【完結】すり替わられた小間使い令嬢は、元婚約者に恋をする

白雨 音

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魔法学園一年生

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わたしは試験の結果を、自信を持って、サマンサに手紙で報告した。
新年度、シャーロットとマデリーンと同じAクラスになるであろう事も、
喜びの中書き綴った。


だが、後日、魔法薬学Ⅰのわたしの成績の事で、疑いを持つ者が現れ、
その内の何人かが、授業の時に教師に問い質したのだった。

確かに、授業の実技で《C判定》ばかりを取っていたわたしが、
急に一番になるというのは、どう考えても納得が出来ないだろう。
教師は難しい顔で生徒の言い分を聞いていたが、生徒が言い終わると、
口を開いた。

「それでは、放課後、実際に、あなた方と、エヴァンジェリン・マシューズに
作って貰い、双方を比べてみましょう、良いですね?
見学したい者は許可します」

一旦授業を締め、わたしたちは放課後、実習室へ集まった。

教師が見学を許可したのは、同じ魔法薬学Ⅰを取る生徒だとばかり思っていたが、何故か、凄い人数の生徒が集まっていた。
シャーロットとマデリーンの姿もあり、張り切って、わたしを応援している…

「エバー!頑張ってー!」
「落ち着いていこー!」

すっかり観戦気分の様だけど、わたしは生きた心地がしなかった。

「シャーロット、マデリーン!
こんな大勢の中で作業するなんて!どうしたらいいの!?」

「周囲なんか気にしなくていいわよ、暇つぶしで来てるんだから!」
「そうそう、試験も終わって、皆娯楽に飢えてるのよ」

わたしは真っ青になり、「困ります!!」と叫んだ。

それで、シャーロットとマデリーンが、教師に『静寂魔法』を掛けて
貰う様、掛け合ってくれた。教師はそれを受け入れ、魔法でこの場から
音を消してくれた。
場が静まり返り、わたしは気を落ち着かせる為、深呼吸をした。

「時間が掛からない様に、課題は簡単な調合にします___」

教師が出した課題は、以前に実習で作った薬だった。
その時、わたしが貰った薬の判定はCだ。
わたしと競う生徒…トーマスは、わたしを見てニヤリと笑った。

わたしたちは、必要な薬草、道具等を作業台に揃え、薬の精製を始めた。
作る薬は、《汚れ落とし剤・食器等》で、その中でも初級の物だ。
薬草三種を魔法で乾燥させ、磨り潰し、それを分量の聖水と一緒に
煮込む…今回は少量分で、三十分程度で出来る。

わたしは神経を集中させ、作業していく。
サマンサとウィリアムからの助言を思い出す。

『何も考えず、今のまま、素直に、君が君でいる事___』

わたしが鍋でそれを煮込んでいると、
嘗て使用人だった時に、洗い物をした記憶が蘇ってきた。
油が多い料理の時や、こびり付いた物を落とすのには苦労した。
臭いも残ると、洗い直さなければならなかった…

作業を終え、わたしはそれを容器に移し、作業台の上に置いた。
ほぼ同時に、トーマスの方も調合を終えていた。

「それでは、比べてみましょう」

そういうと、教師はまずはトーマスの薬を取り、汚れた食器の上に垂らした。
布で擦ると、食器の擦った部分が白くなった。

「良く出来ていますよ、トーマス」と教師は褒め、
トーマスは得意気に顎を上げた。

「次はエバ」

教師は先程と同じ様に、わたしの薬を取り、汚れた食器の上に垂らす。
そして、食器を振り、わたしたちに見せた。
食器は白くなっていて、わたしは「ほっ」と息を吐いた。

「どうですか?トーマス、エバ、違いが分かりますか?」

教師が食器を並べて見せると、
「そ、それは…」と、トーマスは青い顔で震え出した。

「トーマスの薬では、布で拭かなくては汚れは落ちませんし、布に汚れが
付きます。エバの薬では、液を落とすだけで、それが食器全体に広がり、
後は水で流すだけで汚れを落とす事が出来ます。
それに、臭いも残っていません___」

