3 / 9
ガードナー邸へ
しおりを挟む
「察するに、人外の存在に悩まされているんじゃないか?」
「はぁんっ♡」
真剣に話しているというのに、敏感な体は彼の低い囁き声に反応してしまった。
これじゃあ単なる痴女!
「すっ、すみません! 体がおかしくなっていまして、ちょっと……、し、刺激が……」
私は涙目になって言い訳し、すかさず彼から距離を取る。
でも、てっきり変な目で見られると思っていたのに、彼は思いの外真剣な表情をし、私に手を差しだした。
「エメライン、私の家に来ないか? 何らかの解決策を出せるかもしれない」
「え?」
戸惑った私は、声を漏らす。
悪魔憑きを祓うのは聖職者の役目だ。
彼が信心深い男性だとしても、神に身を捧げた訳ではない。
悪魔を祓う役割を持つ聖なる宝剣は、王宮や教会が管理しているし、一般人が悪魔払いをできる訳がない。
ハロルド様の事は好意的に思っているし、心配されて嬉しく思っている。
でも絶大な力を持つ侯爵の彼でも、できる事とできない事があると思うのだけれど……。
「頼む、来てくれ」
けれど真剣な眼差しの彼を見て、ここまで言ってくれる人の申し出を断るのは失礼だと思った。
「分かりました。では少しお茶をしに伺います」
「ああ」
そのあと、私は「ハロルド様からお誘いを受けたと、家族に伝言してちょうだい。なるべく遅くならないようにするから」と従僕にお願いした。
そして皆さんと現地解散の挨拶をしたあと、私はハロルド様の馬車に乗り、彼のタウンハウスへ向かったのだった。
**
体の火照りは少しずつ落ち着いてきている。
触手に襲われ続けて分かった事だけれど、触手の粘液に催淫効果があるのか、襲われたあとの私は、しばらく感度が上がりボーッとしてしまう。
けれど馬車に乗って一時間もする頃には、体はすっかりいつもの調子を取り戻していた。
「どうぞ」
ガードナー侯爵家のタウンハウスに着いたあと、ハロルド様に中に入るよう勧められ、私は帽子を脱いで屋敷に入った。
「おじゃまします」
屋敷の中には人の気配がなく、主人が帰っても年嵩の家令が挨拶をしただけだ。
「歓迎する者がいなくてすまない。あまり人に囲まれるのは好きではないんだ。着替えやお茶を淹れるぐらいは自分でできるし、身の回りの事は家令に、食事は料理人に任せ、屋敷の掃除は定期的に通いのメイドがしている」
「そうなのですね。合理的で良いと思います」
微笑むと、ハロルド様は安心したように微笑み返してくれた。
「そう言ってくれて助かる。中には俺を『ケチ』とか『貧乏なのを隠している』と噂する者もいる。いつもは相手にしていないが、それほど交流していない人の耳に入ると、多少気まずい思いをする」
「人それぞれ心地よい生き方があるのですから、気にする事はありません。意地悪な方々はハロルドに嫉妬しているのです。だから少しでも変わっている点があれば、殊更悪く言えばあなたが傷付くと思っているのですわ」
憧れているハロルド様に悪口を言う人がいると知り、私は憤慨する。
彼は女性から人気があるし、あまり饒舌ではないから人から誤解を受けやすい。
『貴族とはこうあるべき』という生活を送っていれば満足するのかもしれないけれど、少し普通と違う点があるだけで〝変わり者〟扱いされてしまう。
他人の生活なんて自分の人生に関係しないというのに、人というものは他人に興味を持ち、文句を言いたがるものだ。
要するに、暇なのよ。
「こうしてお話しすれば、ハロルド様が素敵な方だと誰もが分かります。あなたが友人にと思う人にあなたの良さを分かってもらえたなら、それでいいと思います」
「ありがとう。君は優しいな」
会話をしながら、私たちは玄関ホールから階段を上がり、応接室に向かう。
やがてお茶が出され、私は芳醇な香りのするそれを飲み人心地つく。
「それで……、解決策とは……?」
肝心の話について切り出すと、ハロルド様は笑みを深める。
「まず、あなたの〝悩み〟がいつ、どうやって始まったのか教えてくれないか?」
「はぁんっ♡」
真剣に話しているというのに、敏感な体は彼の低い囁き声に反応してしまった。
これじゃあ単なる痴女!
