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第1章:全ての始まりは東から
試練の内容
しおりを挟む「野営…ですか?」
「そうだ。」
「魔物退治とかそういう類いのものではなく…?」
「そんな危険なもの、この蒼の国にはおらぬ。神の聖域にそのようなものが入り込むなど…そもそもが有り得ぬことだ」
言われてば…確かにそうだとしか言わざるを得ない。
けどそうだとすると尚更意味が分からない。
魔物がいないってことは、つまり危険が無いということになる。
そんな危険も何もない場所で野営だなんて…そこに何の意味があるのだろう。
「誠意とは…いわば、想う心だ。己ではなく、他の為、人の為に何かを願う時…そこには必ず誠意が生まれる。自ずとな…」
青龍の言葉を受けて、不意にウイットさんがこんな言葉を洩らした。
「・・・皆んなで仲良く、ねぇ…。」
「ウイットさん、それってどういう…?」
「要するに、親睦を深めろってことだよ。僕達って産まれは同じでも、互いのことは良く知らない…だから、互いを想い合う心がない。…まぁキミと姫様は違うかもしれないけどね」
「それは…っ」
ー否定、出来なかった。
オレは小さい頃からセイラ姫の側にいるから…姫の為にこの場所へとやって来ることに迷いや戸惑いはなかった。
姫の為なら何をやっても惜しまない、その覚悟があったから。
…けど、ズワートさんとウイットさんのことは稽古の様子を見たり噂に聞く程度で…本当のところは何も知らない。
あの時抱いた違和感の正体…もしかしたら青龍はそんなオレ達のことを見据えていたのかもしれない。
ズワートさんやウイットさんのことだけでなく…オレ達、四人の関係性について。
「もはや、説明は不要…といったところか」
「はい」
オレは頷く。それは皆も同じだった。
「…よろしい」
青龍はそう言うと、突然韻律を響かせながら詠唱を口ずさんだ。
すると、忽ち周囲の景色は瞬く間に変わり、目の前に広がるのはーー見渡す限りの木や草花、そして、一際目立つあの大きな川だった。
そう…オレ達は戻って来たのだ。あの、森の中へと。
「ここは…青龍と初めて出会った場所ですね」
「ついでに言うと脳筋が刀で抑え込まれた場所でもあるよね~」
「…うるせぇな」
「でも、ほんと不思議…さっきまであんな大きな建物の中にいたのに…」
セイラ姫は辺りをキョロキョロと見渡している。
一度経験しているとはいえ、こうも容易くこの変貌ぶりを見せられると確かに圧巻の力としか言いようがない。
かくいうオレ自身も現にこうして、その力に圧倒されている。
…やっぱり少しは気にしているのだろうか。
未熟と言われた己の不甲斐なさを。
「ハルト…大丈夫?元気がないみたいだけど…」
「あ…いえ、なんでもありません。それよりも試練、一瞬に頑張りましょうね」
「…うん。でも、あんまり気にしちゃ駄目だよ。ハルトは全然未熟とかじゃないから!」
「・・・ありがとうございます、セイラ姫」
どうやら姫には全てお見通しだったようだ。
思えば昔からそうだった。オレが隠し事をしても姫はすぐに気付いてしまう。
本当に人の心に敏感で、とても優しい人だ。
「…姫様と守護者くんは本当に仲が良いんだね」
「え、あ…!それは、その…っ!」
「ううっ…」
…ついつい過剰に反応してしまった。
姫に至っては下を向いて俯いてしまう始末だ。
ど、どうしよう。こういう場合、なんて答えれば…。
「あ、あの!私…辺りを探索して来ます!野営するなら、食べ物が必要ですよね!」
「え、でも一人では流石に…!オレも一緒にいきますよ!」
「ううん、だって青龍様が危険はないって言ってたもの。だから、大丈夫!」
「ですが…」
そうは言っても、あくまでそれは魔物に限っての話だ。
青龍のいる蒼の国とはいえ、一応ここは森の中。
いくらなんでも生物がいないとは考えにくい。
「なら、僕が姫様と一緒に行ってこようか?」
思わぬ提案だった。
確かにウイットさんが居てくれれば心強い。
それに、試練の目的は親睦を深めることでもあるんだ。
これはセイラ姫にとっても良い機会かもしれない。
「ウイットさんさえ良ければ、姫のこと…よろしいお願いします」
「はい、じゃあ決まり!セイラ姫、護衛なら僕に任せてね~」
「よ、よろしくお願いします!…あ、でも…ハルトはどうする?」
「あっ…」
姫に言われてハッとする。
食べ物は姫とウイットさんに任せるとして…オレは何をすればいいんだろう。
野営といえば…寝床?けど、寝床ってどう作れば…。
「ー守護者のことなら俺に任せろ」
そうしてオレが一人悶々としていると、唐突にズワートさんが声をかけてきた。
「へぇ…今の今まで黙ってたと思ってたら、結局は差し出るんだ」
「…試練については俺も同意の上だからな。それに理由もある」
ウイットさんに続いてズワートさんまで…有り難い提案とはいえ、ズワートさんの場合はどこか意味深げのように思えた。
その理由って、もしかして…。
「ーーお前、俺に何か聞きたいことがあるんだろ?」
ああ、やっぱり。ちゃんと覚えていてくれたんだ。
「…ふぅん、まぁいいけど。じゃあ、セイラ姫。行きましょうか」
「はい!じゃあハルト、行って来るね!」
「……はい、お気をつけて」
「うん!」
セイラ姫は終始、笑顔だった。
去って行く後ろ姿もどこか嬉しそうで…もしかしたら姫は案外この試練を楽しんでいるのかもしれない。
セイクリッドット王国では外に出る機会なんて全くなかったから、姫からしたらこの試練も新鮮なんだろうな。
…あの予言から姫は随分落ち込んでいたけど、少しずつ元気になってくれて本当良かった。
「・・少しは肩の荷が降りたみたいだな」
「…そうかもしれません」
ズワートさんて…屈強な見た目な上に少し強面で近寄り難い印象だったけど、こうして改まって話す分には普通に接してくれるんだな。
…なんだか、ウイットさんといる時とはまるで違う。
「…ズワートさんに聞きたいことがあります」
「言ってみろ」
オレがどうしてもズワートさんに聞きたかったこと、それはーー
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