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衝撃的な事件1
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やがて衝撃的な事件が起こった。
ある日ヴォルフが読んでいた本が気になり、「何の本を読んでいるのですか?」と尋ねれば「もう少しで読み終わるので君も読むか?」と数日後に渡された。
本自体は特別なものではなく、経済学者が書いた難しい本だ。
さすがにこれは読めない……とアンバーは頭を抱えてしまう。どうやら思っていたよりヴォルフはずっと頭のいい人物らしい。
日中彼が出掛けているあいだ、本を返そうと続き部屋を通り抜ける。
シシィはアンバーが室内にいる時は、特に同行する必要がないので一人だ。
「お邪魔します」と小さく声を掛けてヴォルフの部屋に入り、少し見回した。
壁際には本がびっしりと並べられており、中には鍵のかかった引き出しもある。執務室には重要な書類もあるからか、それらの鍵を彼はまとめて腰に結わえていた。
「人の部屋にいるのは落ち着かないから、本を置いてすぐ戻りましょう」
呟いて執務室のデスクに近付いた時、デスクの上に幾つか手紙が置いてあるのに気づく。
――他人の手紙を見てはいけない。
そう思いつつも、つい宛名ぐらいは……と封筒を見てしまった。
四通あるうちの三通は、アンバーが知らない名前が書かれてあり、その人物の家紋らしい封蝋が押されてあった。
おまけに表面には「デューク・ヘレヤークトフント」と書いてあり、ヴォルフの秘密を知ってしまって胸がドキッとする。
デュークという事は公爵だ。そしてヴォルフのファミリーネームはヘレヤークトフント。
それだけでも彼の秘密を知ってドキドキしているというのに、アンバーを不穏にさせるもう一通の手紙があった。
その一通は、見ただけでどこか人を不安にさせる赤い封筒だ。
真っ赤という訳でもなく、ワイン色というにもまた違う。どこか血を思わせる深い赤は、触れるのすら躊躇われた。
差出人の欄に「クラブG」とだけあり、ウサギのイラストが描かれてあった。封蝋もウサギの頭部を模したもので、秘密の匂いがプンプンとする。
「これは……」
その時遠くから人の足音が聞こえたような気がしたので、アンバーは返すべき本を胸に抱えたまま、続き間の方へ向かった。
ドキドキと鳴る胸を本ごと押さえ、口を閉ざして足音を忍ばせる。
やっと自分の部屋まで戻った時は、緊張のあまり汗ばんですらいた。
「G……クラブの名前? Gのつくクラブと言えば、普通紳士クラブだけれど……。それにあのウサギ……」
ウサギと言えば可愛らしい小動物をイメージするが、何だかあのウサギは嫌な印象しか感じない。
「あ……」
思い出したのは、裏オークションで雑用として働いていた者たちが、皆ウサギの面を被っていた事だ。
「あれ……かもしれない」
ドクッと胸が嫌な音を立て、アンバーは気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする。
ここが仮にアルフォード王国ではなく、クラルヴィン王国だとする。
だとしたらクラルヴィン王国の言葉で、ウサギの頭文字が「G」なのでは……?
仮説を考えたアンバーは、いてもたってもいられず廊下に出た。部屋の外で控えていたシシィが「奥様?」と不思議そうな顔をするが、アンバーは迷わず図書室に向かって歩き出した。
シシィもアンバーがただ散歩に出たい訳ではなく、どこか目的地があるのだろうと察すると、無言でついてくる。
やがて辿り着いた図書室で、アンバーは辞書を探し始めた。
広い書架のどこに辞書があるか分からず、思わずシシィに尋ねる。
「ねぇ、シシィ。辞書がどこにあるか分かる? その……、ヴォルフ様から貸して頂いた本で、分からない単語があるの」
「ああ、それで急いでいらしたのですね。本って分からない単語があると、気になって先に進めませんものね。辞書はこちらです」
納得した顔で頷き、シシィはアンバーを先導する。
入り口近くの場所に辞書コーナーがあり、その中の一冊をシシィが抜き取った。
「こちらがここの共用語の辞書です」
使っている言葉を明かすのは、アンバーに場所を示すようなものだ。しかしアンバーがいない場所で使用人たちはクラルヴィンの言葉で話している。それを普通に耳にしている事から、言葉ぐらいは隠す必要もないと判断したかもしれない。
もしくは、ヴォルフからある程度こういう領域までは話してもいいと、前もって指示がある可能性も否めない。
「ありがとう、シシィ」
アンバーは辞書を手にすぐテーブルに向かった。
この大陸全体の共用語は、アルフォード王国で使っている言葉だ。そちらの言葉で書かれてある索引から、「ウサギ」を探しだしすぐにページをめくる。
シシィは邪魔をしてはいけないと思ったのか、入り口近くで待機していた。
(ウサギは……。違う、Gじゃない。だとしたら、Gは何の頭文字? ジェントルマンという大前提があるのは分かっているけれど、あれは正式な紳士クラブの雰囲気じゃないわ)
思考を巡らせ、アンバーは辞書のGのページをめくってゆく。
(けれど闇雲にGから始まる単語を見ても、正解は見つからない。あの手紙の雰囲気から結びつく言葉……)
とりあえずちゃんと椅子に座り、辞書の上に手を置いて目を閉じた。
まな裏に思い浮かぶのは、赤い封筒にやけに丁寧に書かれた「G」の一文字。そしてその右横にあった黒いウサギのイラスト。「デューク・ヘレヤークトフント」とウサギの封蝋。
(ヘレヤークトフントってどういう意味かしら?)
ウサギの謎よりも、まずそちらを解決しようと思った。
Hの項目を捲ればヘレは「地獄」。続く単語がなかったので、ヤークトフントを別に調べると「猟犬」。
(『地獄の猟犬』……? これがヴォルフ様のファミリーネームなの? クラルヴィン王国の事はよく知らないけれど、何かの通り名みたい)
納得いったという感じではないが、意味は分かった。
ずっとシシィを待たせておくのも不信を生むかもしれないので、アンバーはまたウサギについて考え始める。
(あの手紙……。もしウサギが、裏オークションで働いていたウサギ男を示すものだったら……。オークション関係? オークションなら綴りは多分OかA。『裏』は?)
思いついた単語をまた索引から調べ、単語を引き当てる。けれど『裏』はZから始まる単語だった。
(では……思いつく単語を全部)
その後、あの手紙の雰囲気がから思いつく単語を調べ、大体の見当がついた。
候補となるのは『妖しい』、『秘密』というような言葉だ。それならばGから始まる単語で説明がつく。『妖しいクラブ』、『秘密クラブ』と綴りを合わせたとしても、どこかしっくりくる。
だがすべてアンバーの推測の域を出ない。
ある日ヴォルフが読んでいた本が気になり、「何の本を読んでいるのですか?」と尋ねれば「もう少しで読み終わるので君も読むか?」と数日後に渡された。
本自体は特別なものではなく、経済学者が書いた難しい本だ。
さすがにこれは読めない……とアンバーは頭を抱えてしまう。どうやら思っていたよりヴォルフはずっと頭のいい人物らしい。
日中彼が出掛けているあいだ、本を返そうと続き部屋を通り抜ける。
シシィはアンバーが室内にいる時は、特に同行する必要がないので一人だ。
「お邪魔します」と小さく声を掛けてヴォルフの部屋に入り、少し見回した。
壁際には本がびっしりと並べられており、中には鍵のかかった引き出しもある。執務室には重要な書類もあるからか、それらの鍵を彼はまとめて腰に結わえていた。
「人の部屋にいるのは落ち着かないから、本を置いてすぐ戻りましょう」
呟いて執務室のデスクに近付いた時、デスクの上に幾つか手紙が置いてあるのに気づく。
――他人の手紙を見てはいけない。
そう思いつつも、つい宛名ぐらいは……と封筒を見てしまった。
四通あるうちの三通は、アンバーが知らない名前が書かれてあり、その人物の家紋らしい封蝋が押されてあった。
おまけに表面には「デューク・ヘレヤークトフント」と書いてあり、ヴォルフの秘密を知ってしまって胸がドキッとする。
デュークという事は公爵だ。そしてヴォルフのファミリーネームはヘレヤークトフント。
それだけでも彼の秘密を知ってドキドキしているというのに、アンバーを不穏にさせるもう一通の手紙があった。
その一通は、見ただけでどこか人を不安にさせる赤い封筒だ。
真っ赤という訳でもなく、ワイン色というにもまた違う。どこか血を思わせる深い赤は、触れるのすら躊躇われた。
差出人の欄に「クラブG」とだけあり、ウサギのイラストが描かれてあった。封蝋もウサギの頭部を模したもので、秘密の匂いがプンプンとする。
「これは……」
その時遠くから人の足音が聞こえたような気がしたので、アンバーは返すべき本を胸に抱えたまま、続き間の方へ向かった。
ドキドキと鳴る胸を本ごと押さえ、口を閉ざして足音を忍ばせる。
やっと自分の部屋まで戻った時は、緊張のあまり汗ばんですらいた。
「G……クラブの名前? Gのつくクラブと言えば、普通紳士クラブだけれど……。それにあのウサギ……」
ウサギと言えば可愛らしい小動物をイメージするが、何だかあのウサギは嫌な印象しか感じない。
「あ……」
思い出したのは、裏オークションで雑用として働いていた者たちが、皆ウサギの面を被っていた事だ。
「あれ……かもしれない」
ドクッと胸が嫌な音を立て、アンバーは気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする。
ここが仮にアルフォード王国ではなく、クラルヴィン王国だとする。
だとしたらクラルヴィン王国の言葉で、ウサギの頭文字が「G」なのでは……?
