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愛の結晶
最終話 永遠のふたり
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妖怪たちは王と花嫁を、盛大に祝い続けていた。飲んでは食べて。どんちゃん騒ぎ状態だった。
宮の広場には大きな丸い机がいくつかあり、食べ物が山盛りに置かれている。机は二段式で、下の階がくるくる回る仕様になっていた。それを回しながら飲み食いし、楽しそうに語らっている。
柱や木に吊るされている提灯は淡く光り、ゆらゆらと揺れた。そんな景色を彩るのはたくさんの花びらで、誰もが幸せの笑みを浮かべている。
「──あいつらは、何かしら騒ぐ口実がほしいんだろうさ」
宮の最上階からのぞく※阳台から、全 思風は椅子に座って眺めていた。足を組んで、肩肘を椅子のひじかけに置く。手のひらに顎を乗せ、盛大な溜め息を溢していた。
「もう思ってば。そんな身も蓋もない言い方して……」
隣では花嫁となる美しい少年、華 閻李が行儀よく椅子に腰かけている。
苦笑いをしながら、風に遊ばれる髪を手で押さえていた。
その姿は女神のように美しく、花とすら思える儚さを纏っている。
「……今回ばかりは、仔猫の意見に意義を唱えたい。だって、私と君の結婚式だよ!? 美しく、それでいて可愛い仔猫の、それはそれは庇護欲をそそる姿が、こうして目の前にあるっていうのに!」
「な、何か、おかしなの混ざってない?」
クスクスと、女神のように微笑んだ。彼をまっすぐ見つめる。紅染めの艶めいた唇に吐息を乗せ、穏やかに目を緩ませた。
「……でもさ。本当に、ここまで来るのに僕たちには、いろいろあったよね?」
「……そう、だね。今思えば、すべては私のわがままから始まった出来事な気がするよ」
過去に想いを馳せていたからこそ、今を生きる大切な存在に出会えた。最初こそぎこちない関係だった。けれどいつしかふたりは、互いを想い合っていく。
困難や苦悩、ふたりがそれぞれもつ悩み。どちらかが欠けても、幸せになったとしても、ふたりは心の中にわだかまりを残していただろう。
「──ねえ思、人に限らずだけど……感情を持つのなら、それはもうひとつの命なんだよ。苦しくて、やりきれなくても、生きていくしかない。たとえ今は一緒だったとしても、いつかは離れ離れになっちゃう」
「うん。そう、だね……それが、生きるということだ」
ふたりの前には、花びらが舞い続けていた。
──小猫は人間だ。私と結ばれ、結婚したとしても、寿命は変わらない。私を置いて、先に逝ってしまう。そこには、寂しさしかない。
長く、気が遠くなるような永遠に近い時間を、たったひとりで過ごす。それがどんなに辛くて、心が壊れてしまうことなのか。
全 思風は知っていた。けれどたとえ冥界の王の力を持ってしても、寿命は変えることができない。
「だから、かな。私は君を見つけた瞬間に思ったんだ。どんなことをしてでも、小猫と幸せになろう。たくさん愛そうって」
義務などではない。本心から、愛し人への告白だった。
「…………あのね思」
隣に座る美しい妻は、瞳に儚かを浮かべる。そして彼に耳を貸してと、あることを囁いた。
囁き終わると妖艶なままに、はにかむ。
「……っ!?」
瞬間、全 思風の頬に、一筋の雫が流れた。
眼前にいる美しい妻の姿が滲む。恐る恐る、少年へと手を伸ばした。
「…………ほ、んとうに? ……本当に、私たちの?」
両目を大きく見開く。右手は華 閻李の頬へ。左手は、少年のお腹を触る。
少年は目に涙を溜め、うんっと頷いた。彼の手を握り、涙ながらに微笑みを浮かべる。
「だからね、約束して。僕が逝ってしまったとしても、絶対に絶望しないって。この子を……これから産まれてく子供、そしてその子孫たち。すべてを……」
愛してあげて。守ってあげて。
風に乗って、少年の声が、さざ波のように穏やかに聞こえた。
「……うん。小猫、約束する! 絶対に守り抜くから」
「ありがとう、思」
ふたりは互いに両手を絡め合う。
皆が祝福しているなかで、唇を重ねた。
全 思風の、長く秘めた想いから始まった。
華 閻李の、本音を聞くことが怖いという気持ちから生まれた。
そしてふたりは……
新たな時代、新しい命とともに、未来へとともに歩み続けていった──
