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二〇一三年 八月
その後、時人と葵は幸せなデートを重ね、二人でベッドに入るような仲にもなっていた。
女性とデートをするのに今まで何の努力もしなかった時人だが、自分なりにネットで色々と調べて、どんなデートプランが女性を喜ばせるのかとか、デートの際に男性が気を付けるべきポイントなどを頭に叩き込む。
自分でも積極的な男ではないと思い、男らしく葵をリードはできないものの、葵はその時人の穏やかな雰囲気が好きだと言ってくれていた。
「水族館、綺麗でしたね」
「そうですねぇ。誘ってくれはっておおきに」
「沖縄の水族館はとても綺麗みたいですね。いつか二人で旅行に行ってみたいです」
「うふふ、そうですね」
水族館デートに合わせたのか、美しいロイヤルブルーのサマーニットを着た葵の二の腕が眩しい。
今まで夏という季節は過ごし辛い鬱陶しい季節としか思っていなかったのに、こうやって好きな女性が薄着になる事を思うと嬉しくなってしまう。
また、自分の服装についてもさほど気にしていなかった時人なのだが、葵に恥をかかせてはいけないとか、美しい葵に相応しい男になりたいと思って普段は見向きもしない男性ファッション誌を前に、あれやこれやと勉強する事も増えた。
「いつか私、時人さんに京都を案内したいです」
「え?」
早合点をした時人は、葵が実家に招きたいと言っているのかと思って、思わずドキッとしてしまう。
「桜がね、どこへ行ってもえらい綺麗なんです」
「あぁ……。京都は桜も紅葉も有名ですよね」
内心少しがっかりした気持ちもあるが、彼女が生まれ育った土地へ一緒に行って、案内をしてくれると言ってくれるのは嬉しい。
「普通の桜も綺麗なんですけど、平安神宮とか円山公園に行ったら、枝垂桜がほんまに綺麗なんです」
「枝垂桜、お好きなんですか?」
「そうですね。普通の桜でも儚くてすぐに散ってまうとか、そういうイメージが切なくて綺麗で……。けど、枝垂桜はそれに加えて幻想的なイメージも加わって更に好きなんです」
「……見てみたいです」
美しい葵の笑顔こそ、『花の顔』という言葉が似合うような美貌で、きっと一緒に花見をしに行っても桜を背景にした葵に見惚れてしまって、目的を遂行できないだろうなと思いながらも、時人は葵に話を合わせる。
「絶対、一緒に行きましょうね。約束」
「はい。らい……」
「来年の春に一緒に行きましょうか」と言いかけて、時人が口をつぐんでしまう。
先ほど自分が妄想した通り、京都は彼女の実家がある。
そこへ一緒に行くとなると、自然と葵の両親に紹介をする流れになってもおかしくない。
まだ正式に付き合ってもいない自分が、そこまで出しゃばった事を言ってはいけないだろうかと思い、急に恥ずかしくなったのだ。
だがそれを葵も察したらしい。
繋いでいる手をぎゅっと握り、時人の顔を覗き込んで笑ってみせる。
「来年の春、一緒に京都行きましょうね」
「……はい」
やはり一歩先に歩く葵を眩しく感じながら、時人は幸せに満ち足りた気持ちで返事をした。
「これからどうします?」
「実は夜景の綺麗なレストランを予約してあるんです」
「ほんま? 嬉しい」
夜景の綺麗なレストランというのもベタ中のベタなのかもしれないが、時人はまだデートの基本のいろはも身に付いていない。
今までは声を掛けられた女性の思うままに付き合っていたが、これからは葵が喜ぶデートプランを積極的に考えていきたいとも思う。
今回選んだ水族館も、品川には二つ代表的な水族館があるのだが、その中でも幻想的なクラゲの水槽が有名との事なので、ロマンチックな雰囲気を求めてそちらへ行った。
