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五十嵐と再会 編

恥ずかしいって思わないの?

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 線路を越えた辺りで、私は見覚えのある後ろ姿を見て目をすがめる。

「どしたー? 優美」

「いや……、ちょっと……」

 視線の先にいるのは、四人の男性に囲まれた女性だ。
 しかもかなり酔っ払ってるように見える。

 それを認めた文香が、私の考えている事を察して顔をしかめた。

「優美? 言っとくけどやめなよ?」

「うん……。いや、分かってる。分かってるんだけど……。知り合いかもしれない」

「だからってさぁ」

 文香が苛ついた声を出す。

 助けようとしたら、大の男に向かって私が一人で立ち向かう、アホな事になるって分かってる。

 ――でも、あの子を放っておけない。

「警察呼んで、逃走経路を確保しといてくれる?」

「ちょっ……、優美!」

「ごめん!」

 私はパンプスを履いた足で走りだし、ホテル街へ向かおうとしている女性の腕を、ぶつかるようにして組んだ。

「ちょ、なーにー? お姉さん!」

「遅くなってごめんね!」

 苦しいけど、待ち合わせしていた体で、私はその子を男性たちから奪い返す。

「ちょっとー。俺らその子とこれから予定があるんだけど」

「お姉さんも混じってくれる訳?」

 私は腕の中でぐったりしている女性を見て、やっぱり……、と確信する。

 ――五十嵐さんだ。

「この子、具合悪いみたいだから今日はこれで失礼しますね」

「えー? それはないじゃん」

 男性の一人が私の腕を掴む。――瞬間、クイッと彼の腕をひねった。

「いででででで!」

「すみません。ほんっとうに急いでるんで!」

 パッと彼の手を放して謝り、その場から離れようとすると、別の人が私の鞄を掴んできた。

「らんぼーしといて、それはないじゃん」

「俺ら、その子から〝予約〟されて会ったんだけど?」

 私は溜め息をつき、いい感じに酔っ払っていたのも忘れて男性たちを強い目で睨む。

「おーおー、そそるね。強気な女を屈服させるのも悪くないねぇ」

 しゃーない。

 私は五十嵐さんを近くのビルの壁にもたれかけさせ、鞄を地面に置く。
 すると、男性の一人が指笛を吹いた。

「なになにー? 俺らの相手してくれんの? おねーさん体力ありそうだから、朝までコースかもね」

 ピンで朝までコースができるバケモノを二人知っているので、その手の冗談を聞いても全然面白くない。

「酔っ払った女の子をホテルに連れ込んで、恥ずかしいって思わないの?」

 敢然と立ち向かったからか、男性たちがヒュー! とはやし立てる。

「かっこいー」

 まともに相手にされなくても、私は態度を変えない。

 ここまで腹が据わっているのも、ひとえに自分に自信があるからだ。

 私は女性で細身に見えるし、今は会社帰りのOLの格好をしているから、余計に〝弱く〟見えるだろう。
 女性だから、若いから、そういう理由で相手を侮る奴に、大した奴はいない。

 この四人を観察して、「この人、格闘技をやってるな」と感じなかった。
 ただのシロウトのヒョロヒョロのお兄ちゃんだ。
 まともにグーパンをお腹にぶち込んだら、すぐにKOできる。

 勝算は十分にあったからこそ、何も怖くなかった。

「お酒飲ませて相手の思考回路を奪わないと、まともにコミュニケーション取れないんでしょ。だから最低だって言ってるの。シラフで女一人ホテルに連れて行けないぐらいコミュ力低いなら、もう少し自分を磨いたら?」

 ズバリと核心を突くと、男性たちの顔色が変わった。

「おい、ブス。優しくしてたからってつけあがんじゃねーぞ」

 はい、ブスいただきましたー。

「他人に対してブスって言えるなんて、相当自分の顔面に自身があるんだねー? すごーい。私は他人の外見を批評するなんて、怖くてできないわぁ」

 さらに煽ると、思いきりビンタされた。

 あいったぁ!

 耳にまでビリッときたけれど、これで十分だ。これで私は〝被害者〟になる。
 煽って手を出させるのも、計画の内。

「いったぁ!!」

 わざと大声を出すと、私たちを避けていた周囲の人々がギョッとしてこちらを見た。

「ひっどぉい! 女の顔殴るなんて最っ低!」

 私がギャーギャー騒ぎ始めた頃、向こうから「何やってるんだ!」と警官が走ってくるのが見えた。その後ろには文香もいる。

 GJ。
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