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第三章 恋と争う二人
第61話 冗談でもないです
しおりを挟む新たな生徒会を立ち上げるとか、俺は思わず耳を疑ってしまった。
「何でいきなり……? もしかして苦情でもいったか?」
しかし俺の戸惑いをよそに、院瀬見は首を横に振って淡々と話を切り出す。
「南さんの生徒会活動に不満なんて出るわけがありませんよ」
「そ、そうか」
「そういうことではなく、知っての通り、今日から男女が同じ場所で学びを共にすることになりましたよね。実は統合を機に霞ノ宮の方でも生徒会を立ち上げようという話が出ていたんです」
そう言われれば今の生徒会は古根高の生徒会だ。
しかし統合した今、女子をメンバーにするにしてもどうしていくべきか悩んでいたのも事実。
もしや壁に寄りかかっている先生はこの為にいるのか?
ちらりと院瀬見先生を見るが、
「……む? どうした、南。先生を見つめたりして。私を見つめても答えは出ないぞ? そもそも見つめる相手が違うだろ……」
そんなつもりで見たわけじゃないのに、向かい合っている院瀬見つららから何故か冷ややかな視線が刺さってくる。
「んんっ、人選の決め方は?」
「生徒会選挙の前にということでしたら、今この場で決められます。ですので――」
そういや、院瀬見の横に座っているのは数に入っていない新葉だけで、他の女子の姿が無い。
談話室だから後から来る可能性もあるにはあるが――
「――ここに見慣れぬ男子がいますけど、そこの男子にお聞きします。生徒会について何か意見はありますか?」
「……あ、おれ? ん~そうだな。面白そうだし南の方じゃなくて院瀬見さんの生徒会メンバーになろうかな~」
何?
鈴原め、見学に来ただけって言ってたのに目の前で即決かよ。
「ありがとうございます」
「もう一人男子が欲しいところだな……下道、お前もおれとやらねえ?」
「オ、オレっすか!? でもオレは翔輝会長の書記なんすよ。だからそういうわけには……」
「わたしは別にご一緒しても構いませんよ? そこの生徒会長さんの懐が深ければ――ですけど」
まさか俺の側近もとい、書記の下道を引き込むなんて。敵になるってそういう意味かよ。この場に北門がいたとしたら同じ光景になりそうだな。
「や、やるっす!!」
「下道さん……でしたね? あなたはそのまま書記で構いませんので」
「助かるっす」
北門の時と違って、下道のことはきちんと認識出来ているようだ。朝に怯えさせといて放課後になって手のひら返しとか、下道の性格を上手く掴んでいるな。
……ということは、この場にいる奴で俺の味方はこいつだけか?
「ふふん、安心するがいいぜ! 翔輝にはあたしがいるんだぜ~!」
「不安だ……不安しかない」
現時点で談話室にいるのは俺と新葉、そして院瀬見と院瀬見側についた下道と鈴原だけだ。九賀が来るかと思いきや全く来る気配が無い。
「よぉし! 話し合いは済んだようだな! 院瀬見つららは引き続きメンバーを集めなさい。南翔輝は少しここに残れ。以上だ! 今日は解散とする!」
単なる定例会がどうしてこうなった?
俺としては生徒会がどうだとかああだとかこだわるつもりは無いが、こうも堂々と書記に裏切られたりしたら負けるわけにはいかなくなる。
「しょ、翔輝元会長。応援してるっす!」
「南。悪く思うな! 面白そうな方についただけだからな? 教室ではいつも通り頼むぜ?」
下道はそういう奴だからいいとしても、鈴原を院瀬見側につけるとか思わぬ援軍をつけさせてしまったな。
定例会どころでは無くなったので、下道と鈴原はとっとといなくなってしまった。院瀬見も一緒に退室するかと思ったが、まだ俺に何か言いたいことがあるようだ。
「あの、翔輝さん」
「……何ですか? 院瀬見会長」
「――まだ会長じゃないです! 意地悪ですね、相変わらず」
「まだ何か?」
この場に残っているのは、何故か仲良く話をしている新葉と院瀬見先生と、俺と院瀬見つららだけ。院瀬見先生は新葉と同様に暇つぶしで来たように思える。
それはともかく、予想だにしなかった発言をした院瀬見が何でか恥ずかしそうにしているのは何でなんだろうか。
「学校では敵って言いました……けど、あのっ――耳を」
先生と新葉には聞かれたくないのか、院瀬見が俺の耳元に近づいた。
「実は全て冗談でしたってやつか?」
「いいえ、冗談でもないです。そうじゃなくて、学校では容赦するつもりは無いんですけど……でも」
「外では味方になるとか?」
学校以外だと必然的に外になるだろうけど。
「翔輝さんの範囲内では思いきり甘えたいですけど、いいですかっ?」
「あん? 俺の範囲内ってどういう――」
「詳しくは夜にお教えしますので、ですので先に帰りますね! それじゃあお先です」
「え? って……帰るんかい!」
意味深なことを言い残して速攻で帰ってしまった。定例会をズタズタにしておきながら、何であんな恥ずかしそうな表情を見せるんだ院瀬見は。
「おぉい~! 翔輝くん、そろそろ泣き止んだ?」
「泣いてねーよ!!」
「南翔輝。幼馴染というのを聞いてはいるが、少しは草壁に優しくしてやったらどうだ? 草壁ほどいいオンナはいないぞ?」
院瀬見とともにいなくなったかと思えばまだいたのか、この先生は。
「そういう院瀬見先生は院瀬見つららの何なんです?」
「私か? 私はあの子の従姉だ。南と草壁の関係のようなものだ。意外か?」
「…………いえ、てっきり――」
母親だとしたらもっと年上じゃないとおかしいし、姉だとしたら年が離れ過ぎているし微妙なところだったな。
「失礼な奴だな、キミは。しかし草壁が好みそうなオトコだろうがな」
「いえいえ、それほどでもぉ~」
認識が間違っているぞ。
「まぁ、なんだ。生徒会のことは生徒に任すから頑張れ!」
「そうしますけど、先生は何もしないんですか?」
「私は教師だからな。片一方に肩入れはしないから安心しろ」
見てるだけってのも微妙だけどな。
「それと……」
「まだ何かあるんですか?」
「今夜、南の家にお邪魔するからよろしく頼む!」
「へっ?」
これまた唐突な家庭訪問だな。院瀬見の従姉なりの注意喚起でもするつもりなんだろうか。
「うんうん。そういうわけだから翔輝! とっとと帰るよ~!」
「あ、おいっ!」
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