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第1章 勇者を裁くだけの簡単なお仕事を始めました

閑話 女勇者は 赤く染まる

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 ここは 第7の国、 要塞のカードライン。 魔族の大地との境界線で、 常に小競り合いが続いている。 他の国では大規模な戦争レベルだが、 カードラインの兵士たちにとっては もはや日常茶飯時の出来事だった。

「 女勇者のマチルダの パーティーが、 ガードラインの防衛戦に参加するらしいぞ」
「娘子軍かよ」

 待機部屋に 、兵士たちの下卑た 笑い声が響き渡る。

 娘子軍とは、 兵士たちを色々とお世話する非戦闘員の娘のことだ。 料理を作り、会話して華やかに和ませて、 兵士たちのストレス 解消に努める。 娘たちはあらゆるご奉仕をしていた。 それは夜のお供も含まれる。


 女勇者マチルダのパーティーが到着したという知らせが届いた。
 男たちはいろいろ可愛がってやろうと考えている。
 ところが、その考えはすぐに消え去った。
 
 隊長マチルダパーティーの歓迎会を 開くことにした。

「 紹介しよう。こちらが女勇者マチルダとその仲間の皆さんだ」

 マチルダは美人の部類に入る。 しかし凛とした佇まいで、 何者も寄せ付けないような 威圧感を放っていた。


 マチルダパーティーはすぐに成果を上げていた。 戦場を駆け回り 、目まぐるしい勢いで魔物を次々と葬り去っていく。 そこには戦乙女の姿があった。

 男達は既に怖じ気づいて、 マチルダに声をかけようとする者はいない。
 ところが、彼女の方から 一人の男に声をかけてきた。

「 分からないことがあるんだけど、ちょっと質問してもいいかしら?」
「あ、ああ」
「 これなんだけど・・・・・・」

 マチルダは意外に気さくな性格で、 男たちとすぐに打ち解けた。
 
 やがて 酒を酌み交わすようになり、 マチルダは 慕われるようになった。

「 マチルダさんが助けてくれたおかげで幸せになれました。ありがとうございます」
「 私からもお礼を言わせてください。 ありがとうございました」

 毎日のように お礼を言われ続ける。 不満も ないことはないけれど、 マチルダは充実した日々を過ごしていた。


 ある日のこと。 女魔法剣士と精霊使いが 真剣な面持ちで報告してきた。

「 私たち、 結婚しようと思ってるの」
「 今日の戦いが終わったら式をあげたいと思ってるんだ」

 壮大なフラグを立てているようだが大丈夫なのだろうか。
 マチルダは 不安がよぎったけど、 とりあえず祝福の言葉をかけてあげることにした。

「 おめでとう」
「 ありがとう」

 魔法剣士は気が早く、 嬉し涙を浮かべている。 その横に精霊使いがそっと寄り添った。


「 マチルダ、真剣な話があるんだ。聞いてくれ」

 マチルダは 神官戦士から 呼び出されて、 いつになく真面目な表情で 見つめられていた。

 ついにこの時が来たのね。

 マチルダのパーティーは、 女二人と男二人のメンバーである。 残り物同士で付き合うのも悪くないかもしれない。
 神官戦士は 顔は悪くないし、 気さくに話せる間柄だ。 悪くないどころか好条件だと言える。

 マチルダは胸の高まりを抑えられなかった。

「な、 何の話かしら」
「 実は俺、 結婚したいと思ってるんだ」
「 そうなのね。でも、いきなり言われても困るわよ?」
「 そうだよな。 どういう風にプロポーズしたらいいと思う?」
「はい?」

 神官戦士は今、 マチルダに 愛の告白をしているのではなかったのだろうか。
 
「 他の冒険者パーティーの 女の子に一目惚れして・・・・・・ こんなこと 打ち明けられるのはお前しかいないんだ。 頼む、相談に乗ってくれ」
「そうなのね・・・・・・」

 マチルダが素敵な勘違いによる、自爆 失恋をした瞬間だった。


 結婚宣言の フラグのせいなのだろうか。 戦場の中でマチルダたちは、 スタンピード に匹敵するのではないかというくらいの 魔物の襲撃に遭い、 仲間達とはぐれてしまった。
 マチルダはオークの 集団に囲まれてしまった。 どんな目に遭わされるかわかったものではない。

「くっ、 殺せ!」

 マチルダは抵抗の意志を瞳に燃やした。
 しかし、オークたちは 顔を見合わせて、 一向に襲い掛かってくる気配がない。

「 そこの女勇者さん、 大丈夫だった?」
「 怪我してなかった?」
「えっ? ええ・・・・・・」

 マチルダは戸惑いつつも頷いた。

「 それは良かった」
「 それでは、僕たちは帰ることにした」

 性欲の塊であるはずのオークたちが あっさりとこの場を後にしてしまった。

「オークにも 相手にされないなんて・・・・・・」

 マチルダは別に酷い目に遭たいというわけではないが、 内心では複雑な思いが渦巻いていた。 彼女は薄々気づいていたのである。 【魅了】スキルがなくなったせいで、異性として意識されなくなったということを。
 一生結婚できないどころか、 付き合うことさえままならないかもしれない。

「くっ、 殺せえぇーっ!!!」

 マチルダは血の涙を流し、 感情をぶちまけるように 叫び声をあげるのだった。

 

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