モラトリアム

おてんば松尾

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第一章 

第14話

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すすきののホテルは激戦区らしくすごく安くで泊まれる。
先に荷物を預けて観光しようという事になった。

「ツインルームだから」
「え?」
「その方が安いし。二人で八千円だし」
「……わかった」

冬の北海道は日が暮れるのも早い。すぐに暗くなった。

「スープカレーの専門店に行くつもりなんだけど、いい?」

「ああ」

大門君の口数が少なくなっていた。原因はホテルの部屋にあると思う。ツインルームが嫌だったんだと思う。
分かるけど、贅沢は言ってられない。

なんとかスマホのマップを頼りに目的の店へたどり着いた。
行列ができるカレーの専門店らしく、夜だしすすきのだから流石に一人では入れないだろうと諦めていた店だった。
ある意味、大門君が一緒でよかったと思った。

「……え、と、ここ?大丈夫?」

大門君がいかにも怪しげな古びたビルを見て聞いてきた。

「ネットで評判だっから……美味しいらしいし」

あまりきれいとはいえない、雑居ビルの間にあるお店だった。外から中の様子が伺えない。ちょっと怖いなと思った。
朽ちかけた木の扉を開けて大門君が先に入った。

「まさかの階段」

そう言いながら大門君は階段を上がって行く。
ドアを開けると目の前には階段。
お目当ての店は三階らしかった。薄暗い階段を大門君は躊躇せずにどんどん上がる。

普段だったら絶対に入らないなと明里は思った。



店内は意外と普通で、オープンしたばかりだったからか、お客さんは少なかった。本当に人気店なのか怪しいと思った。けれど後から続々とお客さんが来店したので有名なのは間違いないだろう。

メニューを選び、カレーのベースと辛さ、ご飯の量を選ぶみたいだ。

「大門君さ、私を襲うの?」

注文を終えて明里は言った。

「は?んな訳ないだろう」

「じゃ、別にツインでも良くない?ベッドは二つあるし一泊四千円だし。ここは前から予約していた部屋だから普段はもっと高い。めちゃ朝食が美味しいんだけどポイント割使って、なんかクーポンも貰ったからお得だよ。ほら一泊で三千円分付いてくるんだって」

そんな事を話しているとカレーがやってきた。

「大きめ野菜って、じゃがいも丸ごと入ってるぞ。明里のなにカレー?」

大門君のホルモンカレーはなかなかのボリュームだった。

「手羽。一本入ってる。食べる?煮込まれててホロホロで美味しい」

お昼をパンで済ませてたから、二人ともお腹が空いていた。めっちゃ美味しかった。食べ応え抜群で、大門君は満足そうだった。

「どこか観光したい場所とかある?一応日程表あるんだけどラインするから見て」

明里は以前から何度も考えていた旅行の行程表を送った。

店内は大人のお客さんばっかりだ。仕事帰りのサラリーマンやカップルで満席になった。
自分達より後に来たお客さんが三十分待ちだと言われていた。
明里も大門君も、背が高いし一見大学生に見られる。

まだ六時なのに、お酒が入って大人たちはみんな楽しそうだ。

「なぁ、これさ紋別までバスで四時間以上かかるの?すげーな。北海道デカ過ぎ」

紋別行のバスは予約してる。明日の早朝発だ。正直紋別は雪に覆われていてあまり出歩いたりできないので、流氷とか見たらそれ以外は特に見る物がない場所。

「小樽の運河とか、博物館みたいな観光地に行けないんだけどごめんね」

観光したいと言っていた大門君に、あまり時間がない事を謝った。


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