イッシンジョウノツゴウニヨリ ~逆ハーレムを築いていますが身を守るためであって本意ではありません!~

やなぎ怜

文字の大きさ
27 / 44

(27)

しおりを挟む
 アレックスにメッセージを送り、確認を取る。ベネディクトがニセハーレムのメンバーとなったことを告げれば「なんでそんなことになってんの?!」とおどろきの声――実際はテキストだが――が返ってくる。

『ごめんだけど明日の朝はベネディクト先輩に迎えに来てもらうことになったから。くわしくは昼食のときに。食堂で落ち合おう。あとそのときに先輩も合流する予定』
『オッケー』

 テキストメッセージでのやり取りなので、アレックスの調子は伝わってこない。それがなんとなくレンを不安にさせる。明日の午前の授業はどれも彼と被りがない。明日、アレックスと顔を合わせるのは食堂がはじめてになりそうだ。

 不安の理由は他にもあった。なにせベネディクトはアレックスを下心アリとみなしているのだ。しかもベネディクトは可憐な容姿に反してやや思い込みの激しいところがあり、言い方も直截なものが多い。そもそも奨学生スカラーを「お高くとまってる」などと評していたアレックスと、当の奨学生スカラーであるベネディクトが顔を合わせて、反目し合わないかが不安だ。

 だがベネディクトの提案も一理ある。彼をニセハーレムに加えれば、アレックスのときよりもレンにアプローチするハードルは上がるだろう。ベネディクトはあの美貌に加え、奨学生スカラーにして学年主席――主席であることはあの後イヴェットに確認して事実だと知った――。そんなベネディクトに勝ると自負できる男子生徒が、どれほどいるか。

 男子生徒除けの効果はそれなりにあるように、レンには思えた。……実際どう転ぶかは、わからない。アレックスのときのように火に油を注ぐ結果になることもあり得た。

 ベネディクトはアレックスのときの結果を、見通しが甘いし態度も隙だらけだ、と一刀両断した。アレックスに下心アリと言い切ったときのように、レンに対してもベネディクトは容赦がなかった。

「『今はふたりの時間を大切にしたい』という言い分はまあまあ、と言ったところだ。しかし先延ばしにしているに過ぎない言い訳は落第だな。おまけに君の態度が少しも変わっていないのでは、付け入る隙があると誤認させても仕方がない。ハートネットへの態度も、他の男たちに対する態度も、だ。すべて赤点。……男どもを蹴散らしてやろうという気は本当にあるのか?」

 レンはぐうの音も出なかった。ベネディクトの指摘があまりに正確で、真っ当なものだったからだ。

 そう、レンはアレックスという――ニセの――恋人を作った割には、彼とは別段ブラフのためのデートなどもしていない。なぜなら今のレンにとっては恋愛よりも勉強のほうが大事だからだ。そして学内でも友人だったときと変わらない態度でいた。……当たり前だ。レンとアレックスはずっと友人なのだから、態度が変わるはずもない。

 そして男子生徒たちをどちらかと言えば避けているていどのレンの態度も、曖昧でよくないとベネディクトは言う。レンお得意の曖昧な笑みは猪突猛進な男子生徒には好意を抱かれていると誤解させるものだ、というのがベネディクトの主張だった。

「イヤならイヤとハッキリ言え。迷惑なら迷惑だと意思表示をしろ。君から言わなければなにも伝わりはしない。ハートネットに代わりに意思表示をさせても、君に気のある男たちは納得しない」
「ハイ……おっしゃるとおりでございます……」

 今度はレンがしおらしく――というか、しおしおになる番だった。年下の男子高校生に説教をされては、しおしおになってしまうのも無理はない。

 しかしベネディクトに赤点をつけられるのは、当然と言えば当然だった。だからレンはぐうの音も出なかったわけである。

 だがベネディクトはそんなレンを見て少し言いすぎたと感じたらしい。またわざとらしい咳払いをしたかと思えば、じっとしおれているレンを熱っぽい目で見つめる。……レンは反省の念からうつむいていたので、そんなベネディクトの視線には気づかなかったが。

「……まあ、そんな状況も僕がそのニセハーレムに加われば変わるだろう」
「……だといいんですけど」
「信用していないのか?」
「滅相もございません!」
「当たり前だ。この僕に勝ると自負するほどの男は、この学校にはそうそういない。大船に乗ったつもりで僕に身をゆだねて欲しい」

