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彼と彼女のその後 編
キッチンにて二人で
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「…………バカですか、あんた……」
私は室内に広がった商品の山を見て、ポツンと呟く。
「あはは、バカは酷いな。もっと喜んでよ」
外商たちが撤収したあと、涼さんは「そろそろ腹減ったね」と言ってキッチンに向かい、冷蔵庫にある作り置きの何かを温めたり、お皿に盛っている。
どうやら二泊三日の間に家政婦さんが来て作った物らしく、中にはフランス料理の前菜みたいに綺麗な物もあって美味しそうだ。
涼さんの家にある食器はどれも高そうで、ブランド陶器から焼き物と色々あるけれど、割ってしまったら○万円……と思うと、「ご飯美味しそう」以外の意味でドキドキする。
「恵ちゃん、スープ温めてるけど、焦げないように見ててくれる?」
「はい」
役目を与えられた私はホッとし、コンロの前に立つ。
「これ、一応してて」
涼さんに赤いカフェエプロンを渡され、私はそれをつけて腰の後ろでキュッと紐を縛る。
――と。
「いいねぇ……。エプロン姿……」
少し離れたところで涼さんがしみじみと言い、ハッとした私は突っ込みを入れた。
「エプロン姿を見たいだけですか!」
「あはは! 見たかった! でもキッチンに立つし、一応……ね」
「もう……」
無邪気に笑われると怒る気持ちにもならず、私はレードルで鍋の中を掻き混ぜる。
涼さんは人参のグラッセと茹でたインゲン豆を温め、高級そうな肉に塩コショウをしている。
「それ、何の肉ですか?」
「ん? シャトーブリアン。苦手だった?」
ケロリと言われ、私はまたドン引きする。
「……高価すぎて食べた事もありませんよ……。美味しいお肉なら何でも好きです」
「そう? 良かった」
お肉はスーパーで見るサーロインステーキの形をしておらず、赤身がメインだけど適度にサシが入っていて柔らかそうだ。
「焼き方に好みはある?」
「あー……、レアすぎるのは少し苦手で、ミディアム……?」
「OK」
涼さんの家のキッチンは、さすがというか鉄板焼きのコーナーがあって、上には煙を吸うやつがついている。
「ここ、焼き肉とかもするんですか?」
「そうだね。尊とよく焼き肉するよ。……あいつ、『野菜も食え』っておかんみたいなんだよ。鍋した時も鍋奉行やってくれるし」
「……篠宮さんはそういう感じですよね。朱里の恋人なんですけど、上司なのもあって保護者っぽい一面がチラホラ見えます」
言ったあと、「……まぁ、中学生の時から見てるもんなぁ……」と思った。
「恵ちゃんは尊をどう思ってる?」
「そうですねぇ……」
涼さんはご飯を炊く時は炊飯器ではなく、お米用の鍋を使ってコンロで炊く派らしい。
タッチパネルでお米モードになったコンロでは、どっしりとしたフォルムの伊賀焼の土鍋がのっていて、ご飯が炊ける美味しそうな匂いが漂っている。
「最初は中学校に大学生が来たもんだから、『すげーやべぇ奴』って思いました」
それを聞いた瞬間、涼さんは「ぶはっ」と噴き出して横を向き、クツクツ笑い始めた。
「美形なんだけど、やつれた感じのやべぇ感じの大学生が、自分の親友について嗅ぎ回ってるんですよ? 警察案件ですよね」
私は当時の篠宮さんのヤバさを思い出し、しみじみと溜め息をつく。
「……でも切羽詰まった感があったから、いつでも警察に通報できるように警戒しつつ、話だけ聞いてみました。……高級なお店のスイーツにつられたっていうのもありますけど」
涼さんはキャベツを洗ってザクザク切り、電子レンジで温野菜にしている。
「朱里が死のうとしていたと知ってショックでした。私には一言も言わず、知らない場所で知らない男に助けられていたって、ちょっと屈辱だったし、頼られなかった自分が情けなかったです」
スープは充分に温まったので、私は火を止めてレードルを置く。
「……目の前にいる、人生に行き詰まった感じの人を信頼していいか分からなかったんですが、彼が朱里の命を助けて、物凄く心配してくれているのは伝わったんです」
私はキッチン台に寄りかかり、溜め息をつく。
「本当は友達の情報を他人に渡すなんて、親友としてしちゃいけなかったと思います。恋敵になる相手なら、なおさら。……でも何となく直感で、『この人は〝子供〟である私より、朱里の助けになってくれるかもしれない』っていう打算が働いたんです」
