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第4章 勇者候補に 女神の裁きを与えることにしました

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 何がどうなっているのでしょうか。さっぱり分かりません。
 ジャックは 次々と人々を襲い、 襲われた人達は衰弱していきます。 命まで奪うつもりはないようですけど・・・・・・ 果たして、彼の目的は何なのでしょうか。
 メリッサを守らなければいけないので、 迂闊に動くことはできません。
 私は 冒険者カードを取り出して 、ガルヴァスに 連絡を取ることにしました。

「ガルヴァスさん、 大変です!」
「ああ、 ジャックが現れた。ロニが 間違いなく殺したはずなのだが・・・・・・」

 ガルヴァスは ジャックの一人と戦っているようです。しかし、 複数存在することには気づいていないようです。

「 ジャックは一人ではありません!」
「【 分身】の スキルでも待っているということか?」
「 そのようですね。 街で暴れているのは全員ジャックの偽物なので、 本物がどこに身を隠しているのかはわかりません」
「【神の眼】でも サーチすることができないのか?」
「 ジャック の気配は一切感じられません。 ごめんなさい・・・・・・」
「いや、 ルナマリアが悪いわけではない。 それよりも、他のジャックはどこにいる?」

 ガルヴァスは、 私と会話しながらジャックを片付けていました。 さすがベテラン冒険者ですね。 数は多いけれど、 彼に任せることにしましょう。

「 一番近いのは右の通路です」

 私はガルヴァスを 誘導して、 一番近いジャックの所まで案内しました。ガルヴァスが ジャックを倒して、 再び私が案内します。 それを繰り返しました。
 ガルヴァスの 実力ならば、 苦戦することなくジャックを倒すことができます。でも、数が多すぎます。

 ロニは 私の案内がなくてもジャックと遭遇し続けて、ガルヴァスほどではありませんけど、 次々と ジャックの偽物を血祭りにあげていきます。

 クロードは苦戦しているようです。 ギリギリの攻防の末、 なんとか一人に勝てるような状態です。 私が補助魔法と回復魔法をかけてあげなければ、 今頃は地に伏せていたかもしれません。 残念ながらそれほどの実力差があるのです。

 私たちの前にも ジャックが現れました。戦闘開始です。 今回は 途中で助けが来ることは期待できません。私とユメリアだけで 戦うしかありません。

「ユメリア、 牽制攻撃です!」
「はいですぅ!」

 ユメリアは 私の合図で 弓矢を放ちました。 命中しないことはわかっています。 私はジャックが仰け反ったところで、【 マジックボール】を 発動させました。 ナイフも素早く投擲します。
 ジャックは全ての攻撃を 回避し続けました。

「【 エナジーアロー】ですぅ!!!」

 ユメリアは 必殺技を発動しましたけど、 残念ながら明後日の方向に飛んでいってしまいました。 彼女の弓矢には何も期待していません。 想定の内です。

「【 アクセルブースト】!」

 私は補助魔法で加速して、 ジャックに接近戦を挑みます。 間合いに入る直前に 私は両手でナイフを 二本投擲しました。しかし、 スピードは緩めるどころか、 さらに加速して 一気に 手の届くところまで距離を詰めました。
 私は右手にナイフを持って、 斬りかかるふりをします。 これはフェイントで、 私は 収納魔法からヘビーメイスを取り出して、 左手で思い切り振り回しました。

「【 ストロングアーム】!」

 分身はスキルにより生み出された 偽物です。 人間というよりも魔物に近い存在です。 だから私は、躊躇することなく ジャックの 頭蓋骨を粉砕しました。
 私はフルスイングした反動で、 バランスを崩して 倒れそうになりました。 その隙を狙ってもう一人ジャックが現れて、 私の喉元を狙って ダガーを 閃かせました。

「【 プロテクション】!」

 私は咄嗟に防御魔法を唱えました。なのに、 ジャックの攻撃がすり抜けてしまいます。
 この感覚は覚えがあります。 ストリングボウと 同等の効果で、神聖魔法を 封じるもののようです。 それ以外の補助魔法は発動することができたから、 私は余計に油断していました。
 このままでは殺されてしまいます!

「ぎゃああ!?」

 私の断末魔ではありません。 明後日の方向に 飛んで行ってしまったはずのユメリアの弓矢が ジャックの右手に命中して、 彼はダガーを 地面に落としました。 私は咄嗟にそのダガーを 蹴り飛ばしました。
 ユメリアが 再び 射撃します。 ジャックは警戒して、 その弓矢を 予備のナイフで 斬り落としました。 注意が私からそれたところで、 私は今度は両手でヘビーメイスをフルスイングしました。
 ジャックは間一髪避けて、 反撃してきます。

「くっ・・・・・・!」

 ジャックの一撃は 私の 二の腕をかすめました。 かすり傷程度でも痛いものは痛いです。

「 本気で行くですぅ! 三撃必殺! 【 スリーウェイシュートアロー】!!!」

 ユメリアは 3本の弓矢を同時に発射させました。 それぞれの弓矢が 予測不能な動きをして、 ジャックを翻弄します。
 私はどうせ当たらないから、 囮攻撃にしかならないと思っていました。 ところが、 3本の矢のうちの一本が ジャックの心臓を 貫きました。

「 二本の弓矢で距離を測ったり誘導することで、 3本目の弓矢をクリティカルヒットさせるですぅ。これが私の【三撃】スキルですぅ!」

 ユメリアは 確かに役に立ってくれました。 的外れな攻撃のようでも、 実はちゃんとした理由があったのですね。でも、 彼女のドヤ顔がうざいです。

「あの・・・・・・」

 メリッサが 何かを決意したような真剣な表情をして、 私に話しかけてきました。

「 よくわからないけど、 町で何かが起きているんですよね?」
「 はい、そうです」

 隠しておいてもすぐに 騒ぎ声が聞こえてくると思うので、 私はメリッサの質問に正直に答えることにしました。

「 だったらルナマリアさん達は、 他の人達を助けに行ってください」
「でも、 メリッサさんが 襲われる可能性が高いから、 離れるわけにはいきませんよ」
「 どうせ襲われるというのなら、 騒ぎの中心に行きましょう。 私を含めて、みんなを守ってあげてくださいね」

 メリッサの決意は固いようです。 仕方がありませんね。

「 あまり無茶はなさらないでくださいね」

 私はそう釘を刺しつつ、 メリッサの動向を許可することにしました。



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