 レンはまたベネディクトの自信たっぷりな――たっぷりすぎる――態度に舌を巻いた。ここまで言い切れるのはすごい。レンなど自己肯定感が低い人間からすれば、ベネディクトのそれはエベレストよりも高いものに見えた。それに、失敗を恐れていない堂々たる態度。すごすぎる、とレンは感心しっぱなしだった。

「でも本当にいいんですか? 私のハーレムメンバーになるなんて役を引き受けちゃって……」
「借りを返したいし、君の助けになりたいのだと何度も言っているが?」
「ちゃんと聞いてますよ! でも、ベネディクト先輩ほどの方なら、引く手あまたでしょう? そんな先輩が私なんかのハーレムに加わるって、違和感すごすぎないですか?」
「……自分を貶めるような言葉は感心しないな」
「でも事実です。客観的に見てなんでそうなったのかって、謎でしょう」
「先ほども言ったが――恋愛は理屈じゃない。君に助けられて惚れたと言えば、納得する者はするだろう。しない者は恐らくどんな理由であったとしても納得しない」
「そういうものですかね……」
「そういうものだ」

 結局レンはベネディクトの主張に押し切られた。そしてそのままいかにベネディクトとレンがラブラブであるかのアピールをするかという話になり、説得力を持たせるために明日の朝はベネディクトが登校の迎えに来ることになった。――そして話は冒頭へと戻るわけである。

 魔力がなくても使えるスマートフォンを手に、レンは自問する。――本当にこれでよかったのか、と。結局ベネディクトに流されてるじゃないか、と。そしてそれが一番いけないことだと他でもないベネディクトが言っていたのではなかったか、と。

 レンは自問するが、簡単に答えは出ない。そして勉強は抜群にできるが賢いというわけでもないレンは、思考することをいったん放棄する。答えを出すのはベネディクトの論がどういう結果を生み出すのか見届けてからでもいいと思ったのだ。

 ひとまずの問題は明日。アレックスとベネディクトが顔を合わせたときに、どのような化学反応が起こるか、だ。もしケンカに発展しそうだったら、レンが仲裁をしなければならないだろう。そう思うとどうしても憂鬱になってしまう。杞憂に終わればいいが、と思いつつレンはスマートフォンをベッドに放り投げると、明日の授業の準備に取り掛かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

期限付きの聖女

波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。 本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。 『全て かける 片割れ 助かる』 それが本当なら、あげる。 私は、姿なきその声にすがった。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?

今川幸乃
恋愛
ライツ王国の聖女イレーネは「もっといい聖女を見つけた」と言われ、王太子のボルグに聖女を解任されて婚約も破棄されてしまう。 しかしイレーネの力が弱かったのは依然王子が「僕より強い奴は気に入らない」と言ったせいで力を抑えていたせいであった。 その後賊に襲われたイレーネは辺境伯の嫡子オーウェンに助けられ、辺境伯の館に迎えられて伯爵一族並みの厚遇を受ける。 一方ボルグは当初は新しく迎えた聖女レイシャとしばらくは楽しく過ごすが、イレーネの加護を失った王国には綻びが出始め、隣国オーランド帝国の影が忍び寄るのであった。

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

異世界転移して冒険者のイケメンとご飯食べるだけの話

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 社畜系OLの主人公は、ある日終電を逃し、仕方なく徒歩で家に帰ることに。しかし、その際帰路を歩いていたはずが、謎の小道へと出てしまい、そのまま異世界へと迷い込んでしまう。  持ち前の適応力の高さからか、それとも社畜生活で思考能力が低下していたのか、いずれにせよあっという間に異世界生活へと慣れていた。そのうち家に帰れるかも、まあ帰れなかったら帰れなかったで、と楽観視しながらその日暮らしの冒険者生活を楽しむ彼女。  一番の楽しみは、おいしい異世界のご飯とお酒、それからイケメン冒険者仲間の話を聞くことだった。  年下のあざとい系先輩冒険者、頼れる兄貴分なエルフの剣士、口の悪いツンデレ薬師、女好きな元最強冒険者のギルド長、四人と恋愛フラグを立てたり折ったりしながら主人公は今日も異世界でご飯を食べる。 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

処理中です...