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【第35話】
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ゆかり、ごめんな……。
娘のことを想うと、高木はあるはずのない胸が引き裂かれんばかりだった。
その想いを知ってか知らずか、
「元気を出してください。ゆかりさんなら大丈夫ですよ。強い生徒ですから。いままでだって、お父さんがいなくてもへっちゃらって感じで、学校でもすごしていたんですから」
信夫は元気づけようと言ったのだろうが、高木は更なるディープに打ち沈んだ。
そんな高木をよそに、信夫は考えるふうをする。
「あの、つかぬことをお訊きしますが、高木さんは死んだわけですから、当然、通夜と葬儀は執り行われますよね」
「当然じゃねえか」
「ということはですよ。ゆかりさんの父親は高木さんなわけで、そうなると、どうなんでしょう。その葬儀には、僕も参列するべきなんでしょうか」
「って、俺に訊くな」
「あ、そうですよね。高木さんの葬儀なのに、本人に訊くっていうのはおかしいですね。ハハハ」
「ハハハ、じゃねえよ、まったく……」
高木はため息をつき、そこでふと考えた。
果たして自分の葬儀はどうなるのかと。
いったいだれが執り行ってくれるのか。
考えてみても思いつかない。
いや、というよりまったくあてがないのだ。
親族と呼べるのはゆかりをおいて他になかった。
高木には兄弟はおらず、親戚には父の弟である叔父がひとりいるが、その叔父のことはかすかに憶えているだけである。
高木がまだ幼いころ、生前の父と叔父とのあいだになんらかのトラブルがあり、それ以来、絶縁状態になっていた。
ふたりのあいだにいったい何があったのかは、ずっとわからずにいた。
父は生前、そのことに一切ふれようとはしなかった。
とはいえ、ふたりのあいだに何があったにせよ、父が肝硬変を患って入院したことを母からの連絡で知りながらも見舞いに訪れず、葬儀の弔問にも来なかった叔父に、高木は憤りを感じずにはいられなかった。
それだけに、母が他界したときには訃報を知らせず、それどころか、叔父の家の電話番号さえもスマート・フォンのメモリーには登録していなかった。
いまでは記憶からも消去されてしまっているだけに、叔父に連絡をつけるすべはない。
他の親戚といえば、どれも遠く、顔どころか名前も知らないのだから他人もおなじだった。
となれば、葬儀を執り行ってもらうとするなら、ゆかりと血を継ぐ義父母しかいない。
だがしかし、その義父母からしてみれば、娘の佐代子が他界したことで高木とは縁が切れていると思っているであろう。
もう義理の息子だとも思っていないはずである。
ましてや、実の娘に会いにも来なかった高木を、父親としても認めはしないだろう。
いや、それ以前に、高木がゆかりの父親だとしても「それはそれ」でしかなく、義父母にとってゆかりは「娘の子」であり、高木の葬儀を執り行う義理などはないのだ。
それを思うと、またもや高木は打ち沈んだ。
「俺の葬儀はないかもな」
声までがダーク色に染まっている。
「どういうことです? それ」
「俺の親はどっちも他界してるし、おまけに親戚とは連絡の取りようがないしな。葬儀をやってくれる身内なんていないのさ。俺の身内はゆかりだけだからよ……」
言葉にすると心が軋む。
「それはゆかりさんの祖父母である野中さんが、きちんとやるべきですよ。そうでなければおかしいです。高木さんは、ゆかりさんの父親なんですから。孫のゆかりさんのためにも、立派な葬儀を執り行って冥福を祈るのが、祖父母としての役目じゃないですか」
信夫が言った。
「…………」
考えてみれば、義父母が高木を赤の他人と思うのであれば、わざわざ病院に行ったりはしないだろう。
そして高木の引き取り手がないことを知れば、それなりに対処するはずである。
義父母がどう思おうと、高木はゆかりにとって血を分けた父親なのだ。
信夫の言うように、ゆかりのことを想えば無下な扱いはできないはずである。
それに高木は300万の現金を所持していた。
それがあれば、そこそこの葬儀を執り行うことはできるだろう。
病院まで行って、まさか遺体を引き取らないってこともないよな……。
