陰陽占師と土地神様

猫狐

文字の大きさ
2 / 5

腐れ縁 1

しおりを挟む
朝五時。燈寿家の娘である珊瑚は家である神社を掃除していた。
現在燈寿家は東京に住んでいる。しかし燈寿家の力は場所が変わっても絶大であり、それ程大きくない神社にも関わらず毎日お賽銭が入り、初詣に至っては連日千人は軽く超える人が並ぶ程である。

そんな掃除中の珊瑚にふと外から声がかかった。

「よっ珊瑚。相変わらず早起きだな」
「あったり前でしょ。てかアンタが早起きしている方が驚きよ、真斗」

夜摩真斗。私の幼馴染……いや、腐れ縁である。切ろうと思っても切れない、そんな男だ。

「いや辛辣だな。お前、学校では丁寧で完璧美少女なのに何で俺に当たり強いの?」
「アンタなら何言ってもいいと思ってるからよ」
「嬉しいな!」
「褒めてないわよ?」

そう、私は学校では完璧美少女として振舞っている。
真斗や周りが言うには、容姿端麗、丁寧な振る舞い、燈寿家としての占いの力。学業も全科目そつ無くこなす頭脳。

そのせいか入学して数日で告白されたりした事もあった。最近では同学年、先輩構わず告白される。

「いやー、そんな完璧美人さんがこんな乱暴で更にはお金に目がないなんて知ったら皆どう思うかな」
「うっさいわね!この箒ぶん投げるわよ!」

腐れ縁であることもあり、彼は色々と私の事を知っている。
おぉ、怖いと肩を竦める彼だが、家族を除けば私の本性を知るのは彼だけだ。

確かに人を助けるのは好きだけれど、先代までのようにお金に無頓着、どころかお金は大好きだし、八方美人を演じているだけで乱暴な所はある。それが腐れ縁に知られている事で何故か腹が立ってきた。

「んじゃ、また学校でな~。迎えはいるか?」
「迎えが必要なのはアンタじゃないの?二度寝しないでよね」

その言葉を聞くと笑って彼は去っていった。
何となくイライラしながらも、神社の掃除を終わらせて、巫女服から制服に着替えて髪を結う。
大体六時頃になると、母がご飯を作って待ってくれている。

「今日は真斗君起きたのね!朝から元気な声が聞こえてきたからお母さん嬉しいわぁ」
「う、うぐぅ」

大抵の場合、真斗は学校の一時間目にギリギリ間に合っているか、間に合っていないかの瀬戸際を攻めていた。幼馴染ということもあり、真斗をその前に叩き起すのは私の役割だ。
何故私が起こさないといけないのかと思いつつも、味噌汁を啜りながら母親に話かける。

「お母さん、ずっと思っていたんだけどさ」
「うん?どうしたの。改まって」

これはずっと気になっていた。いや、燈寿に生まれたからこそだろう。燈寿に生まれなければこんな悩みはなかったはずだ。

「お母さんもご先祖様もさ、お金や権力とかには無頓着だったわけじゃない。それで当代の燈寿家の娘がこんな子だって知られたら。土地神様は幻滅していなくなっちゃうのかな」

テレビではこの地域は晴れだと放送していたが、私の帰る時間にはにわか雨が降るだろう。それは燈寿の占いを持って知ったことだ。
様々な悩みに手を貸した燈寿の血筋。その娘がこんな今までとかけ離れていていいのかという不安だった。

少し頬に人差し指を当てて考えていた母は言った。

「いいんじゃないかしら?」
「えっ?」

その返答に思わず声が出る。ダメ、とか居なくなるかもしれない、と思考しながら投げた問いだったからだ。

「確かにご先祖様は権力に無頓着だったし、お母さんも正直なところお父さんの働きと神社や寄付で入るお金で生活できるからお金に困ったことは無かったわ。でも、永く永く見守ってきた土地神様だって、思うんじゃないかしら?人が持つ欲望に忠実な子供の事!」

そうかもしれない。土地神様から見ればこの千年以上燈寿を見守ってきた、要は愛しい子供なのだろう。そんな子供が従順な子ばかりだと飽きてしまうのかもしれない。偶には、私みたいに暴れん坊がいてもいいのか、そう思った。

「それよりも時間大丈夫?多分珊瑚の帰る頃は雨降るけれど、この快晴だと真斗君寝ちゃってないかしら?」
「あっ!?」

しまった、もうそんな時間だった。急いでご飯をかき込むと真斗のスマートフォンに電話をかける。
数回プルル……と鳴った後、不在モードに切り替わったのを確認して叫ぶ。

「なんでこの短時間で二度寝が出来るのよあのバカー!!」

急いで鞄を手に持つと、真斗の住む家へと向かった。
思えば真斗の家も不思議なものだ。

この数年、どころではない。私が生まれた時から真斗の……夜摩家のご両親に会ったことがない。「ご両親は?」と聞くといつも帰ってくるのは「ずっと海外~」という呑気な答えだけだった。

(……寂しくないのかな)

ふと、そう思ってしまった。
私には母がいて、父がいて。いつも囲まれて過ごしているが真斗はいつも一人だ。
だからこうして腐れ縁でも起こしにいってしまうのかもしれない。

真斗の一軒家に着くと、合鍵で勝手に中に入る。案の定、一階のソファでグースカと寝ている真斗を発見して大声を出した。

「起きなさい真斗!!もう学校の時間よ!!」
「ん~……」

ごろん。ソファの上でよくもまあ器用に寝がえりを打つものだ。ムカっとなって頬を思いっきり摘まむ。

「いでででで!?」
「じ、か、ん!!アンタ今朝は早く起きてランニングしていると思ったらもう寝ているんだから!!早くして頂戴!」
「わ、わかった!わかったから頬がいだだだだ……」

手を離すと、むくりと起き上がってそばにある鞄を手に取る。その後欠伸をしながら玄関に向かう彼を見てため息が出る。
毎回こうだ。なぜ懲りないのか。よくわからないと思いながら学校へと向かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

言いたいことは、それだけかしら?

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】 ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため―― * 短編です。あっさり終わります * 他サイトでも投稿中

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―

佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。 19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。 しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。 突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。 「焦らず、お前のペースで進もう」 そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。 けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。 学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。 外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。 「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」 余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。 理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。 「ゆっくり」なんて、ただの建前。 一度火がついた熱は、誰にも止められない。 兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。

処理中です...