─────────────────────────
阳台(イァンタァィ) ベランダ、バルコニー
宮の広場には大きな丸い机がいくつかあり、食べ物が山盛りに置かれている。机は二段式で、下の階がくるくる回る仕様になっていた。それを回しながら飲み食いし、楽しそうに語らっている。
柱や木に吊るされている提灯は淡く光り、ゆらゆらと揺れた。そんな景色を彩るのはたくさんの花びらで、誰もが幸せの笑みを浮かべている。
「──あいつらは、何かしら騒ぐ口実がほしいんだろうさ」
宮の最上階からのぞく※阳台から、全 思風は椅子に座って眺めていた。足を組んで、肩肘を椅子のひじかけに置く。手のひらに顎を乗せ、盛大な溜め息を溢していた。
「もう思ってば。そんな身も蓋もない言い方して……」
隣では花嫁となる美しい少年、華 閻李が行儀よく椅子に腰かけている。
苦笑いをしながら、風に遊ばれる髪を手で押さえていた。
その姿は女神のように美しく、花とすら思える儚さを纏っている。
「……今回ばかりは、仔猫の意見に意義を唱えたい。だって、私と君の結婚式だよ!? 美しく、それでいて可愛い仔猫の、それはそれは庇護欲をそそる姿が、こうして目の前にあるっていうのに!」
「な、何か、おかしなの混ざってない?」
クスクスと、女神のように微笑んだ。彼をまっすぐ見つめる。紅染めの艶めいた唇に吐息を乗せ、穏やかに目を緩ませた。
「……でもさ。本当に、ここまで来るのに僕たちには、いろいろあったよね?」
「……そう、だね。今思えば、すべては私のわがままから始まった出来事な気がするよ」
過去に想いを馳せていたからこそ、今を生きる大切な存在に出会えた。最初こそぎこちない関係だった。けれどいつしかふたりは、互いを想い合っていく。
困難や苦悩、ふたりがそれぞれもつ悩み。どちらかが欠けても、幸せになったとしても、ふたりは心の中にわだかまりを残していただろう。
「──ねえ思、人に限らずだけど……感情を持つのなら、それはもうひとつの命なんだよ。苦しくて、やりきれなくても、生きていくしかない。たとえ今は一緒だったとしても、いつかは離れ離れになっちゃう」
「うん。そう、だね……それが、生きるということだ」
ふたりの前には、花びらが舞い続けていた。
──小猫は人間だ。私と結ばれ、結婚したとしても、寿命は変わらない。私を置いて、先に逝ってしまう。そこには、寂しさしかない。
長く、気が遠くなるような永遠に近い時間を、たったひとりで過ごす。それがどんなに辛くて、心が壊れてしまうことなのか。
全 思風は知っていた。けれどたとえ冥界の王の力を持ってしても、寿命は変えることができない。
「だから、かな。私は君を見つけた瞬間に思ったんだ。どんなことをしてでも、小猫と幸せになろう。たくさん愛そうって」
義務などではない。本心から、愛し人への告白だった。
「…………あのね思」
隣に座る美しい妻は、瞳に儚かを浮かべる。そして彼に耳を貸してと、あることを囁いた。
囁き終わると妖艶なままに、はにかむ。
「……っ!?」
瞬間、全 思風の頬に、一筋の雫が流れた。
眼前にいる美しい妻の姿が滲む。恐る恐る、少年へと手を伸ばした。
「…………ほ、んとうに? ……本当に、私たちの?」
両目を大きく見開く。右手は華 閻李の頬へ。左手は、少年のお腹を触る。
少年は目に涙を溜め、うんっと頷いた。彼の手を握り、涙ながらに微笑みを浮かべる。
「だからね、約束して。僕が逝ってしまったとしても、絶対に絶望しないって。この子を……これから産まれてく子供、そしてその子孫たち。すべてを……」
愛してあげて。守ってあげて。
風に乗って、少年の声が、さざ波のように穏やかに聞こえた。
「……うん。小猫、約束する! 絶対に守り抜くから」
「ありがとう、思」
ふたりは互いに両手を絡め合う。
皆が祝福しているなかで、唇を重ねた。
全 思風の、長く秘めた想いから始まった。
華 閻李の、本音を聞くことが怖いという気持ちから生まれた。
そしてふたりは……
新たな時代、新しい命とともに、未来へとともに歩み続けていった──
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阳台(イァンタァィ) ベランダ、バルコニー
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