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Lv.17-2
しおりを挟む-----シロサイの思い出-----
高校2年、同じクラスの男子がはしゃいで居る会話の内容が聞こえてきた。
「弁当箱はどこだ、体操着は出したか、制服にシミがついてる、ってずっとうるさくて」
「勉強しろ学校だけじゃ足りないだろってうちも」
「うぜーんだよな、母ちゃん毎日怒鳴ってる」
「ウチは親父が部活なんかしてねーでサッサと帰って来いって言われんだぜ」
その内容は非常に共感性が高く、白井采花にとって頷けるものだった。
父と母の仲はさほど良くなかったが、采花に対しては2人ともが口うるさく何かと干渉しては文句を並べ、家事をやっておけ、食費は削れと無茶難題を振り掛けた。
(親なんてうるさいだけよね……)
その時、教室の隅から聞こえたのが高山達也の声である。
「親が居るだけありがたいと思え」
一瞬、場が凍りついたように沈黙したけれど、高山への関心を抱く者は居らず再度話が再開した。
采花も思った。
そんなの綺麗事だ、と。
(───ありがたいなんて思えない環境に居る人の気持ちが分からないだけよ)
それから数ヶ月しないうち。
両親が離婚し、父親が家を出て行った。
離婚なんて珍しいことでもなかったし、采花は単純に口うるさい人間が減ってストレスも減ったと思った。
そしてその直後、母親が蒸発した。
この時もストレスの原因が全てなくなったと思う程度ではあったが、日々過ごすうちに家族の居ない生活が苦しくなった。
学校のこと、生活のこと、お金のこと。
その全てを自分1人で解決しなくてはならなくなったのだ。
采花は高山達也の言葉を思い出した。
【親が居るだけありがたいと思え】
その言葉を理解する時が来ようとは、悔しいながらに自分の考えの甘さを呪うように後悔した。
幸い、祖母と連絡が取れて解決する策を見出せはしたものの、全てを祖母に甘えることなどできず一人暮らしを続けるためバイトを始めた。
ある日、クラスメイトの女子(島田和葉)が高山達也と話しているのを耳にする。
「昨日、達也のご両親の1周忌だったんだよね?」
「うん」
「寂しい?」
「いや? お父さん居るし」
「おじさん、達也を養子にしてくれた上、今新しい家も建ててくれてるんでしょ?優おじすぎ」
「奥さん迎えるらしい」
「え、おじさん結婚するの?」
「うん」
「新しいお母さんには会ったの?」
「うん。姉もできる」
「えー! すごい一気に家族できるんじゃん」
話を聞いた限りで高山達也について理解したのは、ご両親が1年前に亡くなっていることと、叔父に当たる人の養子になったこと。そしてその叔父さんが子連れのパートナーと結婚して家族ができること。
すごく濃厚な情報ではあったが、2人の会話の雰囲気はさらりと言えてしまえるくらいの軽微なもので、聞いてる采花としては身構えることもなかった。
ただ、そんな環境であって親のありがたみを説いたのだとすれば、今更ながらに説得力があった。
両親は居らず、実の親ではない大人の力を借りて生きる。
まるで自分と似た境遇ではないか。
それを知ってから、高山達也のことが気になり始めた。もちろんこの時はまだ、男として気になるなどの恋愛感情は一切ない。
だが、気になり始めると勝手に目で追い、クラスやクラス外からの女子の視線が集まっていることにようやく気づいた。
黙っていてもモテる、高山達也はそういうタイプであり、自分とは縁のない人間だとも思った。
だが高校2年、一応進学校である学校の生徒にとってはもう既に進路相談の時期でもある。
高山達也はしばらく登校しておらず、体調不良で休んで居るらしいと聞いた。
家もそれなりに近く、委員長として急ぎで進路相談表を届ける仕事が任された采花は、初めて高山家を訪ねることになる。
「委員長さん? 采花ちゃんって言うのね。
たっちゃんは寝てるけど、お部屋に入っても大丈夫だと思うわ。今ケーキ焼いてるところだから、お話が終わったら一緒に食べましょ」
姉の麻央に初めて会ったのもこの時で、その勢いに押されてしまった。
再婚相手の連れ子だと聞いていたので、采花の持つ高山達也のイメージと似ていないこともすぐ納得した。
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