「すっ、すみません! 体がおかしくなっていまして、ちょっと……、し、刺激が……」
私は涙目になって言い訳し、すかさず彼から距離を取る。
でも、てっきり変な目で見られると思っていたのに、彼は思いの外真剣な表情をし、私に手を差しだした。
「エメライン、私の家に来ないか? 何らかの解決策を出せるかもしれない」
「え?」
戸惑った私は、声を漏らす。
悪魔憑きを祓うのは聖職者の役目だ。
彼が信心深い男性だとしても、神に身を捧げた訳ではない。
悪魔を祓う役割を持つ聖なる宝剣は、王宮や教会が管理しているし、一般人が悪魔払いをできる訳がない。
ハロルド様の事は好意的に思っているし、心配されて嬉しく思っている。
でも絶大な力を持つ侯爵の彼でも、できる事とできない事があると思うのだけれど……。
「頼む、来てくれ」
けれど真剣な眼差しの彼を見て、ここまで言ってくれる人の申し出を断るのは失礼だと思った。
「分かりました。では少しお茶をしに伺います」
「ああ」
そのあと、私は「ハロルド様からお誘いを受けたと、家族に伝言してちょうだい。なるべく遅くならないようにするから」と従僕にお願いした。
そして皆さんと現地解散の挨拶をしたあと、私はハロルド様の馬車に乗り、彼のタウンハウスへ向かったのだった。
**
体の火照りは少しずつ落ち着いてきている。
触手に襲われ続けて分かった事だけれど、触手の粘液に催淫効果があるのか、襲われたあとの私は、しばらく感度が上がりボーッとしてしまう。
けれど馬車に乗って一時間もする頃には、体はすっかりいつもの調子を取り戻していた。
「どうぞ」
ガードナー侯爵家のタウンハウスに着いたあと、ハロルド様に中に入るよう勧められ、私は帽子を脱いで屋敷に入った。
「おじゃまします」
屋敷の中には人の気配がなく、主人が帰っても年嵩の家令が挨拶をしただけだ。
「歓迎する者がいなくてすまない。あまり人に囲まれるのは好きではないんだ。着替えやお茶を淹れるぐらいは自分でできるし、身の回りの事は家令に、食事は料理人に任せ、屋敷の掃除は定期的に通いのメイドがしている」
「そうなのですね。合理的で良いと思います」
微笑むと、ハロルド様は安心したように微笑み返してくれた。
「そう言ってくれて助かる。中には俺を『ケチ』とか『貧乏なのを隠している』と噂する者もいる。いつもは相手にしていないが、それほど交流していない人の耳に入ると、多少気まずい思いをする」
「人それぞれ心地よい生き方があるのですから、気にする事はありません。意地悪な方々はハロルドに嫉妬しているのです。だから少しでも変わっている点があれば、殊更悪く言えばあなたが傷付くと思っているのですわ」
憧れているハロルド様に悪口を言う人がいると知り、私は憤慨する。
彼は女性から人気があるし、あまり饒舌ではないから人から誤解を受けやすい。
『貴族とはこうあるべき』という生活を送っていれば満足するのかもしれないけれど、少し普通と違う点があるだけで〝変わり者〟扱いされてしまう。
他人の生活なんて自分の人生に関係しないというのに、人というものは他人に興味を持ち、文句を言いたがるものだ。
要するに、暇なのよ。
「こうしてお話しすれば、ハロルド様が素敵な方だと誰もが分かります。あなたが友人にと思う人にあなたの良さを分かってもらえたなら、それでいいと思います」
「ありがとう。君は優しいな」
会話をしながら、私たちは玄関ホールから階段を上がり、応接室に向かう。
やがてお茶が出され、私は芳醇な香りのするそれを飲み人心地つく。
「それで……、解決策とは……?」
肝心の話について切り出すと、ハロルド様は笑みを深める。
「まず、あなたの〝悩み〟がいつ、どうやって始まったのか教えてくれないか?」
64
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる