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11 罠だらけの二人

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「メイさーん、また傷つくっちゃったー」

ドアを開けていつものようにリュートが入る。
仮面をつけていても口元が笑っている。

「仕方ないですね、どうぞ」

「家の方は落ち着いたの?」

「まあ、そうですね。」

「貴族って縁談とか次々あるんでしょ。大丈夫?」

「大丈夫ですよ。私、結婚せずに働こうかと思いまして」

「ええ!?どこか行っちゃうの?」

「すぐにという訳にはいきませんが」

お茶を差し出す。

「いつものお茶じゃないね?これ」

「そうですね。ハーブティーです」
一口飲んで、リュートはすぐに置いた。
「何に効くの?いつも何か教えてくれるじゃん」

「たいしたものではないですよ」

「自白剤かと思っちゃった。
メイさんにずっと俺だけに薬作ってくれない?って。国に来てくれないかどうやって誘おうかと思ってたのに、つい言いたくなったから」

バサバサバサバサ


メイが本と書類をひっくり返した。

「え?リュートさん、今なんて」

「しかも怪しげなお茶出すし。何これ媚薬?メイさん懲りてないよね、この前怖い思いしたのに」

カウンターを飛び越えて内側に入る。
「あ、結構段差あるんだね。
ほら。オレ小さく見えるけどメイさんより大きいでしょ。この前言ったのに。

俺も男だよって。」

にっこり笑っているのに、いつもほど可愛くない。

メイは少しずつ下がっていたが
背中が本棚にぶつかる。
リュートがグッと近づいて手を顔の横についた。
メイは顔が熱くて、持っていた書類で隠した。
「これか?さっきの茶」

リュートは一冊の本を抜き出し、見始めた。身体が離れたことにホッとする。

「メイさん、これ材料集めようとしてた?
男の多い酒場とか娼館の回りをうろうろしてたのこれ集めるため?」

「何で知って……!」

「メイさん、惚れ薬誰に使うつもりだったの?金儲け?」

「違う」

「ねえ、俺に使うつもりだったんだろ?」

恥ずかしくて、ずるずると座りこんだメイに目線を合わせてしゃがみこむ。

「だって、どうしても好きになってほしくて。ごめんなさい」

「これ、足りないじゃん。」

「メイさんの唾液とか体液とか混ぜないと。しかも空気に触れないように?そんなの不可能じゃん」

「だから、無理だったの」

メイは真っ赤だ。

「こうする以外は」

リュートがメイの唇に重ねた。

片手で、ドアに封印をかける。
息継ぎができなくて、肩で息をするくらいに堪能してからメイを解放した。

「な、なんてことを」

「欲しかったんでしょ、俺の体液も。これで俺は惚れ薬を飲んだことになるし、メイさんも万歳。良かったね」

「よくない、なんでこんな、」

「そんなの、好きだからに決まってるだろ。」

固まった。
「好きな子に惚れ薬盛られるなんて最高じゃん」

「そう?そうなの?怒ってないの?」

「もちろん。責任はとってもらうけどね。」

「えっと、私まだお金は稼いでなくて」

「それよりさ。メイさん。何で俺がこの本読めたと思う?対訳ついてるけどさ、ね
「薬学の専門古文書……エルフ語……、あなた、もしかして?え?エルフなの?」

「かなり混血のすすんだ末端だけどね。どう?俺の国にくる気になった?」

西の大陸にある、エルフ族の血を引く民の国。伝説のように語られるその国は、まだ国交がない。

「でも、国交が」

「国交を結ぶために俺が下見に来てるんだよ。すぐ帰るつもりだったんだけど、メイさん気に入っちゃったから。連れて帰るまで、帰ってくるなって許してもらってる。
来年には行き来も自由になるから、ゆっくり決めてもいいよ」


メイは、言葉も出ない。

薬学を学んでいて、エルフは憧れの存在だった。
しかもこの可愛さ。

全力で好み!!

ついていきたい!


「私、働き口を頼んでしまっていて。

貴族学園で薬学を教える講師を募集していたので、令嬢に教えてくれないかって言われて」

せっかく自立しようと思ったのに

「ああ、それならちょうどいい。うちの国から派遣するか、この国の薬学博士を研修に連れていく予定だから。メイさんを俺が連れて帰ってまたこの国に来ればいい」

メイは、ポロポロ泣いてしまった。

「どうしたの!?急すぎた?ビックリしたの?」

「だって、リュートさんもっ、薬学も、大好きなものをどちらも諦めなくていいなんて」

リュートはメイを抱き締めた。
「よしよし、メイさん今まで一人でよく頑張ったね。
ご両親に許しをもらってないから耐えるけど。あまり可愛いこと言わないでね。

エルフっていっても混血だし仙人じゃないし聖人君子じゃないんだよ。媚薬も効かないこともないからね。『可愛いなあはやく全部』」

最後はエルフ語になってしまった。
可愛いフリをしなければ。




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