モラトリアム

おてんば松尾

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第一章 

第16話 紋別

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「クマ?熊……木彫りの熊買う人初めてみた」

「北海道の定番だろう?」

……荷物になるよね。ま、自分の部屋に飾ればいいのか?デカすぎだとは思うけど。
明里は大門君の買った鮭を咥えた熊のお土産を見つめた。

そんなこんなで、長いバスの旅が始まった。
土曜日だけど乗客が少なかったのでゆったりとバスに乗れたのは有り難かった。

「……何で、紋別?」

大門君が明里に訊ねた。


「おじいちゃんが、もともと住んでた場所。子供の頃は泊まりに来た事がある。祖父はガリンコ号に乗って働いてたの」

ガリンコ号は、北海道紋別市の紋別港で観光目的に運用されている砕氷船だ。ガリガリと流氷を砕いて進む船だからガリンコ号という名前が付いている。

「そうか、だから今回ガリンコ号がツアーに入ってるわけだな」
 
明里は頷いた。けれどあまりおじいちゃんの話はしたくなかったから学校の話をした。

「大門君はラグビーで大学行くの?」

「いや、海上保安官になりたい」

大門君は、海上保安大学校を受けるみたいだった。海猿だなと思った。

「明里は?」

「私はどこかの国公立大学に入れたらいいと思ってる」

「あぁ、明里頭いいからな」

明里は北海道大学に入るつもりだ。かなり難易度は高い。その為にたくさん勉強している。
お互いの進路は、話してしまうと失敗した時に恥ずかしい。大学の名前は伏せておいた。

「大門君って、女子からはあまり喋らない人って思われてるけど結構普通に話するよね」

「そうだなあ……別に話しかけられれば、普通に話しはするけど、俺、怖がられるタイプだから、自分から話しかけたりはしない」

確かにそうだなと思った。けれど整った顔をしているし強そうだから、マニア受けしそうだけどなと明里は感じた。

「あの時は凄かったよね、ひったくり犯の動画が流れた時」

「そうだな、時の人となった」


「そう考えると、海上保安官は向いてるかもしれないね人助けが仕事だから」

「はは、そうかもしれないな」

高校二年生というは、大人のようで大人でない中途半端な年齢だ。
興味のあるものや将来なりたい人物像を具体的に考えられなくても、決断を迫られる。ちゃんと自分の将来を考えて向き合っている大門君の姿はかっこいいなと思った。


「……ありがとう。一人で来るの少し不安だったけど、大門君が一緒だったから北海道の旅も何も怖くなかった」

「いや、俺も無理やりついてきたし、正直どうだろうって思った。北海道、意外と楽しい。食いもん旨いしカレーもラーメンも旨いし、朝からホテルで海鮮丼が食えたし」

食べ物の事ばかりだなと思ったが、確かにグルメは満喫した気がする。

朝食が豪華で美味しいって評判のホテルだったし、バイキングだから大門君もたくさん食べられて良かっただろう。


札幌から紋別への直行便は、途中パーキングエリアで休憩を挟みながら、長い時間をかけて、昼過ぎに紋別へ到着した。




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