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戸惑いの花姫は竜帝と再開する

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竜帝の豪華ごうかな寝所。

その広く豪華ごうかな寝所の一角いっかくに、あらたつくられた美しい金色こんじき鳥籠とりかご。その中には美しい花姫アリーシアが、唯一人ただひとりこんこんと眠る。

紅色くれないいろゆたかな髪が、寝台のきぬ敷布しきふ一面いちめんに広がり、神秘的しんぴてきな美しさをまとう花姫アリーシア。

まさに竜帝の稀有けうな宝。

ーそして、稀有けうな宝だからこそ、特別とくべつ鳥籠とりかごに閉じめ、逃げ出さないように見えないかせを付ける。

広い寝台の上で、ついに目をました花姫アリーシア。

そのおもまぶたを開ければ、瑞々みずみずしい若葉わかばのような緑翠りょくすうの瞳がかがやいている。

目覚めざめれば、寝所内しんじょないいたる所にけられた色とりどりの美しい花々。

全ては、花姫アリーシアの心をなごませる為だけにけられている。郷長さとおさクレハの采配さいはい

あたりからはかぐわしい花々のかおりがただよい、花姫アリーシアの心を落ち着かせていく。

ゆたかなみどり恩恵おんけいを受ける花のたみ

その最高位さいこういの花姫アリーシアならば、植物しょくぶつ生育せいいくうながすのは勿論もちろん、大地にさえめぐみをあたえ、ゆたかにみのらせてはうるおわせる。

禁忌きんきおかした今の花姫アリーシアからは、最大さいだいの力はうしなわれてはいるものの、草花くさかあやつり、あざやかに咲かせる事などはいま造作ぞうさない。

寝台から上体じょうたいを起こし、美しい花々を近くで見ようと手を伸ばす花姫アリーシア。

(こちらへ……)

そうかるねんじる。

ーしかし、花姫アリーシアのその手に、花々がやってくる事はない。更には花のつぼみさえかたく閉じたままで、一向いっこう気配けはいはない。

(……そう、そうなのね。もはや私の力は完全かんぜんうしなわれたのね)

小さく吐息といきをつく。

花姫アリーシアが知らないだけで、竜帝の住まう居城きょじょうには、竜帝の魔力により強力きょうりょく結界けっかい保護ほごほどこされている。

更には、花姫アリーシアが閉じめられている金色こんじき鳥籠とりかご特別製とくべつせいで、美しいつがいのがさないように、どのようなじゅつ無効化むこうかされる仕組しくみなっている。

花姫アリーシアは力をうしなったのではなく、此処ここでは使えないように、力をうばわれているに過ぎない。

それならー、と少しだけでも近くで見ようと、寝台から起きあがろうとする花姫アリーシア。

「……?」

この時になって初めて、足に違和感いわかんおぼえる。

(足が動かない……? どうして!)

まるで自分の足とは思えないほどに、足の感覚かんかくが無い。

みずからの手で足をさわってはみるものの全く何も感じない。その感覚かんかくの無さに、気持ち悪さをおぼえる花姫アリーシア。

「いったい、どうしてー……」

まるでひざから下が麻痺まひしているかのように動かない現実げんじつに、花姫アリーシアはおどろきをかくせない。

「どうしてー……」

花姫アリーシアは、それでも懸命けんめいに寝台から降りようとして、ついには、無様ぶざまにも寝台から落ちそうになる。

「……あっ!」

花姫アリーシアがさけぶのと同時どうじに、寸前すんぜんで抱き上げる腕がある。

まぎれもなく竜帝。

「……いとしいつがい勝手かってに寝台から抜け出そうとするとはいけない子だ。さぁ、寝台の中へと戻ろう。おまえは、まだ完全かんぜん身体からだえていない」

竜帝は花姫アリーシアを優しくき上げると、そのまま寝台へと横たえる。

知らない間に、この城へと連れて来られた花姫アリーシア。腹も立つ。

それでもー、それ以上に再びえたことへの無上むじょうよりこびが心を占める。

「私……私……貴方あなたにー……」

感情かんじょうたかぶり、花姫アリーシアの美しい緑翠りょくすいの瞳からは、無上むじょうの涙があふれ出す。

ぽろぽろとこぼれ落ちる涙を、竜帝はその指で幾度いくどすくい上げ、しまいにはみずからのしため取る。

「……たかったの……いたくてー……胸がけそうに苦しくてー……」

「何も言うな。いとしいつがいー」

そう告げる竜帝は、引き寄せた花姫アリーシアを強く抱き締め、そのまま唇を合わせる。

「ふうっ……」

花姫アリーシアの唇から、その口内こうないへと激しくむさぼる竜帝。ない日々の長さをめるように、互いの接吻せっぷんは長く、幾度いくどわされる。

どうあっても離れられない二人。

互いのたましいが、くるおしい程にかれ合う。

竜帝の熱くあらぶる感情かんじょうが、花姫アリーシアを存分ぞんぶんあじわい尽くす。

竜帝の終わらない激しい接吻せっぷんに、もはやいきえな花姫アリーシア。

ようやくいとしいつがいから唇を離した竜帝。

「おまえがいとおしいー」

その熱い想いが、えない日々を凌駕りょうがする。

「……私も……私も……貴方あなたを愛しております」

再び想いを告げた花姫アリーシア。

竜帝のへとみずからのうでを回しりよるも、足に力が入らず、思わずくずれ落ちそうになる花姫アリーシア。

「……どうして……なぜ動かないのー」

「それはー、がそうしたからだ、いとしいつがい。おまえを二度ものがすつもりはない。であるおまえには、自由に何処どこへでもける足は必要ひつようない。安心しろ、全ての世話はがする。おまえは、ただ身をまかせていれば良いー」

無慈悲むじひ現実げんじつが、花姫アリーシアへとのしかかる。

竜帝の元から逃げるように去ったのは、他でもない花姫アリーシア自身じしん

(もう、ゆるしてはもらえないのー)

再びあふれ出した涙。

ーだが竜帝は、花姫アリーシアをいたずらにいましめているわけではない。

花姫アリーシアのはらには、竜帝の御子おこ宿やどっている。

竜帝は、いとしいつがいはら芽吹めぶいた御子おこごとまもる為に、花姫アリーシアから足の筋力きんりょくの全てをうばい、この美しい金色こんじき鳥籠とりかごへと閉じめたのがさいたる理由りゆう

竜帝は、かなしげに涙を流す花姫アリーシアを、今度は優しく優しく抱き締め、あらためて寝台に横たえると甘い声音こわねで告げる。

いとしいつがい、さぁ、治療ちりょうする時間だ。それにー」

竜帝は花姫アリーシアのはらへと手を当てる。

「……知って……いるのー」

花姫アリーシアの緑翠りょくすいの瞳には、不安ふあんとも安堵あんどとも取れる複雑ふくざつ感情かんじょうが浮かぶ。

「ああっ、全て知っている。いとしいつがい、よくぞの子を宿やどしてくれた……!」

あきらかな歓喜かんきく竜帝は、花姫アリーシアのやわらかなほほへと口付くちづけを落とす

「おまえは素晴すばらしい。さぁ、おまえにもはらの子にも栄養えいようを与えねばならないー」

そうのたまう竜帝の金眼きんめは、熱くかがやいている。

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