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Lv.MAX 平和な国で勇者のその後
しおりを挟むよく晴れた日。
俺はこれまでのどんな大会よりも緊張していた。
ナビゲーターは俺に簡単な指示を出して、待機していろと離れていってしまった。
中央に立った俺に視線を向ける観客たちは、とてもとても生暖かい目を向けてくれている。
俺の背後には校長先生のような少し太った男が1人だけ。
みんなが笑顔で、俺だけが緊張して。
しかし急にファンファーレが鳴り響いたと思えば、みんなの視線は俺の見ている先へと移動した。
『花嫁の入場です』
ガチャリ。開いた大きくて重厚な扉から、ウェディングドレスを着た女性が現れた。
横に立ち、腕を組んで歩いてくるのは非常に若く見えるが花嫁の父である。
赤いカーペットを歩き、俺の元まで届けられた花嫁を義父からもらい受ける。
義父は笑顔の中に寂しさを見せた。
『病める時モォ、健やかなる時モォ
富める時モォ、貧しき時モォ、愛しィ、敬ィ、
その命ある限り真心を尽くしィ、
慈しむ事ヲォ、誓いますカァ?』
「誓います」
「誓います。命かけて守ります。
本気で幸せにするために誠心込めて生き抜くつもりがあります。
俺にはこの人を愛し続ける意志があります。
死ぬまでずっと離さないって誓う! 俺のもんだ!」
校長先生のような男は神父さんだ。
俺の怒涛なる本気の誓いを聞き届けてくれた。
『わ、分かりましたァ。
でワァ指輪の交換ヲォ』
昨日までカップルリングをしていたお互いの薬指に、今日から新たな結婚指輪をはめていく。
コントローラーの操作性なんかは全く考えずに決めた、2人のお気に入りだ。
『それでワァ、誓いのキッスヲォ』
「うす!」
気合いを入れて向きあうと、花嫁は少し屈んだ。
ベールアップをするとそこに現れたのは、愛しくて愛しくて仕方ない、采花である。
「かわ、かわいい」
「くすくすくす。達也くん」
「ちゅーします!」
采花が顎を上げてくれて、軽くキス。
会場のスタッフからは写真を撮るタイミングのために、3秒から5秒が理想だと言われていたので心の中で数えた。
唇を離すと照れ笑いする采花が可愛い。
『若いお2人はこれから、素敵なご夫婦となって───』
「ちょい待って!」
司会者が進行しようとしたのを止めた。
「お嫁さんにもうちょっとちゅーしたいから!」
『ぅえっ?』
「ちょ、達也くん、んぐっ……」
「ちゅーーーーーーーー」
観客席、ではなく、参列者たちが全員注目していることなどお構いなしに、俺は花嫁姿の可愛い采花にキスをした。
長い、長い、長い、長い、長い、長い……
長い、長い、長い、長い、長い、長い……
長い、長い、長い、長い、長い、長いキス。
「ん~~っちゅぱっ!」
離れる合図を送ると、ちゃんとカメラマンの居る方からシャッターが連射された音が聞こえた。
バッチリである。
『とても情熱的なキスで誓いが交わされました。
若いお2人はこれから、素敵なご夫婦となって参ります。どうかお2人のこれからが幸せに溢れますように───』
披露宴にはゲーム関係者が多く訪れた。
「おめでとう! ムジンくん、シロサイちゃん」
「結婚式まで呼んでくれて嬉しいよ」
「ブルースさん、レッドビーさん。きてくれてありがとうございます」
「初めてチーム戦を組んだ時がもう何年前か……」
「私もお二人とここまで仲良くしてもらえて光栄です」
2人とは縁があって何度もチームを組んでもらっている。国内はもちろん海外遠征へも一緒に行ったし、苦楽を共にしてくれた仲間である。
「おめでとう、2人とも」
「事務所の人たちー! あざまっす!」
「ほんと2人には色々振り回されたけど、こうなると、あれもこれもいい思い出だよ」
「ご迷惑をお掛けしてます」
「2人のおかげでうちの事務所潤ってるからね」
「ははは。最後までよろしくお願いします」
引退する話は事務所の人にも通してある。
最後の大会を終えたタイミングで、と決めてしまえばもう、俺に未練も迷いもなかった。
「達也、采花、おめでとう。ついにって感じ」
「和葉。お前の世話焼きにはずいぶん助けられた」
「友だちになれたのが嬉しくて、私……」
「やだ泣かないでよ? また新居に遊びに行くから」
「うん、約束ね。絶対ね」
和葉と采花はかなり、親友的な立ち位置らしい。
俺たちが移り住んだ新居にも、早いうちに采花が招待していたし、唯一、心の内を話せる友だちだと采花は言っている。
俺たちの結婚を祝ってくれる人たちに囲まれて、おめでとうとありがとうと笑顔に溢れた。
ゲームという世界で繋がっただけの関係。
でもゲームの世界でなければ会えなかった人たちと知り合い、俺たちは支えられてきた。
この場は俺たちを祝ってもらうためじゃなく、俺たちを支えてくれた人たちへの感謝の場だ。
これは終わりではない。
これから新たなステージへと進む。
実装されるのは〝現実〟であり、銃もトラップもないけれど、ゲームより難しい局面に立ち会うことはありそうだ。
そんな時でも俺は、最高のパフォーマンスをしてみせる。采花と協力すれば神レベルの連携で突破できると確信している。
『ご参列の皆様、新郎新婦のお席の前にお集まりください。本日最高の笑顔で、写真を撮りましょう』
俺の叔父さんだった、父。
父と結婚した奥さんの、母。
血の繋がらない姉の、麻央。
麻央の夫で兄貴になった、圭人さん。
2人の子どもたち。
一度は仲違いしていた、采花の父。
おかんみたいな世話焼きの、和葉。
迷惑をかけてきた事務所の人たち。
ブルースさんと、レッドビーさん。
他にも、数少ないながらに友人たちや職場関係の人たち。わらわらと集まってくる参列者はみんな、俺たちの仲間だ。
「采花。2人でじゃなくてさ」
「うん?」
「ここにいるみんなでさ」
「うん」
「幸せになりたいな」
采花は俺の手を握ってくれた。
「なれるよ。なろう」
力強く頷いてくれた采花は、可愛いのは当たり前だがそれ以上にかっこよかった。
多分俺は、高校時代から変わらない、目的を見定め続ける強い意志に惚れたんだな。
俺は愛おしい花嫁の温かいその手を握り返し、カメラに視線を向けた。
全員が笑顔のその写真は、最高の一枚になった。
~Fin~
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