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魔法学園一年生

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「君はダンスが上手なんだね」

ウィリアムに褒めて貰え、わたしはうれしくなった。

「ありがとうございます…小さい頃から習っていたので」
「以前、一度、僕と踊った事は無い?」

不意に言われ、わたしは息を飲んだ。

そうだ、一度、婚約式でウィリアムと踊った事がある。
彼は凄くダンスが上手だった___
彼はそれを思い出したのだろうか?だが、それは困る___!

「そ、それは…、望んだとしても無理ですわ。ウィリアム様と踊るなど、男爵令嬢では、この様な場でも無ければ無理です…」

わたしは嘘と気付かれない様に、そっと目を伏せた。
「そうだろうか…」と、彼は呟いていた。

彼の中で、オーロラとのダンスが、印象に残っている事がうれしい。
『それは自分だ』とは言えないが、それでも、彼の中にいられるのだと思うと、どうしようもなく気持ちが弾むのだ。

「そのドレス、君に良く似合っているね、とても可憐で…」

アクアマリンの目で辿るように見られ、わたしは気恥ずかしさに、
手に持つ花飾りを胸に抱き、俯いた。
きっと、顔は赤くなっているだろう。

「ありがとうございます、サマンサ小母様が贈ってくれたのです…」
「そのネックレスも?」
「はい!15歳の誕生日に、頂いたものです…」

わたしは胸元の緑色の宝石に指で触れた。

「そう、良く似合うよ…ああ、時間か」

離れた場所にオリバーが立っている。
ウィリアムはわたしの腰に手を添え、促した。

「オリバーに送って貰うといい、
あの男子生徒と付き合うのは…僕はあまり感心しないよ」

ダニエルの事だと分かり、わたしは泣きたくなった。
ウィリアム様に誤解されるなんて!!

「付き合ってなんかいません!付き合ったりしません…絶対に!」

付き纏われているだけなのに…

「彼は君の好みではない?」
「勿論です!そんな、恐ろしい…」

わたしはぞっとし、腕を擦った。

「では、君の好みは?」

不意に言われ、ドキリとする。
戸惑っている内にオリバーの元に着き、わたしは答えを免れた。

「オリバー、頼んだよ」
「御意」

オリバーは硬い口調で言い、礼をした。

「あの!ウィリアム様の護衛はよろしいのですか?」

わたしが焦り、それを聞くと、ウィリアムは微笑んだ。

「心配してくれてありがとう、
僕は大丈夫だよ、君より少しばかり頑丈だからね、またね、エバ」

わたしの肩をポンと叩き、ウィリアムは薔薇園を出て行った。
わたしはそれを見送っていたが、隣の男の存在を思い出し、彼を見た。
やはり、オリバーは不満そうな顔でわたしを睨み見ていた。

「す、すみません、わたしなんかにお手を煩わせてしまい…」

「分かっているなら、ウィリアム様の心を乱すな、身分を弁えろ」

はっきりと言われ、わたしは唇を噛んだ。
オリバーは、わたしがウィリアムを慕い、恋をしていると思っているのだ。
使用人が、主人の婚約者に恋をし、奪おうとしている…
彼には醜い女にしか見えないだろう。

「はい…」

項垂れ、小声で答えたわたしに、オリバーは「ふん」と鼻を鳴らしたが…

「ちょっと!オリバー様!それは、あんまりじゃない!?」

シャーロットが飛び込んで来て、オリバーはぎょっとしていた。

「別に、エバは横恋慕してる訳じゃないでしょう!?
ウィリアム様を誘惑した訳でも無いじゃない!
エバはただ、奥ゆかしく、ウィリアム様を想ってるだけじゃないの!!
ウィリアム様に恋してるっていうなら、この学園の女子生徒ほとんどに
当て嵌まるでしょう!?
それとも、エバにだけは、恋しちゃいけないっていうの!?
なんで、護衛如きにそんな事言われなきゃいけないのよー!」

シャーロットが捲し立るのを、わたしとオリバーは唖然として聞いていた。
オリバーは眉を顰めたが、重々しく口を開いた。

「確かに、護衛如きで、出過ぎた真似をした、謝る」
「他は謝る気無いの?」

シャーロットは腕組をし、オリバーを睨みつけている。

「いや、だが、ウィリアム様にはオーロラ様という婚約者がいる」
「婚約者がいる人に恋したっていいじゃない、駄目な理由なんかある?」
「彼女は危険だ、惑わす者だ」
「ある意味、そうかもしれないけど、それはそれでいいじゃない」

あっさり言うシャーロットに、オリバーはぎょっとした。

「おまえに、貞操観念は無いのか!!なんと恐ろしい娘子だ!!」
「あんたこそ、教会の息子じゃないでしょうね!?」
「馬鹿を言うな、我が家系は代々、王族の護衛だ」
「堅い過ぎるのよ、オリバーは」
「護衛とはそういうものだ、相手にならん、行くぞ、エバ!」

