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初デート 編
理解者
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「父の事が大好きでした。思春期だったのもあって、父を喪って心に深い傷を負ったと思います。当時は強がっていて、素直に泣く事ができませんでした。母は女性らしい……っていうのか、感情を素直に表す人で、優しくておしとやかなタイプなんです。そんな母を『守らなきゃ』って思いました。だから悲しんで泣けなくて、平気なふりをしているうちに、悲しむタイミングを逃してしまったように思えます」
「……分かるよ、それ。俺も似た感じだった」
最初は、ごく最近個人的に親しくなった人に、自分の根幹に関わる事を簡単に話せないと思っていた。
でもレストランで尊さんの話を聞いた時、「この人なら私の痛みを分かってくれるかもしれない」と感じた。
「高校一年生の時に、母が再婚しました。継父はいい人で、もとの奥さんとは病気で死別したそうです。母が誰かと交際しているのは知っていましたが、まさか再婚するとは思わなくて……。心のどこかで『お父さんを亡くしてまだ三年なのに結婚するの?』と責めてしまった自分もいました。……でもいま思えば、母は私と一緒に生きていくのに必死だったと思います。本当は結婚までもっと時間を掛けたかったかもしれないけど、私の進学を思うといつまでも母子家庭ではいられなかった……」
「そうだな。四年制の大学を卒業していなかったら、うちの会社には入っていなかったと思う。……進学させてくれた親御さんに感謝だな」
「はい」
片親を失った理解者であっても、彼は感情的にならず一歩離れたところから意見を言ってくれる。
冷静な反応をしてくれる彼だから、私は自分の事を打ち明けようと思った。
無茶苦茶な人だけど、私は確実に彼を信頼していた。
「継父には連れ子がいて、継兄は二つ上、継妹は二つ下です。……なんて言えばいいのかな……」
そこまで言って私は溜め息をつき、葡萄ジュースをまた一口飲む。
「継兄に性的な嫌がらせを受けたとかじゃないんです。ただ、普通に過ごしてきた仲のいい兄妹の中に〝他人〟が入ってしまった。私がお風呂に入っている時に継兄が洗面所で歯磨きをする時とか、家族で海に行って水着になった時とか、……何となく継兄の反応が気になってしまいました。向こうもちょっと気まずそうで……」
「お前、胸でけぇもんな」
「言い方!」
言葉を選ばないストレートな言い方に、私はビシッと突っ込みを入れる。
「悪いけど、そんだけ存在感あると、男に無視しろっていうのは無理があると思う」
「……まぁ、自分で言うと友達に『自慢?』とか言われるのでずっと言えなかったんですが、……そうですよね……」
私は体型は細身だけど、胸元はドンッと大きい。
会社の制服のブラウスもパツパツで、何回かボタンが取れてしまった事もあった。
漫画みたいにパーン! と弾けたりはしないけど、地味に『あ、取れてる』ってなるので、気づいた相手もちょっと気まずくなる。
「……それで、継妹は普通にお兄ちゃん大好きっ子だったんですが、すっかり嫌われてしまって……」
「あー……」
尊さんは理解し、何回か頷いた。
「分かりやすい嫌がらせとか、いじめはなかったです。兄妹ともに常識人でした。ただ、……なんだろう。……兄妹だけで行動とかになると、継妹が露骨に不機嫌になったり、継兄がソワソワしたり、そういう感じにはなりましたね。だから申し訳なくて、家に居場所がなかったです」
「分かる。うちも似た感じだった」
尊さんは溜め息をついて、皮肉っぽく笑う。
「完成していた家族に参加する側って微妙だよな。住んでいる家は他人の家で、持ってきた私物以外はすべて他人の物。自由に使っていいのかも分からなくて、遠慮していたら『自分の家のように振る舞え』って言われるけど、そうもいかなくて」
「それ! 最初の半年ぐらいは安眠できなくて、ちょっと不眠気味でした。学校が変わらなかったのは幸いだったかな。あれで友達もいなかったら、どうなってたか……」
やっぱり尊さんは理解してくれる。
自分の中で一番デリケートな部分を打ち明けているのに、こんなに安心して話せる人がいるとは思わなかった。
心から理解し合えるとは思っていない。
お互い状況が違うし、何から何まで同じではない。