「それは打算じゃないと思うよ。大切な親友を守りたいという友情だ」
フォローしてくれた涼さんの言葉を聞き、私は小さく笑む。
私は室内に広がった商品の山を見て、ポツンと呟く。
「あはは、バカは酷いな。もっと喜んでよ」
外商たちが撤収したあと、涼さんは「そろそろ腹減ったね」と言ってキッチンに向かい、冷蔵庫にある作り置きの何かを温めたり、お皿に盛っている。
どうやら二泊三日の間に家政婦さんが来て作った物らしく、中にはフランス料理の前菜みたいに綺麗な物もあって美味しそうだ。
涼さんの家にある食器はどれも高そうで、ブランド陶器から焼き物と色々あるけれど、割ってしまったら○万円……と思うと、「ご飯美味しそう」以外の意味でドキドキする。
「恵ちゃん、スープ温めてるけど、焦げないように見ててくれる?」
「はい」
役目を与えられた私はホッとし、コンロの前に立つ。
「これ、一応してて」
涼さんに赤いカフェエプロンを渡され、私はそれをつけて腰の後ろでキュッと紐を縛る。
――と。
「いいねぇ……。エプロン姿……」
少し離れたところで涼さんがしみじみと言い、ハッとした私は突っ込みを入れた。
「エプロン姿を見たいだけですか!」
「あはは! 見たかった! でもキッチンに立つし、一応……ね」
「もう……」
無邪気に笑われると怒る気持ちにもならず、私はレードルで鍋の中を掻き混ぜる。
涼さんは人参のグラッセと茹でたインゲン豆を温め、高級そうな肉に塩コショウをしている。
「それ、何の肉ですか?」
「ん? シャトーブリアン。苦手だった?」
ケロリと言われ、私はまたドン引きする。
「……高価すぎて食べた事もありませんよ……。美味しいお肉なら何でも好きです」
「そう? 良かった」
お肉はスーパーで見るサーロインステーキの形をしておらず、赤身がメインだけど適度にサシが入っていて柔らかそうだ。
「焼き方に好みはある?」
「あー……、レアすぎるのは少し苦手で、ミディアム……?」
「OK」
涼さんの家のキッチンは、さすがというか鉄板焼きのコーナーがあって、上には煙を吸うやつがついている。
「ここ、焼き肉とかもするんですか?」
「そうだね。尊とよく焼き肉するよ。……あいつ、『野菜も食え』っておかんみたいなんだよ。鍋した時も鍋奉行やってくれるし」
「……篠宮さんはそういう感じですよね。朱里の恋人なんですけど、上司なのもあって保護者っぽい一面がチラホラ見えます」
言ったあと、「……まぁ、中学生の時から見てるもんなぁ……」と思った。
「恵ちゃんは尊をどう思ってる?」
「そうですねぇ……」
涼さんはご飯を炊く時は炊飯器ではなく、お米用の鍋を使ってコンロで炊く派らしい。
タッチパネルでお米モードになったコンロでは、どっしりとしたフォルムの伊賀焼の土鍋がのっていて、ご飯が炊ける美味しそうな匂いが漂っている。
「最初は中学校に大学生が来たもんだから、『すげーやべぇ奴』って思いました」
それを聞いた瞬間、涼さんは「ぶはっ」と噴き出して横を向き、クツクツ笑い始めた。
「美形なんだけど、やつれた感じのやべぇ感じの大学生が、自分の親友について嗅ぎ回ってるんですよ? 警察案件ですよね」
私は当時の篠宮さんのヤバさを思い出し、しみじみと溜め息をつく。
「……でも切羽詰まった感があったから、いつでも警察に通報できるように警戒しつつ、話だけ聞いてみました。……高級なお店のスイーツにつられたっていうのもありますけど」
涼さんはキャベツを洗ってザクザク切り、電子レンジで温野菜にしている。
「朱里が死のうとしていたと知ってショックでした。私には一言も言わず、知らない場所で知らない男に助けられていたって、ちょっと屈辱だったし、頼られなかった自分が情けなかったです」
スープは充分に温まったので、私は火を止めてレードルを置く。
「……目の前にいる、人生に行き詰まった感じの人を信頼していいか分からなかったんですが、彼が朱里の命を助けて、物凄く心配してくれているのは伝わったんです」
私はキッチン台に寄りかかり、溜め息をつく。
「本当は友達の情報を他人に渡すなんて、親友としてしちゃいけなかったと思います。恋敵になる相手なら、なおさら。……でも何となく直感で、『この人は〝子供〟である私より、朱里の助けになってくれるかもしれない』っていう打算が働いたんです」
「それは打算じゃないと思うよ。大切な親友を守りたいという友情だ」
フォローしてくれた涼さんの言葉を聞き、私は小さく笑む。
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