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四章 地下迷宮

十二話 新しい家族

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 思いの外早く再会出来た……けど、モフモフの何かと知的美人が一緒だった。一人は想像つくけど、その、小さな子は……双子?兄妹?姉弟?兄弟?多分女の子だから兄妹か姉弟か。にしても似てる。三人目とか出てきちゃったりする?頭混乱するからやめて欲しいなぁ。
「ひとりじゃなかったの?」
 腕の中で舟を漕ぎ始めている妖狐に聞いてみる。
「いないよぉ……ふぁぁ」
 こんなに似てるのに違うのかな?
「いたのかなぁ?むむぅ……」
 ピコピコと耳を動かして悩んでる。触っていい?気になる。
「同じ……」
「同じだね……」
 ほぼ同時に二人の妖狐が喋った。同じ言葉を。
 やっぱり双子なんじゃ?違くても親戚だと思う。ていうか、その子離してあげて。首が締まっちゃうよ。
「うきゅっ」
 もっと優しく!
 疲れたからってそんな雑に女の子を扱っちゃダメ!
「エリ兄、降ろして」
 あ、はいはい。
 地面に降ろしてやると、一目散に女の子の元へ走っていった。

 ✻    ✻    ✻    ✻

 僕と同じ狐がいる。しっぽの数も同じ。これって凄いよね?
「いたい……」
 よしよーし。
 なでなですると気持ちよさそうに目を細めた。可愛い~!名前、なんて言うんだろう?きっと名前も可愛いだろうなぁ!
「あたしの名前……?知らない……」
 ───!!
「ご、ごめん」
 やっちゃったぁ!あわわわ!
「いいの。慣れてる」
 どういう事だろう。たくさん人が居るとこに住んでたのかなぁ。
「あなたは……?」
「僕も無いよ」
「同じだね」
「だね」
「「…………ふっ、ふふっ」」
 二人で見つめ合って笑った。だって、同じ狐で、しっぽの数も同じで。名前が無いのも同じで、子ども同士だったんだもん。こんな偶然ってある?なかなか無いよね。
「名前、欲しいね」
「うん!可愛い名前、欲しい!」
 でも、名前ってどうやって決めたら良いんだろう?
 …………そうだ!
「エリ兄ー!エリ兄!」
「ん~?」
 遠くで大きな白い竜とお喋りしてたエリ兄がこっちに来た。
「どうしたの?」
 しゃがんでくれたから、流れでお膝に座ってエリ兄を見上げる。撫でてくれる手が温かい。撫でるの、癖なのかな?
「僕たちね、名前が欲しいの!」
「欲しい……」
「うーん、名前か。君も名前が無いの?」
「無い……」
 しばらく視線を宙に彷徨わせて、やがて口を開いた。
「どんな名前が良いの?」
「可愛いのが良い!」
 エリ兄が悩んでる間に女の子が僕に抱きついてきた。
 ほえ!?わわわ!
「あったかい……」
 すりすり。ほっぺを擦り合わされた。
 ふおぉ、良い香りがする!
「双子みたいだから、相関的な名前が良いなぁ……」
 そうかんてき?って何だろ。
「似ているってこと」
 へぇ。そうなんだ。
「あぁ、そうだ。君が美羅」
「みら」
 ポン、と頭を叩かれた。
「女の子が由羅」
「あたし、ゆら……?」
 その辺に落ちてた石ころで地面に字を書いてる。難しいけど綺麗だね。
「で、由羅。君、家族は?いないの?」
「うん……ひとりぼっち……」
「そっかぁ。なら、二人ともうちにおいで」
 良いの!?やったぁ!エリ兄、大好きー!
 僕の目は今、輝いてると思う。
「よかったね!」
「ん!」
 ぎゅーっと抱き合って喜びを表現した。

 ✻    ✻    ✻    ✻

 九尾たちははしゃぎ過ぎて疲れたようで、お互いのしっぽを枕にして寝ています。
「良いんですか?御姉様……は難しくても宰相殿に相談した方が……」
「大丈夫だよ」
 そんなにあっさりと……。
 まぁ、御姉様でも同じ対応をしているとは思いますけど。
「それに、子ども好きだし。文句なんて言わないよ……記憶さえあれば」
 後半なんて言いました?小さすぎて聴き取れませんでした。
「いやさ、記憶無くても、子ども好きだったら良いなぁって」
 あぁ、そういう。
 確かに、ご自分でも子どもになるくらいには、子どもが好きなようですしね。感覚で憶えている、なんて事があれば良いのですけど。正しく記憶が受け継がれている事が一番良いのですが。しかしそれは、高望みというものでしょう。望みすぎてはいけません。
 そういえば、先程は何を話していたのですか?あの喜びようは一体?
「名前が欲しいって言うから、付けてあげたんだ。さっきの六華みたいにね」
 え!?言いましたっけ!?地獄耳ですか!!
「これこれしかしがで……」
「形見、ですか」
「不吉な事言わないでよ」
 思いっきり睨まれた。すみません!決してわざとではないんです!
「分かってるよ……。あぁ、そうだ。その子、氷華って転移魔法使える?」
「空間移動でしたら使えます」
「なら、迷宮の入口まで繋いでくれない?」
「異空間での移動になりますので、相当の魔力を消費しますが……」
「構わないよ。小さい子も居るしね」
「承知しました」
 気持ち良さそうに寝ている由羅を抱き上げ、氷華が創った異空間へ繋がる穴に入った。美羅は御兄様が。
「異空間でも息は出来るんですね。驚きました」
 そう、ここには空気が有るんです。薄いですが、まったく無いよりマシですね。
 数分歩くと、出口に着いた。
「眩しっ!」
「目に染みますね……」
 夕陽が目に刺さる。心做しか前頭葉が痛みます……。
「久しぶりに外の空気を吸った気がするよ」
「そうですねぇ……」
 色々有りましたしね。城で面倒を見るという事で新たな家族も増えましたし。
「ここ、城の地下庭園だ……」
 本当ですね。改めて周りを見渡すとここは、いつか御姉様と御兄様に出逢った神秘的な庭園の端でした。茂みで隠れていたので、今まで気付かなかったのでしょう。
「こんな場所に迷宮の入口があったなんて……」
 後ろを見るとその穴は姿を消した。
「え?消えた?」
「私が居なくなったからでしょう。主を失った迷宮は消失するのです」
 そうなのですね、初めて知りました。
「さ、早く行こう。報告も有るし」
 あ、忘れてました。今更ですが、元は調査をしに行ったのでした。
「六華はこの子達をお風呂に入れてあげて」
「構いませんが、着替えは……」
「お姉ちゃんの部屋にあるよ。趣味で作ってたみたい」
 何故。
 まぁいいです。先ずは任務をこなしましょう。
 御兄様は抱いていた美羅を氷華に預け、執務室に向かいました。
 途中ですれ違った侍女に子ども用の着替えを頼んだのち、私たちは湯殿へ向かうのでした。
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