勝手にそう思いこむと、ダークに染まった高木の心に一条の光明が射した。
娘のことを想うと、高木はあるはずのない胸が引き裂かれんばかりだった。
その想いを知ってか知らずか、
「元気を出してください。ゆかりさんなら大丈夫ですよ。強い生徒ですから。いままでだって、お父さんがいなくてもへっちゃらって感じで、学校でもすごしていたんですから」
信夫は元気づけようと言ったのだろうが、高木は更なるディープに打ち沈んだ。
そんな高木をよそに、信夫は考えるふうをする。
「あの、つかぬことをお訊きしますが、高木さんは死んだわけですから、当然、通夜と葬儀は執り行われますよね」
「当然じゃねえか」
「ということはですよ。ゆかりさんの父親は高木さんなわけで、そうなると、どうなんでしょう。その葬儀には、僕も参列するべきなんでしょうか」
「って、俺に訊くな」
「あ、そうですよね。高木さんの葬儀なのに、本人に訊くっていうのはおかしいですね。ハハハ」
「ハハハ、じゃねえよ、まったく……」
高木はため息をつき、そこでふと考えた。
果たして自分の葬儀はどうなるのかと。
いったいだれが執り行ってくれるのか。
考えてみても思いつかない。
いや、というよりまったくあてがないのだ。
親族と呼べるのはゆかりをおいて他になかった。
高木には兄弟はおらず、親戚には父の弟である叔父がひとりいるが、その叔父のことはかすかに憶えているだけである。
高木がまだ幼いころ、生前の父と叔父とのあいだになんらかのトラブルがあり、それ以来、絶縁状態になっていた。
ふたりのあいだにいったい何があったのかは、ずっとわからずにいた。
父は生前、そのことに一切ふれようとはしなかった。
とはいえ、ふたりのあいだに何があったにせよ、父が肝硬変を患って入院したことを母からの連絡で知りながらも見舞いに訪れず、葬儀の弔問にも来なかった叔父に、高木は憤りを感じずにはいられなかった。
それだけに、母が他界したときには訃報を知らせず、それどころか、叔父の家の電話番号さえもスマート・フォンのメモリーには登録していなかった。
いまでは記憶からも消去されてしまっているだけに、叔父に連絡をつけるすべはない。
他の親戚といえば、どれも遠く、顔どころか名前も知らないのだから他人もおなじだった。
となれば、葬儀を執り行ってもらうとするなら、ゆかりと血を継ぐ義父母しかいない。
だがしかし、その義父母からしてみれば、娘の佐代子が他界したことで高木とは縁が切れていると思っているであろう。
もう義理の息子だとも思っていないはずである。
ましてや、実の娘に会いにも来なかった高木を、父親としても認めはしないだろう。
いや、それ以前に、高木がゆかりの父親だとしても「それはそれ」でしかなく、義父母にとってゆかりは「娘の子」であり、高木の葬儀を執り行う義理などはないのだ。
それを思うと、またもや高木は打ち沈んだ。
「俺の葬儀はないかもな」
声までがダーク色に染まっている。
「どういうことです? それ」
「俺の親はどっちも他界してるし、おまけに親戚とは連絡の取りようがないしな。葬儀をやってくれる身内なんていないのさ。俺の身内はゆかりだけだからよ……」
言葉にすると心が軋む。
「それはゆかりさんの祖父母である野中さんが、きちんとやるべきですよ。そうでなければおかしいです。高木さんは、ゆかりさんの父親なんですから。孫のゆかりさんのためにも、立派な葬儀を執り行って冥福を祈るのが、祖父母としての役目じゃないですか」
信夫が言った。
「…………」
考えてみれば、義父母が高木を赤の他人と思うのであれば、わざわざ病院に行ったりはしないだろう。
そして高木の引き取り手がないことを知れば、それなりに対処するはずである。
義父母がどう思おうと、高木はゆかりにとって血を分けた父親なのだ。
信夫の言うように、ゆかりのことを想えば無下な扱いはできないはずである。
それに高木は300万の現金を所持していた。
それがあれば、そこそこの葬儀を執り行うことはできるだろう。
病院まで行って、まさか遺体を引き取らないってこともないよな……。
勝手にそう思いこむと、ダークに染まった高木の心に一条の光明が射した。
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