全ては葵を喜ばせるために。
そう思って、予約していたお台場のレストランへ向かっていた時だった。
前方からやけに騒がしい若者の集団がいるな、と時人が思った時、葵がスッと時人の手を離した。
「葵さん?」
それまで恋人のように手を繋いで歩いていたのに、何かしてしまっただろうかと時人が困惑して葵を見る。
「時人さん、そのまま知らん人のふりをして進んで下さい」
しかし葵は時人と目を合わせる事なく、そのまま一人で歩いてしまった。
「……?」
不思議に思って時人が人一人分の距離を空けて歩いていた時――。
「なんだ、葵じゃん」
声を聞いただけで『軽薄』という言葉が浮かぶような声が掛かり、葵の名前を呼ぶ。
前方から来た若者の集団の中で、本人は七色のつもりなのだろうが、全体的に濁った色が混じり合った、汚らしい髪色の青年が女性の肩を抱いて葵を見ていた。
「……後藤くん」
話し掛けられては無視をする訳にいかない、という感じで葵が立ち止まり、若者の集団は下卑た笑いを口元に浮かべて葵を見ていた。
後藤と呼ばれた青年の他には、やはり似たような手入れのされていない金髪や茶髪の青年がいて、その中に今にも下着が見えてしまいそうな丈のスカートをはいた女性が、男たちにしなだれかかるようにして葵を見ている。
「こんな時間にこんな所で何してんだよ」
「どこにお出掛けしようが、私の勝手です」
そこに時人の知る柔和な印象の葵はおらず、彼女はパンプスを履いた足を肩幅に開き、凛とした表情で後藤という男を睨んでいた。
「見ろよ~、この女。きっかねぇったら。俺、別れるとか言われてんだぜぇ?」
「っはは、だっさーい!」
自分は葵ではない女の肩を抱いている癖に、と時人は少し離れた場所から思う。
あんな男が相手なら――、絶対に負けない。
あんな男より、自分の方が葵に相応しい。
それまで葵の口から彼氏がいると聞かされても、それほど嫉妬をしなかった時人の心が、酷くざわついていた。
どす黒い感情。
これは――、嫉妬。
そして、明らかな敵対心。
今まで自分が抱いた事のない感情に時人は具合の悪さを感じ、それでも葵を待つために道端でスマホを弄っているふりをして、そのまま彼らが通り過ぎるのを待つ。
「難なら葵も一緒に来いよ、俺の家でパーティーがてらヌードデッサン会すっから」
「やだぁ、っきゃはは!」
美術学生だという後藤の言葉に女性たちが黄色い声を上げ、葵は不快そうに眉間にしわを寄せた。
「そのお話はお断りしたはずです」
「つっまんねぇ女! お前みたいなブスで貧乳、デッサンしても楽しくねぇよ」
後藤がそう吐き捨てて周囲が笑い、それでも葵は涼しい顔をして汚らしい風が通り過ぎるのを待つ。
「そんなら、早よ私とお別れして下さい」
むしろにっこりと微笑むような言い方に後藤が顔をしかめ、詰まらなさそうに舌打ちをした後、気を取り直してまた葵をせせら笑う。
「やだね。お前は見た目がいいから俺の女にしてやってんだ。才能ねぇ癖に家が金持ちだから音楽やってるような女が、才能のある俺の役に立つんだから、お前は黙って俺の側にいればいいんだよ」
その傲慢な言い方に、時人は胸がムカムカして吐き気すら覚えた。
(なんで――、なんでこんな男が葵さんの――)
「……もぉ連絡はしません。街中で私を見ても声を掛けんといて下さい。連絡先も全てブロックします。後藤くんは仲のええお友達と、仲良うしはってて下さい」
暗に似た者同士うまくやれと言い、葵がペコリを頭を下げた。
葵のその態度に流石に後藤は鼻白み、肩を組んでいた女性を乱暴に突き飛ばすと、ツカツカと葵に歩み寄って思い切りその頬を打った。
バシッ
乾いた音が響いて葵がよろけ、更に後藤が彼女の細い肩を掴んで二撃目を喰らわせようと手を振り上げる。
