公爵令嬢の男子校生活

白雪の雫

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⑤恋人の日-2-

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 「湯煎とは、炒め物や揚げ物のように直接食材に熱を加えるのではなく、食材が入っているボウルを湯が張っている鍋で温める事を言うのだな」

 で、チョコレートに限らず肉や野菜を切る時は猫の手にすると

 説明をしながら手際よくチョコレートを作っていくクリスに感心しながらも、ヴィクトワールは自分が分からないところを聞いては注意点をノートに記入していく。

 「しかし、上手いものだな」

 「料理っていうのは慣れだよ。僕だって最初はヴィクトワール君のように指を切ったり、直接チョコを鍋で温めたりして失敗していたんだよ?」

 ミスリル君にヴィクトワール君の想いが伝わるといいね

 「クリス!?何で、俺がミスリルを好きって知っているんだ?!」

 「そんなの、ヴィクトワール君を見ていたら分かるよ」

 だって、ミスリル君と一緒に居る時のヴィクトワール君って凄く楽しそうなだけではなく、何より嬉しいというのが見ているだけで伝わるんだよ

 顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせているヴィクトワールを前に、クリスが楽しそうに笑っている。

 「じゃあね」

 後、チョコレートだけではなく指輪やペンダント・・・アクセサリーと一緒にプレゼントした方が効果的だよ

 告白する場所は温室とか、庭園がいいんじゃないかな?

 ヴィクトールにそう言ったクリスは調理室を後にする。





 二人を見つめていた悲しげな視線に気付かぬまま──・・・。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 数日後

 やっと満足が出来るチョコレートが完成したヴィクトワールは、クリスのアドバイスに従い市場で買ったアクセサリーを手に寮へと戻る。





 その頃

 (男って言うのは私のようなガサツな女より、クリスのように守ってやりたいと思える小さな男の娘の方がいいのね・・・)

 公爵令嬢としての自分は『淑女の中の淑女』と謳われているが、所詮それはメッキでしかなく、幼い頃の綽名は十年経っても変わらないものなのだと、ヴィクトワールとクリスの遣り取りを思い出している彼女は自室のベッドで横になりながら男に負けたという事実に静かに落ち込んでいた。

 ミスリルは自分で自分を卑下しているが、そんな事はない。

 もし、この場に侍女が居たのなら、こう言ってくれただろう。





 『お嬢様の仕種一つ一つに艶でしょうか?色香でしょうか?何と言えばいいのか分かりませんが、そのようなものを纏っていると感じるようになりましたわ』

 『お嬢様はその方に恋をしていらっしゃるのですね』





 と───。





 だが、ここは男子校。

 ミスリルに的確な指摘をしてくれる侍女など居る筈がなく、思考のドツボに嵌まってしまった彼女はますます落ち込んでいく。

 そんな時、ヴィクトワールが学園から戻って来た。

 「ミスリル?」

 扉を開ければ部屋が真っ暗である事に気が付いたヴィクトワールは、ミスリルの身体の具合が悪いのかと思い彼女の身を案じるのだが、想い人である少女はぶっきらぼうに何でもないとだけ答える。

 (もしかしたら、あの日なのか?)

 「・・・薬でも貰ってこようか?」

 「・・・・・・いらない」

 (中途半端に優しくされると勘違いしてしまうじゃない!)

 何とも思っていないのであれば、今すぐにでも突き放して欲しい

 そう思っている事が出てしまったのか、ミスリルは自分の事を心配してくれているヴィクトワールに冷たく言い放ってしまう。

 (!!)

 「ヴィクトワール!その、そんなつもりでは・・・」

 自分の一言でルームメイトを傷つけてしまったのだと察したミスリルは慌てて謝ろうとするのだが、聞く耳など持たないのか、ヴィクトワールは無言のまま部屋を出て行く。










 「ヴィクトワール・・・」

 入園してから二ヶ月は挨拶しか交わさない関係だったが、ある事が切っ掛けで少し(?)親しくなった。

 そんなヴィクトワールは影となり日向となり、何かとミスリルをフォローしてくれている。

 しかし、それも自分の嫉妬が原因でヴィクトワールとの友情(?)が壊れてしまったという事実に、心の底から後悔しているミスリルは声を押し殺して嗚咽を漏らす。

 一度壊れてしまった友情は二度と戻らないと言う。

 「ヴィクトワール・・・ご免なさい」




 ミスリルの瞳からは大粒の涙が零れ落ちる──・・・。






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