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24話
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会議が終わったのは日付も変わろうとする深夜。
流石に眠くなったと自室に戻る薄暗がりの廊下に影があった。
「ラーサティア」
呟いてしまった名前に影が動く。
ずっと待っていたのだろうか……。
「すまない、もしかしてずっと待たせていたか?入ってくれ」
近付くとやはり立っていたのはラーサティアだった。
鍵は掛かっていない。
「ニクス……様」
執務室に入ると、明かりを付ける前に後ろからラーサティアに抱き締められた。
「どうした?」
まるで幼子がするような行動。
「すみ、ません……」
「とりあえず座ろうか」
振り向きながらラーサティアの腰に手を回すとソファーへ誘う。
大人しくラーサティアは従うと、ソファーへと並んで座った。
「呼んで、悪かった……此処まで会議が長引くとは思わなくてな、何か飲むか?」
「結構です」
腰を上げようとして断られる。
「ニクス様……どうして、私が残らなければなりませんか?」
あぁ、やはりその質問かと目を伏せる。
「それなりの経験は積んできていると……思っていたのですが。それに、私には私を頼る親族もおりませんし……まさか、王族であるからでしょうか?」
静かな声音で激高することもなく淡々と喋るラーサティア。
「そうではない、帰る場所を護って欲しい」
ラーサティアを残すと決めた時に思った本心。
それにまだ若い。
「ラーサティアの実力は知っている」
「なら、後方支援でも伝令でも、どうか一緒にお連れください」
「それは出来ない。ラーサティア、わかってくれ……スタンピードが激しい戦いになるから、必ず戻ってくるためにラーサティアにはこの王都に残って欲しい。ラーサティアが居るから此処をなんとしても護ると思える」
頼むと、逸らしていた目をラーサティアに向けると、ラーサティアは静かに泣いていた。
「ラーサティア……」
「すみません……それでも、ニクス様の盾になることも背中を護ることもできませんか?」
静かに泣く姿に胸が締め付けられる。
だが、私情で職務を曲げる事は許されない。
「決まった事だ、だからラーサティア……これを」
俺は箱を取り出した。昨日買い付けた物だ。
「後先になってしまったが、今日ラーサティアを呼んだのはこれを渡したかったからだ」
箱を受け取りラーサティアが開くと、目が見開かれて零れていた涙が止まった。
「ニクス様……」
頬を流れ落ちる涙を拭ってやると、長い睫毛が震えている。
「ラーサティアの好みで無かったらすまないし、本当ならば一緒に選べれば良かったがそれもできなくて。だが、どうしても渡したかった……約束しよう必ず帰ってくる。帰ってきたら一緒に出掛けてラーサティアの好みの物を選ぼう?それまではこれで我慢してくれないだろうか」
箱を持つラーサティアの手をそっと包むようにすると、一度止まった筈の涙が再び溢れた。
「これを、いただいても……宜しいのでしょうか……私が……」
「ラーサティア……いや、サティにしかやるつもりは無い……」
「ありがとうございます」
蓋をそっと閉めたラーサティアは両手で大切に箱を胸の前で抱くようにしながら、極上の笑みを浮かべたのだった。
流石に眠くなったと自室に戻る薄暗がりの廊下に影があった。
「ラーサティア」
呟いてしまった名前に影が動く。
ずっと待っていたのだろうか……。
「すまない、もしかしてずっと待たせていたか?入ってくれ」
近付くとやはり立っていたのはラーサティアだった。
鍵は掛かっていない。
「ニクス……様」
執務室に入ると、明かりを付ける前に後ろからラーサティアに抱き締められた。
「どうした?」
まるで幼子がするような行動。
「すみ、ません……」
「とりあえず座ろうか」
振り向きながらラーサティアの腰に手を回すとソファーへ誘う。
大人しくラーサティアは従うと、ソファーへと並んで座った。
「呼んで、悪かった……此処まで会議が長引くとは思わなくてな、何か飲むか?」
「結構です」
腰を上げようとして断られる。
「ニクス様……どうして、私が残らなければなりませんか?」
あぁ、やはりその質問かと目を伏せる。
「それなりの経験は積んできていると……思っていたのですが。それに、私には私を頼る親族もおりませんし……まさか、王族であるからでしょうか?」
静かな声音で激高することもなく淡々と喋るラーサティア。
「そうではない、帰る場所を護って欲しい」
ラーサティアを残すと決めた時に思った本心。
それにまだ若い。
「ラーサティアの実力は知っている」
「なら、後方支援でも伝令でも、どうか一緒にお連れください」
「それは出来ない。ラーサティア、わかってくれ……スタンピードが激しい戦いになるから、必ず戻ってくるためにラーサティアにはこの王都に残って欲しい。ラーサティアが居るから此処をなんとしても護ると思える」
頼むと、逸らしていた目をラーサティアに向けると、ラーサティアは静かに泣いていた。
「ラーサティア……」
「すみません……それでも、ニクス様の盾になることも背中を護ることもできませんか?」
静かに泣く姿に胸が締め付けられる。
だが、私情で職務を曲げる事は許されない。
「決まった事だ、だからラーサティア……これを」
俺は箱を取り出した。昨日買い付けた物だ。
「後先になってしまったが、今日ラーサティアを呼んだのはこれを渡したかったからだ」
箱を受け取りラーサティアが開くと、目が見開かれて零れていた涙が止まった。
「ニクス様……」
頬を流れ落ちる涙を拭ってやると、長い睫毛が震えている。
「ラーサティアの好みで無かったらすまないし、本当ならば一緒に選べれば良かったがそれもできなくて。だが、どうしても渡したかった……約束しよう必ず帰ってくる。帰ってきたら一緒に出掛けてラーサティアの好みの物を選ぼう?それまではこれで我慢してくれないだろうか」
箱を持つラーサティアの手をそっと包むようにすると、一度止まった筈の涙が再び溢れた。
「これを、いただいても……宜しいのでしょうか……私が……」
「ラーサティア……いや、サティにしかやるつもりは無い……」
「ありがとうございます」
蓋をそっと閉めたラーサティアは両手で大切に箱を胸の前で抱くようにしながら、極上の笑みを浮かべたのだった。
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