「ふざけんな! お前は一生俺に従ってればいいんだよ! 舐めた態度取ったら、また泣くまで躾てやんぞ!」
「――!」
後藤のDVを目の当たりにし、更に最後の「泣くまで躾ける」という言葉で二人の関係性を察した時人は、彼らしくもなくカッとなり飛び出ていた。
「やめろ!」
声を荒げて時人が後藤の手から葵を奪い取り、彼女を背に庇ってから葵を殴ろうとした後藤の手を払い除ける。
「あァ?」
後藤がカラーコンタクトの入った眼で時人を睨み上げ、その後に彼の背中にいる葵を睨み付ける。
「はぁン? お前、オトコ作ってたのか! だから俺に別れろって言ってたのか! この淫乱女!」
酷い言葉が葵を攻撃し、人にそんなどす黒い感情を向けられた事がない時人は、腸がグラグラと煮えくり返るような気持ちで、ただ後藤を睨みつけて立つ。
「こぉんなヒョロヒョロした優男でよォ。あァ? やっぱ顔と背なのか? 外見か? 人の事見下したような事言っといて、自分はどーなんですかァ? 今現在付き合ってる彼氏がいるのに、他の男に手を出す尻軽女はどーなんですかァ?」
耳を塞ぎたくなるような下卑た声が周囲をはばからず響き、後藤の仲間たちはゲラゲラと笑っていた。
「葵さん、行きましょう」
この場から離れるのが一番だと思った時人は、葵の手を握って後藤から庇うように歩き始める。
「待てよ、浮気もんの葵ィ」
その場を立ち去ろうとした葵を後藤が後ろから捕らえようとした時、それより前に時人が動いて後藤の体を押さえ付けていた。
「なっ……、いてぇっ!」
「二度と葵さんに近づくな、ゲス」
後藤を押さえつけた時人の目が赤く光る。
「ひっ……」
人ならざる目の色、瞬時の殺気におののいた後藤が喉から息を吸い、取り押さえられた体を突き離されて尻餅をつく。
「後藤だっせぇの!」
仲間が笑い、顔を赤くしたり青くしたりする後藤を後ろに、時人は葵の手を引いて二度と彼らを振り返る事なく人込みの中を進んでいった。
その後、時人と葵は幸せなデートを重ね、二人でベッドに入るような仲にもなっていた。
女性とデートをするのに今まで何の努力もしなかった時人だが、自分なりにネットで色々と調べて、どんなデートプランが女性を喜ばせるのかとか、デートの際に男性が気を付けるべきポイントなどを頭に叩き込む。
自分でも積極的な男ではないと思い、男らしく葵をリードはできないものの、葵はその時人の穏やかな雰囲気が好きだと言ってくれていた。
「水族館、綺麗でしたね」
「そうですねぇ。誘ってくれはっておおきに」
「沖縄の水族館はとても綺麗みたいですね。いつか二人で旅行に行ってみたいです」
「うふふ、そうですね」
水族館デートに合わせたのか、美しいロイヤルブルーのサマーニットを着た葵の二の腕が眩しい。
今まで夏という季節は過ごし辛い鬱陶しい季節としか思っていなかったのに、こうやって好きな女性が薄着になる事を思うと嬉しくなってしまう。
また、自分の服装についてもさほど気にしていなかった時人なのだが、葵に恥をかかせてはいけないとか、美しい葵に相応しい男になりたいと思って普段は見向きもしない男性ファッション誌を前に、あれやこれやと勉強する事も増えた。
「いつか私、時人さんに京都を案内したいです」
「え?」
早合点をした時人は、葵が実家に招きたいと言っているのかと思って、思わずドキッとしてしまう。
「桜がね、どこへ行ってもえらい綺麗なんです」
「あぁ……。京都は桜も紅葉も有名ですよね」
内心少しがっかりした気持ちもあるが、彼女が生まれ育った土地へ一緒に行って、案内をしてくれると言ってくれるのは嬉しい。
「普通の桜も綺麗なんですけど、平安神宮とか円山公園に行ったら、枝垂桜がほんまに綺麗なんです」
「枝垂桜、お好きなんですか?」
