運命売切御免(うんめいうりきれごめん)

やなぎ怜

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 きっと瑠璃子は榮の「運命」だったんだろうと珊瑚は思う。

 全人口の一割しかいないアルファと、それよりもさらに少ないオメガ。このふたつの性を強烈に結びつける関係――「運命のつがい」。それは存在するともしないとも言われる曖昧な繋がりであったが、珊瑚はその関係に一種の幻想を抱いていた。

 いわく、ひと目見て惹かれあい恋に落ちると言われる「運命のつがい」……。榮と瑠璃子が「そう」であったとまでは珊瑚も思っていない。ふたりの関係は映画やドラマで描かれるような激しいものではなく、穏やかな、淡いものだった。

 けれども、もし「運命」があるとすればそれはきっと榮と瑠璃子にこそ相応しいと珊瑚は思う。

「なに考えてるんだ? 思ったより余裕?」
「ん……榮のこと、考えてた……」
「ホントに?」
「あっ……んんっ、ぅう……ホント……」

 珊瑚の膣内なかに収まった榮のペニスはアルファ性にふさわしい「もの」であったから、ずいぶんと凶悪だ。

 張ったカリがごりごりと、絶えず愛液を分泌する珊瑚の膣壁を擦り上げる。榮がペニスを押し進めるごとに、じゅぶじゅぶと結合部から愛液と先走り液が混じったものが溢れ出るのがわかった。

 やがて榮の亀頭がトン、と珊瑚の最奥に到達する。トントン、とまるでノックをするかのような子宮を押し上げる榮の動きに、珊瑚はため息ともつかぬ呼気を吐き出す。

 珊瑚の腰を掴む榮の手のひらが熱くて、汗ばんでいるのがわかった。榮の手指にぐっと力が入る。

 これからもたらされる快楽への期待に、珊瑚の肌にも汗が浮かんでいたし、シーツを掻く足指の先もクッと曲がる。

 不意に珊瑚を組み敷く榮の顔がぐっと近くなって、珊瑚は思わず目を丸くした。

 榮の薄い唇が珊瑚のものに重なる。そのまま下唇をついばむように引っ張られて、珊瑚は「ん……」と甘い声を漏らす。

 唇での優しい愛撫と言えるような榮のキスに、珊瑚の体は顕著な反応を見せる。きゅうっと膣が締まって今己の膣内なかに榮のものが収まっているのだと言うことがよくわかった。

「あ……」

 ねだるように唇を開けば、待っていたとばかりに榮の舌が入ってくる。舌先同士を擦るように触れ合って、何度も溢れ出る唾液をすすり合った。それだけで脳髄がしびれるような快感が押し寄せる。

 言いようのない多幸感に支配されていた珊瑚の脳内はしかし、榮の言葉で我に返る。

「その顔、好き」

 珊瑚は急に冷たい現実に押し戻されたような気になった。

 榮にこの顔のことを言われるのは、嫌だった。瑠璃子に瓜二つの顔について言われるのは、彼女が亡くなってからますます珊瑚を憂鬱にさせた。

 事情あって瑠璃子の父親の組に顔を出すときがあると、組員の中には一瞬ぎょっとして珊瑚の顔を見る者もある。死んだはずの瑠璃子と同じ顔が平然と歩いていれば、そうもなるだろう。頭では理解していても、心は追いつかない。

 特に榮に言及されるのは嫌だった。珊瑚は榮が好きだから。……榮は、瑠璃子が好きだったから。

 たしかな自信が欲しかった。珊瑚は瑠璃子の代わりに選ばれたのではないのだという確証が欲しかった。

 けれども万が一にも榮の言葉から瑠璃子の身代わりなのだという空気を感じ取るのが怖くて、珊瑚はそんなことは聞けなかった。

 だって榮は明らかに瑠璃子に惹かれていたのに、彼女が亡くなった途端、珊瑚に愛を囁くようになったのだ。

 だから、きっと己は瑠璃子の身代わりなのだと珊瑚は半ば決めつけていた。

「これ取って」

 榮の巨大なペニスが珊瑚の子宮を押し上げる。子宮どころか内臓全部を押し上げられるような榮の律動に翻弄されながらも、珊瑚は決して首を縦には振らなかった。

 榮の指先が珊瑚の首につけられた、電子ロックつきのネックガードを引っかく。

 オメガはアルファとの性行為の最中にうなじを噛まれると、そのアルファと「つがい」になってしまう。

 そうなるとそのオメガの、およそ三ヶ月に一度訪れる発情期の際に発するフェロモンは「つがい」のアルファだけを誘引するようになる。

 厄介なのはその「つがい」の契約はアルファから一方的に破棄ができる上、アルファは再び「つがい」を得られるにもかかわらず、契約を破棄されたオメガはその限りではないという点だ。

「なあ珊瑚……」

 榮が猫撫で声を出して珊瑚を懐柔しようとしているのがわかった。珊瑚はそうやって頼まれると、たいてい嫌とは言えないことを榮は知っているのだ。

 しかしうなじを守るネックガードだけは、珊瑚はいつも外さない。どれだけ榮に頼まれても、いつだって珊瑚の答えはノーだ。

 珊瑚の、だれにも噛まれたことのないうなじは、彼女の心の砦だった。ここさえ守れていれば、どれだけ榮という深みにはまっていたとしても、どうにか戻れるような気がしていた。

 だから珊瑚は榮にはうなじを噛ませない。それは裏を返せば榮に心を開いていないという証でもあった。

「珊瑚」

 珊瑚のひねくれた心は冷え切っていて、甘く囁く榮の言葉を上手に受け取れない。

 本当は、こうして抱きたかったのは瑠璃子なんだろう。

 本当は、そうしてうなじを噛みたかったのは瑠璃子なんだろう。

 本当は、そうやって甘い声で名前を呼びたかったのは瑠璃子なんだろう。

 そう思うたびに珊瑚は勝手に傷ついた。
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