

 「リヒトシュタイン辺境伯夫人、一つよろしいでしょうか?カルディナーレ殿はそれで良くても、エカルラート本人の気持ちを確かめないといけませんわ」

 エカルラート、あなたはカルディナーレ殿の事をどう思っているの?

 「えっ?私はカルディナーレを押さ馴染みとしてだけではなく一人の男としても慕っています。ですが──・・・」





 『べ、別にあなたの事なんて好きでもないんだからね!』

 口ではそう言っていても、照れ隠しなのだろう。彼女の顔は真っ赤になっていた。





 カルディナーレのような男に対して、恋愛小説に出てくるツンデレのように本音と正反対の態度を取ったら命が危ないと肌で感じ取っているエカルラートは、人前で告白なんて羞恥プレイ以外の何者でもないと思いながらも、自分だけにしか欲情しなくなった天使への想いを口にする。

 「エカルラート殿は、自分の体質と世間体を気にしているのだな?」

 カイザーの問いに白銀の天使が頷く。

 「それよりもエカルラート・・・あなたがカルディナーレ殿をそのように想っていたなんて気が付かなかったわ」

 天使と化した息子が誰かに恋をしている事をエスメラダは母親として感じ取っていたが、それが誰なのか今日まで分からなかった。

 相手が幼馴染みのカルディナーレだったとは夢にも思っていなかったエスメラダは、それを誰にも悟らせなかった我が子の演技力に感心せざるを得ないでいる。

 「当時の私は、胸が平地の性悪女の婚約者でしたから」

 天使の末裔である・・・というか、ガチでリアルの天使であるエカルラートの元婚約者がだったという事実に、一同は心から悲しみの涙を流さずにはいられないでいた。

 「相手の自爆で自由の身になったのだ。エカルラート、これからはカルディナーレ殿と共に人生を歩んでもいいのだよ」

 「ですが、父上。私は・・・」

 「ここから先は大人の事情が絡んでくるから、二人はここから出て行きなさい」

 「「父上!母上!」」





 エカルラートとカルディナーレは両親によって部屋から追い出されたのだった。







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