それでも察して、想像を働かせる事はできる。
「……だから私、家でも気持ちが休まらなくて、その分学生時代の友達をとても大切にしたんです。親友とか、高校時代から付き合っていた昭人とか……」
話が昭人に繋がり、尊さんは納得したように頷いた。
「……分かるよ、それ。俺も似た感じだった」
最初は、ごく最近個人的に親しくなった人に、自分の根幹に関わる事を簡単に話せないと思っていた。
でもレストランで尊さんの話を聞いた時、「この人なら私の痛みを分かってくれるかもしれない」と感じた。
「高校一年生の時に、母が再婚しました。継父はいい人で、もとの奥さんとは病気で死別したそうです。母が誰かと交際しているのは知っていましたが、まさか再婚するとは思わなくて……。心のどこかで『お父さんを亡くしてまだ三年なのに結婚するの?』と責めてしまった自分もいました。……でもいま思えば、母は私と一緒に生きていくのに必死だったと思います。本当は結婚までもっと時間を掛けたかったかもしれないけど、私の進学を思うといつまでも母子家庭ではいられなかった……」
「そうだな。四年制の大学を卒業していなかったら、うちの会社には入っていなかったと思う。……進学させてくれた親御さんに感謝だな」
「はい」
片親を失った理解者であっても、彼は感情的にならず一歩離れたところから意見を言ってくれる。
冷静な反応をしてくれる彼だから、私は自分の事を打ち明けようと思った。
無茶苦茶な人だけど、私は確実に彼を信頼していた。
「継父には連れ子がいて、継兄は二つ上、継妹は二つ下です。……なんて言えばいいのかな……」
そこまで言って私は溜め息をつき、葡萄ジュースをまた一口飲む。
「継兄に性的な嫌がらせを受けたとかじゃないんです。ただ、普通に過ごしてきた仲のいい兄妹の中に〝他人〟が入ってしまった。私がお風呂に入っている時に継兄が洗面所で歯磨きをする時とか、家族で海に行って水着になった時とか、……何となく継兄の反応が気になってしまいました。向こうもちょっと気まずそうで……」
「お前、胸でけぇもんな」
「言い方!」
言葉を選ばないストレートな言い方に、私はビシッと突っ込みを入れる。
「悪いけど、そんだけ存在感あると、男に無視しろっていうのは無理があると思う」
「……まぁ、自分で言うと友達に『自慢?』とか言われるのでずっと言えなかったんですが、……そうですよね……」
私は体型は細身だけど、胸元はドンッと大きい。
会社の制服のブラウスもパツパツで、何回かボタンが取れてしまった事もあった。
漫画みたいにパーン! と弾けたりはしないけど、地味に『あ、取れてる』ってなるので、気づいた相手もちょっと気まずくなる。
「……それで、継妹は普通にお兄ちゃん大好きっ子だったんですが、すっかり嫌われてしまって……」
「あー……」
尊さんは理解し、何回か頷いた。
「分かりやすい嫌がらせとか、いじめはなかったです。兄妹ともに常識人でした。ただ、……なんだろう。……兄妹だけで行動とかになると、継妹が露骨に不機嫌になったり、継兄がソワソワしたり、そういう感じにはなりましたね。だから申し訳なくて、家に居場所がなかったです」
「分かる。うちも似た感じだった」
尊さんは溜め息をついて、皮肉っぽく笑う。
「完成していた家族に参加する側って微妙だよな。住んでいる家は他人の家で、持ってきた私物以外はすべて他人の物。自由に使っていいのかも分からなくて、遠慮していたら『自分の家のように振る舞え』って言われるけど、そうもいかなくて」
「それ! 最初の半年ぐらいは安眠できなくて、ちょっと不眠気味でした。学校が変わらなかったのは幸いだったかな。あれで友達もいなかったら、どうなってたか……」
やっぱり尊さんは理解してくれる。
自分の中で一番デリケートな部分を打ち明けているのに、こんなに安心して話せる人がいるとは思わなかった。
心から理解し合えるとは思っていない。
お互い状況が違うし、何から何まで同じではない。
それでも察して、想像を働かせる事はできる。
「……だから私、家でも気持ちが休まらなくて、その分学生時代の友達をとても大切にしたんです。親友とか、高校時代から付き合っていた昭人とか……」
話が昭人に繋がり、尊さんは納得したように頷いた。
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