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番外1【勇者、墓参りをする】
しおりを挟むムジンフリーリィの引退はそれなりに惜しまれた。
ゲーム雑誌Gamewaywayには引退報告がでかでかと掲載され、これまでの大会戦績や配信によって知恵を得たリスナーからのコメントなどで華が添えられた。
現役最後の大会は惜しくも2位となったが、この日優勝を飾った優勝プレイヤーからこんなことを言われた。
『ムジンフリーリィを目指してここまで来ましたが、引退される前にお手合わせ出来て光栄でした。
僕が倒したせいで引退される訳じゃないのが、せめてもの救いです』
引退するのは公式発表していたので、むしろ最後のはなむけとして手加減して欲しかったな。
いや、逆に決心もついたかもしれん。
なのでこう返しておいた。
『プロゲーマーは引退するけど、愛する妻との性生活はこれからが本番なので頑張ります』
ムジンフリーリィは最後までムジンフリーリィだったと囁かれ、感動も何も生まない引退式を終えた。
───引退の数ヶ月前。
俺は1人で静かな丘に来ていた。
もちろんピクニックなんかでは無い。
「父さん、母さん、久しぶり」
お墓を綺麗に洗って手入れをすると、用意していた花を添える。
線香を焚いたら、軽く手を合わせた。
「1人で来たけど、俺、1人じゃないから安心して」
前にここに来たのはいつだったか。
叔父さんに連れられて初めてここに来たあの日、両親が亡くなったと実感してしまってからだったか。あからさまに敬遠していた。
墓参りもしない親不孝者だと言われるだろうか。
「ごめん。俺、なんかずっと寂しかったらしい。
いきなり2人居なくなってさ。
叔父さんが居てくれたけど……心のどっかで現実を受け入れたくなかったっぽい」
自分の気持ちをこうして言葉にすると、誰にも言えなかったことがどんどん浮き彫りになってくる。
「居場所探して色々彷徨って、ちょっと、嫌われるようなことしてきたのは反省してる。
求められるまま、色んな女の子傷つけてきたかも。彼女にはしないとか言って、都合のいいように遊んできたんだよね。
まだ遊びたいからって言いながら……。
本当はどうせまたいきなり居なくなるんでしょって、ビビってただけなんだけどさ」
両親のように俺を置いてどっか行くんじゃないかって不安だった。
信じられなくて、裏切られるような気がして信じたくもなかった。
「気分晴らすつもりでゲームにのめり込んで、そこから俺が夢中になれるのはゲームだけとか思ってさ。
プロになったけど、もうすぐ引退するんだ。
英断だよ。ゲームより大事なもん見つけたから」
飾った花が風で揺れた。
今のは母さんだな。
大事なものってなぁに? とか言ってそう。
「俺、結婚することにした。
本気で幸せにしたい相手、見つかってさ」
風がまた花を揺らして、今度は父だろうと思った。
だったら手放すなよ、って言ってそう。
「ごめん、今日は俺、父さんと母さんに1人で会いに来たかったから連れてきてないんだけど。
ずっと俺を想ってくれて、信じられる人……っていうより俺が信じたい人って感じなんだけど。
今度ちゃんと連れて来るから許して?」
返事はないけど、何て返ってくるか想像できる。
「分かってるよ。心配しないで。
俺、ちゃんとするから」
風が強く吹いた。
背中を押された感覚があった。
「ありがとう。そのうちできる孫の顔、楽しみにしてて」
両親が亡くなったことを、やっと本当に受け入れられた気がした。
俺も大人になったもんだ。
「また来る。じゃあね」
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