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「どちらの国の王様になられるのですか?」
01
しおりを挟むルーナは目の前の二人に「あらまぁ」と目を丸くした。
「ルーナ! 僕はお前との婚約は破棄する! たかが他国の伯爵令嬢でありながら王の甥である僕に対してもえらそうな! 傲慢なお前を、このまま妻にすることはできない! そしてこの慎ましく淑やかな侯爵令嬢のフローディアを妻に、妃とする!」
「本当にわたくしを、妻に……ジェラルドさま……!」
「ああ、もちろんだとも……ディア、受けてくれるね?」
「……はい!」
まるで劇のように。二人にスポットライトが当たっていないのが残念だ。
ルーナはおもしろい喜劇をみせてもらったので機嫌良くうなずいて。
「よろしくてよ」
と。美しく微笑んで了承した。
「ではジェラルド様はわたくしの婚約者からは辞退をなさると。ローリス、国に早く伝えてくださる?」
お二人も早く結ばれたいでしょうし、とまた微笑んで。
彼女は傍らにいる騎士であり従者であるひとりにさっさと指示をした。
「要件はそれだけ? では下がってよろしくてよ」
そのあっさりとした態度。しかも命じるかのように。
せめて泣いて嫌がってみせるなどの可愛げもない。
ジェラルドはその様子が気に入らないと、ルーナに指を突きつけてくる。
半年前にようやく逢えた婚約者は、はじめから可愛げなく――ずっとこうした態度なのだ。
月夜の空のような青みある黒髪の。輝く不思議な銀灰色の瞳の神秘的な美貌の美少女で、出逢えた瞬間は心が締め付けられるような気持ちを抱いたが、この半年間。ようやく逢えたことを喜ぼうと、ジェラルドが話しかける度に、この調子だ。
常に、上から目線。
しかもまるで城壁のように、護衛のものたちが。二人きりにもなったことがない。
ジェラルドが幼馴染の侯爵令嬢に心が傾くのも仕方がない。
悪いのはルーナであろう。
「だ、だからそうした態度が気に入らないんだ! いつも上から目線! 貴様などたかが伯爵家だろう! だというのにこれ見よがしに毎日、護衛をぞろぞろと引き連れて! 何様のつもりだ!」
確かにルーナは伯爵家のものではある。
ジェラルドはこの国の公爵家の次男。母は降嫁した王妹で。
だから。
「次期王たる僕に無礼だぞ!」
彼は自分が王だと――。
幼い頃より「お前は王になれる」と母やその兄である王より、直々に。そう言われて育ってきた。
――だから気をつけて、良く学び良く鍛えるようにと伯父である王は伝えたつもりだったのだが。
「……えぇと?」
ルーナは可愛らしく首を傾げた。
「どちらの国の王様になられるのですか?」
と。
この国の王太子はジェラルドの年の離れた従兄弟ではなかったかしら?
この国の王の実のお子さまになるのよね?
先ほど挨拶なさっていたわよね?
確か三十手前くらい? そのお子さまがようやく五歳の年を迎えられたから、そろそろ王位を継がれるって話であったはず。
ルーナは首を傾げながらこの国の状況を思い出す。そう説明されてきたからだ。
ルーナはまだ十三歳。
その婚約者とあるジェラルドは二つ上だと聞いているが。
「いったいいつ、ジェラルドさまが立太子されたのでしょうか?」
「そ、そんなの幼い頃より……そう、言われたから……そうだ! 伯父様に! 陛下に!」
「まぁ、国王陛下が? ではこの国の王となられると?」
ルーナと話しているうちに、ジェラルドも「あれ、そういうことだよな?」と、ちょっと不安になってきた。
確かに伯父には「未来の王」と言われた。
しかし王太子は依然、従兄弟である。
気にしていたときに、ふと従兄弟たちとの年の差に気が付いて。
あ、自分が成人前だからか。
そこに至った。
きっとこの国の成人にあたる十八になったら自分が改めて王太子とされるのだろう。
「まあ、そういうご予定ならばもっと早く言ってくださればよろしいのに」
この国に来る前に聞いていた話と違うと、ルーナは不思議であった。
「そういうことならば、余計にわたくしとの婚約のお話しは無理ですわね」
そう、何故ならば。
「この国の後継ぎになる方をわたくしのお婿さんにはできませんもの」
「……お婿さん?」
ジェラルドも言われたことに首を傾げたとき。その広間にいた――実は王宮の舞踏会の最中だったのだ――ジェラルドの兄が慌ててジェラルドを取り押さえに来た。離れたところにいたからお疲れ様であり、監督不行きでもあり。
「この愚か者! 馬鹿者! っていうか何言ってんだお前!?」
そう、怒鳴りつけながら。
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