モラトリアム

おてんば松尾

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第一章 

第17話

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北海道、北東部のオホーツク海沿岸には、冬になると流氷が着岸する。紋別の風物詩だ。

はるか北のサハリン周辺で海水が凍って、海流や風に流されオホーツク海沿岸に到達する。
ガリンコ号は真冬の北海道の寒さを体感しつつ、海上の流氷を直に見られる流氷観光船だ。
日によっては流氷が見られない事もあるらしいが、今日はどうもガッツリ流氷が来ているらしい。

明里は小さい頃ガリンコ号に乗ったことはあったが、いつも夏に乗っていた。だから流氷を見るのは初めてだった。

ドキドキ、ワクワクしながら大門君と二人でガリンコ号に乗り込んだ。
身を切るような寒さの中、風に吹かれた草原のように上下する海面をガリンコ号は進んでいく。

バタガタバタガガガタガタ……エンジンなのか、スクリューなのか、音が凄い。

ドリルでガリガリと氷を砕いて進んでいく様はデッキで見ると迫力満点だ。
だが、顔面に当たる風と雪と、船の揺れと氷を砕く音で、体感的にはちょっとした責め苦を味わっているようだ。

「極寒じゃねーか!!」

大門君が海に向かって叫んでいる。

「さぶっ、イタイ!死ぬ!しぬ!」

明里も負けじと大声になる。
細かい海水なんだか雪なんだかが容赦なく明里の顔面を攻撃する。凄い勢いで顔に刺さって寒いを通り越してもはや痛い。
転ばないように二人でがっしり支え合いながら、持ち前のバランス感覚と運動神経でデッキの上で踏ん張っていた。

それでも白い氷原が、徐々に近づいてくる風景は感動的だ。真っ白い氷に覆われた一枚の大きな板に船の先端が刺さると、ピキピキと一瞬で筋が入り氷が割れる。
氷をスクリューで巻き込んで船の重さで割るという砕氷能力は、すごい迫力だ。
氷だらけの海に、白く煙った空。全てが真っ白な世界。
なんとも壮大で美しく、神秘的な光景だった。

近くで目にすると、氷はかなり厚みがある。流氷は平なのかと思いきや、かなり立体的でデコボコしていた。小さい氷の塊が、岸に接岸しどんどん大きくなって、一枚の板、氷原になるらしい。

明里達は小一時間ほど、自然の猛威を体感し下船した。
地上に着いたときは、まだ海上にいるみたいに、足がフラフラして転んでしまいそうだった。大門君が腕を支えてくれた。


「なんか凄かったね」

「あぁ、結構迫力あったな。いや、船内からも見られたから、あれだな、わざわざデッキで流氷に立ち向わなくても良かっただろう」

「確かに……」

下船した海洋交流館でホットミルクを飲んで休憩した。暖かい事のありがたさを噛み締めている。

「まだ足の感覚が変だ」
明里は震える足を押さえた。

「俺、船が好きだから。経験できて良かった」

大門君はなんやかんや言っても楽しかったようだ。将来海保を目指している彼にとっては勉強になったのかもしれない。

「日が暮れるの早いよな、アザラシランドとか近くにあるみたいだけどどうする?」


野生のアザラシたちを保護、飼育している日本で唯一の施設もあるらしい。

「私、海に行きたいんだけど……」

「来てるだろう海に、……え、外?」

ウンと明里は頷いた。







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