奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~

Takachiho

文字の大きさ
351 / 616
第十五章

15-20.帰途

しおりを挟む
 なんとなく嫌な予感を覚えていた仁だったが、どうやら杞憂に終わったようだった。日が暮れる前にエリーネらが無事役目を果たして隊に復帰し、奴隷騎士隊は夜中のうちに入城する手はずとなった。

 セシルはエリーネらをねぎらい、機を見て出発の合図を出した。先頭を馬で歩くセシルを半馬身後方で両側から挟む形でファレスともう一人の騎乗した奴隷騎士が並び、その後ろに他の隊員たちが続いていた。

「エリーネさん。帝都は特に変わりなかった?」

 仁が隣を歩くエリーネに小声で話しかける。仁はまさか八脚軍馬スレイプニルで帝都入りするわけにはいかず、後方の徒歩の隊員たちの列にまぎれていた。

 ちなみに、仁はエリーネらの帰りを待っている間に、一度、八脚軍馬スレイプニルに乗ってコーデリアの部屋から続く隠し通路の先の安全地帯を訪れ、自分が帝都に行っている間はそこで待つように指示した。

 奴隷騎士隊が再び外出禁止になってしまうかもしれないということも考慮し、仁は帝都から出る際に隠し通路を使わせてもらうつもりだった。

「え。あ、あの。は、はい……!」

 話しかけられると思っていなかったのか、照明の魔道具の淡い光に照らされる中、エリーネは慌てた様子を見せる。

「あ。で、でも、以前に比べて、少し活気がなかったかもしれないです」
「活気?」
「は、はい。その、気のせいかもしれないですけど、メルニールから来られた方が少なかったような……」

 仁はエリーネの言葉を脳内で反芻する。

 殺人蟻キラーアントの件でメルニールにも人手が必要になったからか、それとも、エルフの使者から仁の手紙を受け取ったガロンが手を回したのか。どちらにせよ、帝国の内情が不安定な今、メルニールの住人たちが帝都から離れているのは悪いことではない。

 仁がそんなことを考えていると、脳裏に赤髪の少女の笑顔が浮かんだ。

 仁はリリーにコーデリアへの伝言を頼んでいたことを思い出す。仁の頼みがなくてもマークソン商会の仕事があるため、リリーが帝都に来ている可能性は大いにあるように思えた。せめてリリーがメルニールを発つ前にエルフ族の使者が到着していればと、仁は切に願う。帝都がきな臭いことを知れば、バランやルーナリアがきっと止めてくれるはずだ。

 しかし、問題はそのエルフ族の使者が未だ里に帰還していないということだ。アシュレイは帝国の手にかかったのではないかという最悪の事態を心配していたが、仁はそれ以上に、どうにも何者かの手のひらの上で踊らされているような気がしてならなかった。

 メルニールに蔓延した仁や玲奈に関する悪い噂はユミラによるものだとしても、メルニールの殺人蟻キラーアント騒動、恐るべき鉤爪テリブルクローによるエルフの里の襲撃、帝都での門前払い、エルヴィナとの邂逅、カティアのもたらしたコーデリアからの警告。

 それに加えて、皇帝の病に端を発する帝国での後継者争い、奴隷騎士隊の外出禁止、無意味に思える奴隷騎士隊の派兵、ドレックの所持していた魔人薬。

 もし、そのすべてが繋がっているのだとしたら、仁たちを振り回している人物は一人しか考えられなかった。

「魔王妃か……」

 思考の渦に飲み込まれた仁がそう小声で呟いたとき、エリーネが小さな肩を震わせた。

 仁がいつの間にか下を向いてしまっていた顔を再度エリーネに向けると、エリーネは肩を縮こまらせ、ビクビクした様子で仁と周りの間で視線を行き来させていた。

「あ」

 仁は首を傾げるが、すぐに、以前ファレスから行軍中は私語を慎むように言われたことを思い出す。

「その、話しかけてごめんね。ありがとう」
「い、いえ。そ、その、ジン様とお話しできて、こ、光栄です……!」

 エリーネはそれだけ言うと、黒い兜のバイザーを下ろして紅潮した頬を隠し、視線を前方に向けた。

 仁はなんとなく周囲からの視線を感じ、苦笑いと共に、私語は慎もうと反省した。



 仁たちはしばらく無言で歩き続け、ようやく帝都へと帰り着いた。事前に話を通してあるため、余計な混乱もなく、帝都へ入ることができた。仁は身分証を求められないか内心でドキドキしていたが、セシルの言っていたように、代表者が身分証を掲示した後は、皆、素通りだった。

 外壁の門を抜けると、夜が深いこともあり、城まで伸びる大通りに人影はなく、ひっそりとしていた。

 そんな帝都の様子を仁はどこかもの悲しく感じながら、必要以上に音を立てないように進んでいった。

「お待ちしていました」

 奴隷騎士隊一行が城門の前に着くと、数名の門番が待ち構えていた。門番たちはセシルやファレスたちから馬を預かると、騎士相手に緊張しているのか、硬い口調で、門を入った先の通路で待つように告げた。

 夜遅くの帰還であるため、一旦そこで報告を聞いてからの解散になるとのことだった。

 門番から話を聞いたセシルが大きくなりすぎない声で隊員たちに伝え、順に門をくぐっていく。

 帝国皇帝の居城であり、最後の守りを担うこの城は、城門の先に人が2人並んで通れるくらいの細い通路が真っすぐに伸びている。この通路は敵に門を破られた際の防衛施設を兼ねていて、長く伸びた敵を左右から一方的に攻撃できるように、両側の壁に槍や弓のための窓が付いている。

 槍の窓は槍が通るだけの小さな穴で、人が手を伸ばしても届かない高さに並んでいる弓の窓は、狙いを定められるよう人の顔が楽に通るくらいの大きさをしていた。

 そして、平時は夜を除いて常に開け放たれているが、この通路の先の門こそが、所謂いわゆる城内に通じる本当の城門だと言える。

 薄明りの中、仁がかつてセシルと一緒によく通った通路を懐かしく思いながら、隊の中ほどでエリーネと隣り合って歩いていると、ふと何か頭に引っかかるような違和感を覚えた。

 仁は眉をひそめる。先頭を歩くセシルが足を止め、奴隷騎士隊全体が停止する。その直後、背後から門の閉まる音が響いた。

「まさか……!?」

 仁は、ハッとして顔を壁に向ける。槍穴の中が、キラリと光ったような気がした。仁が慌てて気配と魔力を探ると、両側の壁の先に、何人もの人が並んでいるようだった。

 理由はわからないが、この通路の壁の向こうに人員を配置する目的は、一つしかない。仁の背筋を冷たいものが駆け上った。

「セ――」

 仁がセシルに警告するべく口を開きかけたとき、通路の先にある門の上部の弓窓から、不敵な笑みを浮かべる赤い兜を被った男の顔が覗いた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

処理中です...