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④男子校の放課後-3-
しおりを挟む「という訳で、まずは医務室の怪奇現象から調べたいと思います」
放課後、正門の前に集ったメンバー──・・・ミスリル、ヴィクトワール、未来の側近候補である宰相子息のアルトと騎士団長子息のマルスにシュトロームが宣言する。
「医務室って確か・・・【一人で医務室で休んでいるとファイト一発をしているような気分になる】と【金縛り】でしたっけ?」
「実は私、ファイト一発をしている気分はないのですが、金縛りを経験した事はあります・・・」
眠っている時に何かが乗っているとか、身体を押さえ付けられていたとか、目を閉じているはずなのに誰かの視線を感じるとか、閉め切っているはずの部屋に冷たい風を感じたのだと、アルトが医務室ではなく寮の部屋で体験した金縛り現象を話す。
「ファイト一発も怖いが金縛りも怖いな・・・」
「あっ・・・」
アルトの話を聞き恐怖で肩を寄せ合っているミスリル達の耳にヴィクトワールが間の抜けた声を上げる。
「悪い。実は古典の課題を教室に置いたままだという事を思い出したんだ」
「古典の課題って・・・」
ヴィクトワールの古典の課題という一言で、一同の顔から血の気が引いていく。
「アインスト先生は厳しいですからね」
「ヴィクトワール、今すぐ教室に戻って課題を取って来なさい」
「分かった」
シュトロームに言われたヴィクトワールは教室へと向かう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
十数分後
「遅いな」
「課題を取りに行くだけなのに」
「例えば、誰かに階段から突き落とされたとか?」
「それ、どこの恋愛小説に出てくるヒロイン?」
「シュトローム殿下・・・僕がヴィクトワールを連れ戻してきます」
今流行りの恋愛小説に出てくる、悪役令嬢に虐げられるヒロインではないが、ヴィクトワールの身に何かが起こったのかも知れないと不安になってしまったミスリルは教室へと走っていく。
ヴィクトワールはAクラスの生徒──・・・つまりミスリル、シュトローム、アルト、マルスはクラスメイトになる。当然彼等とは同じ教室である。
(ヴィクトワール?)
Aクラスの教室に着いたミスリルは、扉の前で座り込んでいるヴィクトワールに疑問を抱きながらも彼の元へと近づいて行く。
「ヴィクト「しっ!静かに!」
自分に話しかけようとするミスリルの口唇をヴィクトワールが自分の掌で素早く塞ぐ。
「ミスリル・・・昨日、シュトローム殿下が話していた『誰もいなくなった放課後の教室から呻き声が聞こえてくる』と、『何かを囁いている声が聞こえてくる』の真相が分かってしまったんだ──・・・」
「ど、どういう事?」
小声で話すヴィクトワールに合わせてミスリルもまた小声で問い掛ける。
「二人に見つからないように気配を殺してから教室を覗いてみろ」
「?」
ヴィクトワールの言葉に疑問符を浮かべながらも、気配を殺したミスリルが窓から覗く。
「うわ~っ・・・」
ミスリルは声を上げそうになったのだが、ヴィクトワールが自分の掌で彼女の唇を再び覆い隠す事で、二人に声が聞こえそうになるのを阻止する。
彼女が声を上げたくなったのも無理はない。
ミスリルの眼前に広がっていたのは、脛毛が濃い華奢で小柄な美少年がボディービルダーな兄貴を犯している姿だったからだ。
「ヴィ、ヴィクトワール・・・」
「俺が見た時は『君の柔肌を僕で征服したい』と告白した後に組み敷いていたな。で、今は二回戦に突入中」
二人の間に入り込めなくなってしまった俺は古典の課題を取りに行く事も出来ず、教室の扉の前で座り込んでいるという訳だ
「そ、そう・・・」
どう答えたらいいのか分からないミスリルは、死んだような目で遠くを眺めているヴィクトワールに相槌を打つ事しか出来ないでいる。
「二人のあれが終わるまで待つしかないのね・・・」
「そういう事だ」
彼等の間に入り込む度胸がないミスリルとヴィクトワールは、二人の愛の交歓が終わるまで待つ事にした。
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