後宮にて、あなたを想う

じじ

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57 蔡怜の疑問

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「皇帝陛下の御成です」

短く告げた宦官の声と共に、もはや見慣れた皇帝が現れた。

「ようこそおいでくださいました。お忙しいところお呼びだてしてしまい申し訳ございません。」
「よい。あなたからの誘いなど珍しいからな。今日は茶一杯と言わずにゆっくりさせてくれ」

冗談めかして答えた皇帝に、蔡怜は真面目な声で答えた。

「残念ながらお茶だけでは済まないかもしれません。軽食をご用意しておりますので、お召し上がりながらお聞きいただけますか」
「どうした。何か分かったのか」

表情を引き締めて聞く皇帝に蔡怜は先に断りを入れた。

「例の件ではございません。ただ、その一環として、楊充儀様の侍女にお聞きしたいことがあり、充儀様にお会いしたのですが、その時陛下にお伝えして欲しいことがあると仰いまして。」
琉麗りゅうれいがか。」

蔡怜のことですら皇后としか呼ばない皇帝が、突然名前を口にしたことに蔡怜は驚いた。

「楊充儀様とずいぶんお親しいのですね。」

思わず口をついて出た言葉が宙に浮く。

「まあ、義妹だからな。どうした。」

不思議そうな顔をされ、蔡怜は居た堪れなくなった。
様々な思惑が絡んだ上での現在の自分の地位。柳栄のように皇帝から慕われて与えられたわけでもないのに、少し頼られたくらいで良い気になっていた自分を恥じた。

「いえ、申し訳ございません。陛下が女人の名前を口にされるのが珍しくて、驚いてしまいました」

ふふ、と微笑んで誤魔化す蔡怜を見て、皇帝は笑いながら続けた。

「あなたが私を名前で呼んでくれるなら、あなたのことも名前で呼ぼう」
「いえ、それは…」
「冗談だ。それで、琉麗の話を聞いてよいか」

からりとした口調で話題を変えた皇帝に感謝しながら蔡怜は話し出した。

「つまり、端的に言うと姉上の楊家での立場が悪いと言うことか」

眉間を指で押さえながら皇帝がため息を吐く。

「そのようです。味方はご夫君と充儀様だけだったようです」
「そうか。嫌な予感はしていたが…」
「書簡のやりとりはされていなかったのですか。」
「いや。だが、私に心配をかけるような内容は全くなかった。だからかえって心配だったのだが。」
「そうですね」
「さて、どうしたものか…」
「御子の件は一旦置いておきましょう。それこそ、陛下がご心配されたところでどうなるものでもございません。」
「なかなか言ってくれるな」
「ですが本当のことです。一番早いのは楊一族から姉上様を離れさせることですが、可能ですか」

考え込む皇帝に蔡怜は、再度問いかけた。

「離縁が難しい理由はなんでしょうか」






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