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②ルームメイト(前編)-1-
しおりを挟む「クレッセント学園へようこそ」
ミスリルを出迎えてくれたのは金髪碧眼という、おんなのこであれば思い描く典型的な王子様な外見をしている、アブソリュート王国の王太子にしてクラスメイトであるシュトロームだった。
公爵家の令嬢であるミスリルは家族と共に何度か登城した事があるし、シュトロームとも顔を合わせた事もあるのだが、髪を切った事で印象がガラリと変わってしまったからなのだろうか。
目の前に居るミスリルが公爵令嬢である事に気付いている様子はない。
或いは気付いた上で敢えてそれを無視しているのかも知れないが、少なくともシュトロームのミスリルに対する接し方は異性に対するものではなく、男性に対するものだった。
「ミスリル君、君はクレッセント学園がどのような場所なのかを知っているかい?」
「基本となる読み書き計算、外国語、古典文学、古代史だけではなく、日常の遊戯に音楽、王侯貴族の子弟に相応しい礼儀作法に立ち居振る舞い、乗馬に武具の扱い、そして領主としての心構えと経営学を教授する場所であると同時に、友を見つけて人脈を築く場所でしょうか?」
初顔合わせの時に軽く挨拶を交わした後、卒業するまで過ごす事になる部屋に案内されているミスリルはシュトロームに問われたので彼女はそう答える。
「ミスリル君、何も難しく考えたり気構える必要はないよ。クレッセント学園は学ぶだけではなく、心の友を見つけて楽しく過ごす場所と思えばいいんだ」
困った事があれば、僕やルームメイトを頼るんだよ
緊張しているミスリルの心を解すかのように、シュトロームが笑顔を向ける。
「・・・分かりました」
ここが談話室、ここが休憩室、ここが食堂、ここがバスルーム、ここがパウダールーム、ここがランドリー──・・・
学園の事や寄宿舎について色々と教えて貰っている内にミスリルが三年間を過ごす事になる部屋の扉の前に到着した。
「ヴィクトワール、今日から君と相部屋となる者を連れて来た」
扉をノックしたシュトロームはミスリルと共に部屋へと足を踏み入れる。
(で、デカい・・・)
ミスリルも長身であるが、肩まで伸ばしているダークブラウン色の髪に藍色の瞳を持つ彼は少なく見積もっても彼女より十センチメートル以上の上背があった。
「ヴィクトワール、彼はミスリル=フェルナンデス。フェルナンデス公爵の養子にして遠縁に当たる人物だ。ミスリル君、彼はヴィクトワール=ディティクティブ。ディティクティブ辺境伯のご子息だ」
君達は確か同じAクラスだったよね?
二人共、仲良くするんだよ
という訳で握手~
「「よろしくお願いいたします」」
王太子にそう言われたミスリルとヴィクトワールは握手を交わす。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルームメイトと仲良くなる事もあれば、ただ単に同じ部屋で寝ているだけの関係でしかない事もある。
これといった会話を交わす事のない、というか基本的な会話が挨拶しかしないミスリルとヴィクトワールは後者だった。
(何と言えばいいのか分からないけど、ヴィクトワールから避けられているような気がするのよね)
「それでね、ミスリル君。シオンってば何て言ったと思う?」
昼休み
食堂でワッフルを食べているクリスが笑顔を浮かべながら、自分はヴィクトワールの気に障るような事をしたのだろうか?と、それを面に出さず思い悩んでいるミスリルに話しかけてくる。
他はどうなのか知らないが、少なくとも自分の目の前にいる男の娘なクラスメイトのクリスはルームメイトと良好な関係を築いているようだ。
「ミスリル?どうかしたの?」
「いや、何でもない。それよりもクリス君、午後から剣術の授業があるけど、それだけで足りるのか?」
「うん!だって、僕って少食だからこれ以上食べられないの」
(女子かーーーっ!!!)
と、心の中でツッコミを入れながらミスリルはカツレツを口に運ぶ。
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