教師がやってみせる。

「エバの作業を見ていましたが、丁寧で、指示通りに出来ています。
しかし、薬の仕上がりについては、問題にしなければなりません。
調合法通りに仕上がっているのは、トーマスの方ですが、
調合法以上の物に仕上がっているのは、エバの方です」

「実習であれば、調合通りに仕上がらないものは、減点対象となるので、
このエバの薬に対する判定は、良くても《C》になります。
逆に、調合通りに出来ているトーマスには《Aマイナス》をあげましょう。
ですが、試験の場合は、調合通りの仕上がりでなくとも構いません、
認められる効果であれば、加点対象となります。
ですので、試験でのエバの成績は、作業の丁寧さ、正確さに置いて、
《A》判定、そして仕上がりについては指示通りで無いので、《C》判定。
そして、加点が加わった結果、先の成績になります___」

教師の説明に納得したトーマスは、教師に謝り、
そして、わたしにも謝ってくれた。

わたしたちが作業台を片付けた後、教師が掛けていた『静寂魔法』が
解かれ、わたしは周囲に人がいた事を思い出した。

「エバ!やったわね!凄いじゃないの!!」
「私、感動したわ…あなた、凄い魔法薬師になるわよ!」

シャーロットとマデリーンが抱き付き、褒めてくれた。
気恥ずかしいが、うれしく、わたしも二人を抱きしめた。

「ありがとうございます!」


その事があり、わたしはまた学園で噂にされてしまった。

「ウィリアム様の婚約者、オーロラ様の家の使用人の子が、またやったぞ!」
「なんか、すげー薬作ったとか?」
「俺、見てたけど、本当だぜ!驚いたよ!」
「流石、公爵家の使用人だな!」
「なんか、見た目は普通なのになー」
「普通より、鈍臭そうだけどなー」
「おい!聞かれたらヤバイって!」
「後ろ盾がウィリアム様だからな、最強じゃね?」

廊下を歩けば、噂が耳に入って来る、聞こえる様に話している気もする。
それに、チラチラ見られ、わたしは酷く居心地が悪かった。
早く長期休暇に入らないか…と、そればかり考えていた。


だが、長期休暇の前日、わたしはオーロラに待ち伏せされた。
噂になった事で、また彼女は怒っていたのだ。

「目立つなって言ったでしょう!
わたしは、あんたの名前なんか聞きたく無いのよ!」

「すみません…」

「まぁ、どんな薬を作ったからといって、わたしと入れ換わるのは無理でしょうけどね!」

そんな方法があれば、どんなに良いか…
わたしは俯き加減に、彼女の悪態を聞いていた。
その彼女がわたしの前に、手を出して来た。

「成績表を見せなさい!」

わたしはそれを彼女に渡した。
彼女はそれに目を通し、顔を顰めた。

「十二位ですって!?Aクラスじゃないの!なんで、あんたが…!!」

彼女は激高し、その勢いで、わたしの成績表を破り捨てた。

「ああ、そう!わたしを蹴落そうとしているのね?」

「そんなつもりはありません、元に戻った時の事を考えて…
あなたの将来だから…」

「恩着せがましいのよ!!そんなに言うのなら、わたしと同じ授業を取れば
いいでしょう!それを、何?魔法薬学ですって?
わたしの将来にそんなもの必要無いじゃないの!」

「すみません…」

「分かったら、新年度は魔法薬学なんか取るんじゃないわよ!」

「…はい、オーロラ様と同じ選択授業を受けます」

わたしは撥ね付ける事が出来ず、項垂れて答えた。
だが、彼女は考え直した様だった。

「選択授業でまで、あなたと顔を合わせるのなんて御免よ!
あんなに目立っておいて、選択を外すのも変よね…
変に勘繰られても困るし…
仕方ないわね、今まで通りでいいわ、許してあげる!
その変り、わたしより良い点数を取るんじゃないわよ!」

彼女の出した結論に、わたしは安堵し頷いた。

これで選択を変えてしまえば、ウィリアムもサマンサも納得しないだろう。
あの二人から問い詰められるのは困る、二人共、賢く、勘も良く、
察しも良い、とても騙し通せないだろう。


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