「そうですね。普通の桜でも儚くてすぐに散ってまうとか、そういうイメージが切なくて綺麗で……。けど、枝垂桜はそれに加えて幻想的なイメージも加わって更に好きなんです」
「……見てみたいです」
美しい葵の笑顔こそ、『花の顔』という言葉が似合うような美貌で、きっと一緒に花見をしに行っても桜を背景にした葵に見惚れてしまって、目的を遂行できないだろうなと思いながらも、時人は葵に話を合わせる。
「絶対、一緒に行きましょうね。約束」
「はい。らい……」
「来年の春に一緒に行きましょうか」と言いかけて、時人が口をつぐんでしまう。
先ほど自分が妄想した通り、京都は彼女の実家がある。
そこへ一緒に行くとなると、自然と葵の両親に紹介をする流れになってもおかしくない。
まだ正式に付き合ってもいない自分が、そこまで出しゃばった事を言ってはいけないだろうかと思い、急に恥ずかしくなったのだ。
だがそれを葵も察したらしい。
繋いでいる手をぎゅっと握り、時人の顔を覗き込んで笑ってみせる。
「来年の春、一緒に京都行きましょうね」
「……はい」
やはり一歩先に歩く葵を眩しく感じながら、時人は幸せに満ち足りた気持ちで返事をした。
「これからどうします?」
「実は夜景の綺麗なレストランを予約してあるんです」
「ほんま? 嬉しい」
夜景の綺麗なレストランというのもベタ中のベタなのかもしれないが、時人はまだデートの基本のいろはも身に付いていない。
今までは声を掛けられた女性の思うままに付き合っていたが、これからは葵が喜ぶデートプランを積極的に考えていきたいとも思う。
今回選んだ水族館も、品川には二つ代表的な水族館があるのだが、その中でも幻想的なクラゲの水槽が有名との事なので、ロマンチックな雰囲気を求めてそちらへ行った。
全ては葵を喜ばせるために。
そう思って、予約していたお台場のレストランへ向かっていた時だった。
前方からやけに騒がしい若者の集団がいるな、と時人が思った時、葵がスッと時人の手を離した。
「葵さん?」
それまで恋人のように手を繋いで歩いていたのに、何かしてしまっただろうかと時人が困惑して葵を見る。
「時人さん、そのまま知らん人のふりをして進んで下さい」
しかし葵は時人と目を合わせる事なく、そのまま一人で歩いてしまった。
「……?」
不思議に思って時人が人一人分の距離を空けて歩いていた時――。
「なんだ、葵じゃん」
声を聞いただけで『軽薄』という言葉が浮かぶような声が掛かり、葵の名前を呼ぶ。
前方から来た若者の集団の中で、本人は七色のつもりなのだろうが、全体的に濁った色が混じり合った、汚らしい髪色の青年が女性の肩を抱いて葵を見ていた。
「……後藤くん」
話し掛けられては無視をする訳にいかない、という感じで葵が立ち止まり、若者の集団は下卑た笑いを口元に浮かべて葵を見ていた。
後藤と呼ばれた青年の他には、やはり似たような手入れのされていない金髪や茶髪の青年がいて、その中に今にも下着が見えてしまいそうな丈のスカートをはいた女性が、男たちにしなだれかかるようにして葵を見ている。
「こんな時間にこんな所で何してんだよ」
「どこにお出掛けしようが、私の勝手です」
そこに時人の知る柔和な印象の葵はおらず、彼女はパンプスを履いた足を肩幅に開き、凛とした表情で後藤という男を睨んでいた。
「見ろよ~、この女。きっかねぇったら。俺、別れるとか言われてんだぜぇ?」
「っはは、だっさーい!」
自分は葵ではない女の肩を抱いている癖に、と時人は少し離れた場所から思う。
あんな男が相手なら――、絶対に負けない。
あんな男より、自分の方が葵に相応しい。
それまで葵の口から彼氏がいると聞かされても、それほど嫉妬をしなかった時人の心が、酷くざわついていた。