仮説を考えたアンバーは、いてもたってもいられず廊下に出た。部屋の外で控えていたシシィが「奥様?」と不思議そうな顔をするが、アンバーは迷わず図書室に向かって歩き出した。
シシィもアンバーがただ散歩に出たい訳ではなく、どこか目的地があるのだろうと察すると、無言でついてくる。
やがて辿り着いた図書室で、アンバーは辞書を探し始めた。
広い書架のどこに辞書があるか分からず、思わずシシィに尋ねる。
「ねぇ、シシィ。辞書がどこにあるか分かる? その……、ヴォルフ様から貸して頂いた本で、分からない単語があるの」
「ああ、それで急いでいらしたのですね。本って分からない単語があると、気になって先に進めませんものね。辞書はこちらです」
納得した顔で頷き、シシィはアンバーを先導する。
入り口近くの場所に辞書コーナーがあり、その中の一冊をシシィが抜き取った。
「こちらがここの共用語の辞書です」
使っている言葉を明かすのは、アンバーに場所を示すようなものだ。しかしアンバーがいない場所で使用人たちはクラルヴィンの言葉で話している。それを普通に耳にしている事から、言葉ぐらいは隠す必要もないと判断したかもしれない。
もしくは、ヴォルフからある程度こういう領域までは話してもいいと、前もって指示がある可能性も否めない。
「ありがとう、シシィ」
アンバーは辞書を手にすぐテーブルに向かった。
この大陸全体の共用語は、アルフォード王国で使っている言葉だ。そちらの言葉で書かれてある索引から、「ウサギ」を探しだしすぐにページをめくる。
シシィは邪魔をしてはいけないと思ったのか、入り口近くで待機していた。
(ウサギは……。違う、Gじゃない。だとしたら、Gは何の頭文字? ジェントルマンという大前提があるのは分かっているけれど、あれは正式な紳士クラブの雰囲気じゃないわ)
思考を巡らせ、アンバーは辞書のGのページをめくってゆく。
(けれど闇雲にGから始まる単語を見ても、正解は見つからない。あの手紙の雰囲気から結びつく言葉……)
とりあえずちゃんと椅子に座り、辞書の上に手を置いて目を閉じた。
まな裏に思い浮かぶのは、赤い封筒にやけに丁寧に書かれた「G」の一文字。そしてその右横にあった黒いウサギのイラスト。「デューク・ヘレヤークトフント」とウサギの封蝋。
(ヘレヤークトフントってどういう意味かしら?)
ウサギの謎よりも、まずそちらを解決しようと思った。
Hの項目を捲ればヘレは「地獄」。続く単語がなかったので、ヤークトフントを別に調べると「猟犬」。
(『地獄の猟犬』……? これがヴォルフ様のファミリーネームなの? クラルヴィン王国の事はよく知らないけれど、何かの通り名みたい)
納得いったという感じではないが、意味は分かった。
ずっとシシィを待たせておくのも不信を生むかもしれないので、アンバーはまたウサギについて考え始める。
(あの手紙……。もしウサギが、裏オークションで働いていたウサギ男を示すものだったら……。オークション関係? オークションなら綴りは多分OかA。『裏』は?)
思いついた単語をまた索引から調べ、単語を引き当てる。けれど『裏』はZから始まる単語だった。
(では……思いつく単語を全部)
その後、あの手紙の雰囲気がから思いつく単語を調べ、大体の見当がついた。
候補となるのは『妖しい』、『秘密』というような言葉だ。それならばGから始まる単語で説明がつく。『妖しいクラブ』、『秘密クラブ』と綴りを合わせたとしても、どこかしっくりくる。
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