偽りの悪役令息は竜に溺愛されている〜婚約破棄に潜む竜の罠〜

明太子

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悪役令息編

偽りの悪役令息は竜に溺愛されている〜婚約破棄に潜む竜の罠〜【5】(*)

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書斎の暖炉の火が揺らめき、壁に映る影が揺れている。

エドワードは筋骨隆々の肉体をゆったりと伸ばす。
それからセオドールの背後に立つと、そのまま彼に手を伸ばし、後ろから抱きつく。
エドワードの腕の温かさがセオドールの肩越しに伝わる。

「随分真剣に書類を見ているな」

色気が滲んだ声でセオドールの耳元で囁く。
普段は冷静沈着なセオドールであろうとも、エドワードの色気には逆らえず、一瞬だけ肩を強張らせた。

「エドワード、やめろ」
「いいだろ、別に。婚約者なんだから」
「…集中できない」

セオドールは目を伏せるが、その線の細い手は微かにエドワードの腕を意識している。

「やめてくれ」

冷たく呟くセオドールの声はどこか震えていた。

「俺の策略はこういうところでも効くんだよ」

低く響くエドワードの声が部屋の静けさに溶け込み、セオドールの鼓動を速める。
策略に長けたエドワードの存在は昔からセオドールを翻弄する。

「気になることがあるんだろう?」

エドワードの問いにセオドールは無言を貫く。
だが、エドワードは逃げ場がないように徹底的に追い詰める。

「元皇太子を誑かした悪役令息は公爵家を乗っ取ろうと画策している」
「…見たのか?」
「大々的に新聞の目玉記事として掲載されているんだ。目にしないはずがないだろう?」
「そうだな…」

その日の朝刊には2人の婚約に関する記事が載っていた。
表向きは祝意を装っていたものの、内容はどこか下世話だった。

元皇太子を含めた過去の三角関係についてわざわざ蒸し返され、あまつさえセオドールと結婚することでエドワードがクライン公爵家を乗っ取ろうとしているのではないかなどと呆れた憶測が並べられていた。

断定は避けられてはいたものの、読み手に疑念だけを残す書き方で、婚約のめでたさよりもエドワードの胡散臭さを印象づける内容だった。

不愉快極まる新聞記事を読んだセオドールは決してエドワードに見せないように隠していたものの、彼はどこかでそれを見つけてしまったらしい。

「俺の想定通りだ…。やはりエドワードが悪く言われてしまったな…」
「周りが何を言おうと、好きに言わせておけ。俺がセオドールの手を離す理由にはならない。セオドールはただ俺の側にいてくれるだけでいいんだ」

その言葉にセオドールは微笑み、エドワードの肩に頭を軽く寄せた。

「お前は…、いつもこうやって俺を惑わせるんだな」
「それが俺の仕事だからね」

エドワードの低く艶のある声が耳元を掠め、セオドールの胸の内では主君としての威厳と恋人としての甘えが混ざり合い、思わず息を飲む。

暖炉の炎は2人の顔を赤く染める。

「俺の前でだけ、お前の弱さを見せてくれればいい。そして安心して俺に抱かれて」

エドワードの言葉には策略家としての狡猾さと婚約者だけに見せる情熱的な誘惑が同居していた。
セオドールは無意識に肩を寄せ、距離を縮める自分に気付く。

外界の噂や誤解は遠くに消えた。
ここには誰かを陥れる策略も相手を疑いたくなるような誤解もない。

お互いにだけ見せる甘い笑みが彼らの顔に浮かぶ。

「…安心していいのか?」
「もちろん」
「だが、お前はいつも俺が立てなくなるまで抱き潰すだろう?」
「それは…安心できないかもしれないね、ははっ」

エドワードの指がセオドールの肩を軽く撫でる。
触れ合いは僅かだが、2人の間には火のように熱い感情が静かに燃えていた。

「もう、寝室に行くか」

椅子から立ち上がって、そう告げたセオドールにエドワードは思わず顔を上げる。

セオドールはエドワードに肩を抱かれながら、寝室へと向かう。
扉を開けると、エドワードは部屋に入るや否やセオドールを正面から抱き寄せる。

「今日も一日、よく頑張ったな」

その言葉には単なる慰め以上の色気が含まれていた。
セオドールは一歩後退しようとするが、鍛え抜かれたエドワードから逃れることはできなかった。
それでも優しく制される感覚にセオドールの心の奥がじんわりと熱くなる。

「お前は…どうしてこんなにも俺を翻弄するんだ」
「俺の策略は昼も夜も関係ないからね」

エドワードは微笑みながら、唇が触れ合いそうなほどに顔を近づける。
セオドールの目線はそれだけで揺れた。

エドワードはそっとセオドールの手を取り、ベッドの縁に座る。

「今夜は…、俺だけを見て、感じてくれ。余計な音なんか気にせずに」
「…分かった」

エドワードに応えるように、セオドールが近づいてキスをした。
唇がそっと重なった瞬間、セオドールの感覚が敏感になって全身が熱を帯びる。
それから互いの体温が重なり、呼吸がゆっくりと同期していく。

唇が離れると、セオドールの髪に顔を埋め、エドワードは静かに呟く。

「セオドール。俺はお前のためなら、悪役にだってなれる。お前の側にいるためなら、喜んで悪役になるよ」

その言葉を最後に2人はもう止まらなかった。

長い夜の中、何度も名前を呼び合い、指先と口づけで想いを交わす。
セオドールはただ受け入れ、エドワードはその全てを抱きしめるように動いた。

激情に任せる夜ではない。
快楽も涙すらも全て溶かし込む、愛のための夜だった。
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