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第一章
第18話 クリオネロード
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海洋交流館は道の駅になっている。コンビニやフードコート等が入っていて賑やかだった。そこからオホーツクタワーへと続く遊歩道は五百メートルほどの防波堤でクリオネプロムナードと言うらしい。
石造りの円柱がオホーツクタワーへと向かって立ち並んでいる。クリオネロードの両サイドは海だ。
ひとりで行くからここで待ってて、と明里は言ったが大門君はついてきた。
「海に流したいものがあるから、ここで待ってて」
もう一度、大門君に懇願するように訴えた。
明里は海のすぐ近くまで階段を下りて行く。そして防波堤から身を乗り出した。
大門君が明里のダウンコートをがしっと掴んだ。
「海に流したいものって何?」
「……おじいちゃん」
「え?」
何を言っているのかと大門君が怪訝そうに明里を見下ろす。
「散骨するの」
カバンの中から出したビニール袋を手に持って彼の前に掲げた。
「骨?」
明里は頷く。
「え、おじいちゃん、そのビニール袋に入ってんの?」
明里は頷く。
「だから、ひとりにして」
少し考えていたようだが、わかったと言って大門君は階段を上っていった。
薄紅の空からちらちらと雪が舞い降りた。
防波堤には明里の他に誰もいなかった。
大門君は離れて様子を窺っている。
◇
明里はビニール袋を破るとおじいちゃんを海に帰した。
故郷の海へ。
雪はやんでいた。おじいちゃんの灰は僅かに吹く風に乗って、、夕焼けの薄紫と夜の紺色が混ざったような空へ舞っていく。
「ごめんなさい……おじいちゃん、ごめんね……」
涙が出た。お葬式のときも出なかったのに……どんどん涙が溢れ出して、止まらない。
「北海道にあんなに帰りたいって言ってたでしょ……何度も、帰りたいって……」
おじいちゃんは、自分の事は何もできないし、手がかかって面倒だった。
けれど嫌いではなかった。
歩く度に下を向いて歩くからよだれがダラダラ、床に落ちてそれを拭くのにウンザリした。
毎朝、水虫の足にワセリンを塗るのも嫌だった。
小さい頃は北海道のおじいちゃんの家に行くのが楽しみだった。夏の海は綺麗だったし、おじいちゃんの船に乗せてもらって、操舵室に入れてもらえることも特別な気分で嬉しかった。
だから嫌だけど嫌いじゃなかった。
おじいちゃんの孫のうち一番小さかったのは明里だった。とても可愛がってもらってたと思う。
よく明里に船の玩具を買ってくれた。
ぜんぜん欲しくもなかったし嬉しくなかった。
けれどもう一度家族を与えると言われたら、きっと同じおじいちゃんを選ぶだろう。
どれくらい時間が経ったのか、クリオネプロムナードに明かりが灯る。長い防波堤がライトアップされていく。
「……行こうか」
大門君が明かりに声をかける。
「おじいちゃんを、殺したの」
大門君は何も言わなかった。
「私がおじいちゃんを……殺したんだ」
大門君は明里を抱き寄せて歩き出した。
「お前。やばいヤツじゃん」
明里はハハッと笑いながら、大門君に寄っかかるように一緒にバスの発着所がある海洋交流館まで歩いた。
石造りの円柱がオホーツクタワーへと向かって立ち並んでいる。クリオネロードの両サイドは海だ。
ひとりで行くからここで待ってて、と明里は言ったが大門君はついてきた。
「海に流したいものがあるから、ここで待ってて」
もう一度、大門君に懇願するように訴えた。
明里は海のすぐ近くまで階段を下りて行く。そして防波堤から身を乗り出した。
大門君が明里のダウンコートをがしっと掴んだ。
「海に流したいものって何?」
「……おじいちゃん」
「え?」
何を言っているのかと大門君が怪訝そうに明里を見下ろす。
「散骨するの」
カバンの中から出したビニール袋を手に持って彼の前に掲げた。
「骨?」
明里は頷く。
「え、おじいちゃん、そのビニール袋に入ってんの?」
明里は頷く。
「だから、ひとりにして」
少し考えていたようだが、わかったと言って大門君は階段を上っていった。
薄紅の空からちらちらと雪が舞い降りた。
防波堤には明里の他に誰もいなかった。
大門君は離れて様子を窺っている。
◇
明里はビニール袋を破るとおじいちゃんを海に帰した。
故郷の海へ。
雪はやんでいた。おじいちゃんの灰は僅かに吹く風に乗って、、夕焼けの薄紫と夜の紺色が混ざったような空へ舞っていく。
「ごめんなさい……おじいちゃん、ごめんね……」
涙が出た。お葬式のときも出なかったのに……どんどん涙が溢れ出して、止まらない。
「北海道にあんなに帰りたいって言ってたでしょ……何度も、帰りたいって……」
おじいちゃんは、自分の事は何もできないし、手がかかって面倒だった。
けれど嫌いではなかった。
歩く度に下を向いて歩くからよだれがダラダラ、床に落ちてそれを拭くのにウンザリした。
毎朝、水虫の足にワセリンを塗るのも嫌だった。
小さい頃は北海道のおじいちゃんの家に行くのが楽しみだった。夏の海は綺麗だったし、おじいちゃんの船に乗せてもらって、操舵室に入れてもらえることも特別な気分で嬉しかった。
だから嫌だけど嫌いじゃなかった。
おじいちゃんの孫のうち一番小さかったのは明里だった。とても可愛がってもらってたと思う。
よく明里に船の玩具を買ってくれた。
ぜんぜん欲しくもなかったし嬉しくなかった。
けれどもう一度家族を与えると言われたら、きっと同じおじいちゃんを選ぶだろう。
どれくらい時間が経ったのか、クリオネプロムナードに明かりが灯る。長い防波堤がライトアップされていく。
「……行こうか」
大門君が明かりに声をかける。
「おじいちゃんを、殺したの」
大門君は何も言わなかった。
「私がおじいちゃんを……殺したんだ」
大門君は明里を抱き寄せて歩き出した。
「お前。やばいヤツじゃん」
明里はハハッと笑いながら、大門君に寄っかかるように一緒にバスの発着所がある海洋交流館まで歩いた。
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