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10話

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「ニクス団長、大丈夫でしょうか……」

心配そうに聞こえるラーサティアの声だったが、俺は動けなくなっていた。
この病を知られてしまったのだ。

「何か飲みますか?それとも横になりますか?何かして欲しい事がありましたら何なりと」
「なっ、何で此処に……っ!」

見られてしまったことに慌て、見当違いの発言をしてしまうも、ラーサティアは心配そうに眉根を寄せていた。

「ニクス団長、あの夜に合った時から知っていました……団長が花を吐く姿を見てしまったのです……すみません、それでどんな病なのか調べてみました……図書館にも行き、文献を調べましたが公になっていることしか書いていませんでした。
不治の病だと。
でも、何か治療ができないかと王宮の図書館に行って調べたところ、一冊だけ他と違うことが書かれていたのです」

ラーサティアが紡ぐ言葉が右から左へ流れていく。
知っていた……だと?
それも、あの夜からだと。
一瞬言葉に詰まると、ラーサティアは俯きそれから顔を上げて言った。

「想い人を思うときに、花を吐くのだと」

ラーサティアの言葉に大きく頬を張られたような衝撃を受けた。
『想い人を思うときに花を吐く』
言葉が頭の中を巡る。
それはどう言う事だろうか。

「団長、誰かお心当たりがありますか?」
「……い、いや……俺に好いた人がいる……のか?」

疑問に疑問で返してしまうほど、頭の中は色々な言葉が巡っている。
『想い人』に、心当たりはないのだ。
そもそもずっと、騎士団に命を捧げてきた人間なのだ。
そんなことにうつつをぬかしている時間は無かった。
なのにどうして。

「そう、書かれていただけですから本当かどうかはわかりません。まだ未知の病ですので……もしかしたらという可能性を伝えただけなので、団長に心当たりが無ければきっとあの本に書かれていたことは、違ったのでしょう……申し訳ありません」
「いや、そ、その本にはその病が治ったかどうかは、書いてあったのか?」

心当たりはないが、もしかしたらと一縷の望みを掛けて聞いてみる。

「その、想い人と思いが成就し、完治した……と。でも……」

花吐き病は症例も少なく、得られる情報も少ないため、誤った事が書かれていることもあるのだと、ラーサティアは告げる。

「そう……か、ラーサティア言いづらかっただろうに、ありがとう」

俺のために調べてくれたのだろう。
それは、感謝しなければならない。

「少しだけ考えたい……ひとりにしてくれるか」
「わかりました、団長……」

ラーサティアはぎゅっと、目を瞑ってから目を開くとそれは華やかな笑みを浮かべた。

「私にできることがありましたら、言ってください。それでは失礼いたします」

頭を下げて部屋を出ていったラーサティア。
パタンと小さな音がした瞬間、俺はまた花を吐いた。



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