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「ありがとうございます。ですが領地を正しく運営して頂ければ、それ以上は不要です。」

ここで押し問答しても埒が明かないと思ったのだろう。ケイビスは話を変えるようにクレメントのことを尋ねた。

「兄にはいつ話をなさるのですか?」
「領地経営も早々になんとかなりそうなので、今日明日にでも」
「それほど早くですか?」

あまりの性急さにケイビスが驚いて答えると、アリアナは心配そうに尋ねた。

「今お任せするとまずいでしょうか」
「その点は大丈夫ですが。アリアナ殿がそれほど急にいらっしゃらなくなるとは思わず…」

寂しげに呟くかれてアリアナは微笑む。

「私でお役にたてることならいつでも相談に乗ります。」
「ありがとうございます。」
「それで、クレメント様の処遇なのですが…」
「はい」
「ケイビス様付きの使用人にさせて頂くことをご了承いただけますか」

想定しなかったであろう申し出にケイビスは戸惑った表情でアリアナを見つめた。アリアナはからかうようにケイビスに尋ねる。

「意外でしたか?」
「そうですね…てっきりハンゼ公爵家から追放されるのか、と。」
「実はそれも考えました。ですが、目の届かぬところで公爵の名を騙って問題ごとを起こさないとも限りませんし。それであるならばいっそ、ケイビス様のもとで働くようにさせた方が後顧の憂いもないかと。私の夫がご迷惑をおかけしますが。」

わざとらしくアリアナが謝るとケイビスは苦笑いして答えた。

「兄があのようになってしまったのを正せなかった私達の方に責はあります。公爵家の跡取りとして、私の言うことなど聞かなかった兄ですが、立場が変われば御することもできると思います。」
「ええ。」
「結局、アリアナ殿に全てお膳立てさせてしまいましたね。」

申し訳なさを滲ませながら話すケイビスをアリアナは温かい瞳で見つめた。

「それが私の目的でしたから。どうか気になさらないで。ケイビス様にお任せできることで私も憂なくクレメント様とお別れできますし、感謝するのは私の方です。」

ふふっと笑うアリアナをケイビスは眩しそうに見つめた。

「ありがとうございます。」
「それでは明日の午後に申し訳ありませんが再度お越しいただけますか。簡単な引き継ぎをさせて頂いてから屋敷を去りたいと思います。」

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