どす黒い感情。
これは――、嫉妬。
そして、明らかな敵対心。
今まで自分が抱いた事のない感情に時人は具合の悪さを感じ、それでも葵を待つために道端でスマホを弄っているふりをして、そのまま彼らが通り過ぎるのを待つ。
「難なら葵も一緒に来いよ、俺の家でパーティーがてらヌードデッサン会すっから」
「やだぁ、っきゃはは!」
美術学生だという後藤の言葉に女性たちが黄色い声を上げ、葵は不快そうに眉間にしわを寄せた。
「そのお話はお断りしたはずです」
「つっまんねぇ女! お前みたいなブスで貧乳、デッサンしても楽しくねぇよ」
後藤がそう吐き捨てて周囲が笑い、それでも葵は涼しい顔をして汚らしい風が通り過ぎるのを待つ。
「そんなら、早よ私とお別れして下さい」
むしろにっこりと微笑むような言い方に後藤が顔をしかめ、詰まらなさそうに舌打ちをした後、気を取り直してまた葵をせせら笑う。
「やだね。お前は見た目がいいから俺の女にしてやってんだ。才能ねぇ癖に家が金持ちだから音楽やってるような女が、才能のある俺の役に立つんだから、お前は黙って俺の側にいればいいんだよ」
その傲慢な言い方に、時人は胸がムカムカして吐き気すら覚えた。
(なんで――、なんでこんな男が葵さんの――)
「……もぉ連絡はしません。街中で私を見ても声を掛けんといて下さい。連絡先も全てブロックします。後藤くんは仲のええお友達と、仲良うしはってて下さい」
暗に似た者同士うまくやれと言い、葵がペコリを頭を下げた。
葵のその態度に流石に後藤は鼻白み、肩を組んでいた女性を乱暴に突き飛ばすと、ツカツカと葵に歩み寄って思い切りその頬を打った。
バシッ
乾いた音が響いて葵がよろけ、更に後藤が彼女の細い肩を掴んで二撃目を喰らわせようと手を振り上げる。
「ふざけんな! お前は一生俺に従ってればいいんだよ! 舐めた態度取ったら、また泣くまで躾てやんぞ!」
「――!」
後藤のDVを目の当たりにし、更に最後の「泣くまで躾ける」という言葉で二人の関係性を察した時人は、彼らしくもなくカッとなり飛び出ていた。
「やめろ!」
声を荒げて時人が後藤の手から葵を奪い取り、彼女を背に庇ってから葵を殴ろうとした後藤の手を払い除ける。
「あァ?」
後藤がカラーコンタクトの入った眼で時人を睨み上げ、その後に彼の背中にいる葵を睨み付ける。
「はぁン? お前、オトコ作ってたのか! だから俺に別れろって言ってたのか! この淫乱女!」
酷い言葉が葵を攻撃し、人にそんなどす黒い感情を向けられた事がない時人は、腸がグラグラと煮えくり返るような気持ちで、ただ後藤を睨みつけて立つ。
「こぉんなヒョロヒョロした優男でよォ。あァ? やっぱ顔と背なのか? 外見か? 人の事見下したような事言っといて、自分はどーなんですかァ? 今現在付き合ってる彼氏がいるのに、他の男に手を出す尻軽女はどーなんですかァ?」
耳を塞ぎたくなるような下卑た声が周囲をはばからず響き、後藤の仲間たちはゲラゲラと笑っていた。
「葵さん、行きましょう」
この場から離れるのが一番だと思った時人は、葵の手を握って後藤から庇うように歩き始める。
「待てよ、浮気もんの葵ィ」
その場を立ち去ろうとした葵を後藤が後ろから捕らえようとした時、それより前に時人が動いて後藤の体を押さえ付けていた。
「なっ……、いてぇっ!」
「二度と葵さんに近づくな、ゲス」
後藤を押さえつけた時人の目が赤く光る。
「ひっ……」
人ならざる目の色、瞬時の殺気におののいた後藤が喉から息を吸い、取り押さえられた体を突き離されて尻餅をつく。
「後藤だっせぇの!」
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