オリバーが風を切って歩き出し、わたしはそれに従った。
何故かシャーロットも付いて来た。

「あの、わたし、ウィリアム様に恋をしているなんて…言ってませんよね?」

わたしが小声でシャーロットに聞くと、彼女は肩を竦めた。

「まぁ、見てれば分かるわ」

「!?ウィリアム様には知られていませんよね!?」

わたしは飛び上がった。

「どうかしら?オリバーは知ってるの?」
「俺を誰だと思っている!護衛だぞ!」
「回りくどいわね、喋りたくないと言えばいいじゃないの」

シャーロットとオリバーのやり取りは、わたしの耳には届いていなかった。

ああ、どうか、知られていませんように!!
でも、もし、知っていたら、「友」とは呼ばないだろう…
それよりも、わたしから距離を置くかもしれない…

わたしはそれに気付き、落ち着きを取り戻した。

ああ、良かったわ、気付かれてなくて…!
どうか、このまま、気付かれませんように…


◇◇


サマンサに、学園パーティでの事や、ドレスのお礼、近況等を手紙に書き、
完成した刺繍のハンカチと共に送った。

刺繍は、青い鳥が黄色い花を咥え、飛ぶ姿で、背景には野草と小花を
あしらった。青い鳥には、サマンサの青色の入った銀色の髪を思い浮かべ、
銀色の糸も使っている。


一週間程経ち、サマンサから手紙が届いた。
刺繍を大変気に入ったと書かれていて、わたしを喜ばせた。
それから、長期休暇の予定を尋ねられた。

学年末の試験の後は、長期休暇に入り、それが明けて、新しい学期が
始まる。ほとんどの学生は家に帰り、休暇を過ごす。
わたしは帰る家も無く、行き場は無いので、寮に残るつもりだった。
学園の図書室が使えるので、勉強も出来て調度良かった。

サマンサの手紙には、もし家に帰らないのなら、屋敷に来て、
一緒に過ごしましょうとあり、それはとても魅力的な誘いだった。
直ぐにでも喜びと感謝の手紙を書いただろう…いつもであれば。

「そんなの、彼女が許してくれる筈は無いわ…」

本当の、サマンサの名付け子エバは、彼女なのだから。
その彼女が、サマンサには会うなと言っている…
それをわたしは無視出来ない。
本当のエバでは無い事への罪悪感もあるが、
彼女を怒らせ、元に戻らないと言われる事が怖いのだ___

わたしはサマンサに、寮に残り、勉強に励みたい旨を手紙に書いた。


◇◇


試験が近付くと、学園の空気はピリピリし始め、それは試験が終わるまで
続いたのだった。

試験結果を貰い、わたしは驚いた。
何とか全ての教科で及第点を貰う事が出来たが、中でも、
回復魔法Ⅰの試験の筆記と実技、魔法薬学Ⅰの試験の筆記と実技は、
飛び抜けて成績が良かった。

魔法薬学Ⅰに関しては、未だ、調合ではC判定ばかりだったので、
その分筆記で点数を稼ごうと頑張った事もあり、筆記は一位だった。
そして、実技の調合の方だが、これも驚く事に、一位だった。
この時はたまたま、上手く出来たのだろうか?と、不思議に思いながらも、
一番の成績を取れた事はうれしかった。
その上、前の実習での加点もあったので、総合でも順位の変動は無く、
魔法薬学Ⅰで一位を取る事が出来た。

回復魔法Ⅰの試験も、筆記、実技共に二位だった。

その結果、総合成績は学年で十二位___

「信じられないわ…」

わたしは自分の成績が書かれた用紙を見て、ぼうっとしてしまった。
とても信じられない、自分の成績とは思えない。
だが、裏表見ても、自分の名が書かれている…

「十二位って事は、新年度はAクラスね!同じクラスよ、エバ!」

シャーロットがわたしの肩越しに成績表を覗き込んで来た。
この学年末の総合成績により、新年度のクラスが決まる。
何も問題が無ければ、わたしはAクラスだ___

「やはり、とても信じられません!嘘です、わたしなんか!」

馬鹿娘代表なのに!!

「エバってば、素直に喜びなさいよ!あなた、魔法薬学Ⅰで一番だし、
回復魔法Ⅰでも二番でしょ、他の成績も良いし…
この順位は当然よ!それに、魔力もかなり上がってるじゃない!」

成績の判断として、魔力測定も行われたのだが、
驚く事に、わたしの魔力は入学時の倍になっていた。

『頑張れば魔力は強くなる、君次第だよ、エバ』

わたしは、以前、ウィリアムがそう言っていたのを思い出した。
本当に、彼の言う通りだった___

シャーロットが言ってくれたお陰で、漸く実感が生まれ、興奮してきた処、
マデリーンがわたしの成績表を覗き込んで来た。

「まさか、エバに抜かれるとはね…」

マデリーンが嘆息する。

「あの、マデリーンはいかがでしたか?」

緊張に唾を飲み聞くと、マデリーンは指で眼鏡を上げ、成績表を開いた。

「20位よ!どうよ!!
滑り込みだけど、これで新年度は、私もAクラスの仲間入りよー!!」

わたしとシャーロットとマデリーンは喜びの声を上げ、三人で抱き合った。

「やりましたね!マデリーン!!」
「ええ、頑張ったわ…よかったー!!」
「二人が同じクラスなんて、最高よ!新年度が楽しみだわ!」
「処で、シャーロットの成績は?」

シャーロットは首席を守っていた。
どの教科でも大抵が一番で、魔力量も相当だった。

「もう、勝てる気がしないわ、規格外過ぎるー!」

マデリーンがひっくり返った。


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