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第四章 迷わない関係

第72話 放課後ナンパと疑惑の事件 2

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 ……何という最悪なタイミングなんだ。個室に入って安心した俺が悪いのもあるけど、まさか間違って入って来るなんて思わないだろ。

 しかし俺がいたことに驚いたのか奥まで入って来なかったみたいだ。

 この隙に、

「どうなんですか! 翔輝さん!」
「こ、ここは店の中なんだ。後でまたかけ直すから少しだけ落ち着いてくれ。嘘ついてたのは謝るから。頼むよ、つららさん」
「……そういうことなら分かりました。少しだけですよ?」 
「ありがとう!」

 そういや、俺がここに入室したのは変な女子に追われて結構経ってからだな。逃げている間にどれくらい時間が経ったんだろうか。

 着信履歴を見るついでに時間を見ると、18:32とある。

 下校したのが16時くらいで下道たちのナンパタイムが――何だ、大した時間じゃないのか。あの場にいたとされる院瀬見が俺の家に戻っているのは少し早すぎる気がするが、新葉に連絡して確かめてみるのも手だな。

 さっき部屋に入りかけた奴も気づけばどこかにいなくなったっぽいし、この隙に電話するしかない。

「ほいほーい? 新葉さんだぞ」
「俺だ。翔輝だ」
「なにぃ!? 翔輝? この親不孝者め! どこをほっつき歩いているのさ!!」

 お前は俺の親じゃなくて保護者代わりなだけだろ。

 それは気にしないでおくとして、

「……え? うんうん? うん? つららちゃんがあたしの目の前にいるかって?」
「いるよな? いるなら代わってくれ」

 音が反響している気がするし妙なガサガサ音がするが、新葉の部屋だと何ら不思議はない。

「本気で言ってる?」
「俺が嘘をついているように聞こえるのか?」
「聞こえる。だってあたし今、シャワー中だし~。つららちゃんが目の前にいたら興奮してしまうんだぜ?」
「はぁ!?」
「見たい? しかし残念ながら電話越しでは新葉さんの裸体は拝めな――」

 嘘だったのか。まさか院瀬見が俺に嘘をつくとは意外だったな。そうなるとやはりまだ周辺にいるってことになるのか。

「そこのお前さぁ、さっきから何してんの?」
「え?」

 いなくなったと思っていた謎の奴が、いつの間にか俺の後ろでしゃがみ込んでいたとか、気配消し過ぎじゃないのか?

「シカトしてんの? ボクに気づいてんだろ? 南翔輝!!」
「うっ!?」

 俺の名前を言ったと同時にしゃがみ込んでいた奴が勢いよく俺にぶつかり、気づいた時には馬乗りになった姿勢で俺を見下ろしていた。

「……弱っ! 聞いてたけど弱すぎだろ、お前。少しは抵抗しろよな」

 こいつ――女子だったのか。華奢なイケメンだと思っていたがこんな美形な女子だとは。

「しずく……だったよな? お前。てっきり男だと思っていたのに」
「くだらないな。別にどっちでもいいだろ。男がうざいから男の格好してただけだけど?」

 見た目だけで判断した俺のミスだな。定例会の時に下道たちの隣に座っていたはずなのに気づかれなかったのか?

 とはいえ、あいつらは院瀬見の両隣にいたし気づきようも無いか。

「で、俺に何か文句……」
「……お前、つららのことが好きなのか?」
「唐突だな。そんなことを訊くために勝手にこの部屋に入って来たのか? 一応訊くが、お金を払って入ってるんだよな?」
「当然だろ。バカなのお前?」

 くっ、こいつ俺を見下しすぎだろ。

「悪いがつららのことを言う必要は無い。お前に関係ないことだしな」

 まして告白のオチまでくれてやる意味は無い。

「い~や、あるね。南翔輝という奴がいい者なのか悪者なのかボクが見極める必要があるから」
「……しずくは院瀬見の幼馴染とかか?」
「だったら? 鈍いなお前。つららのことをつららと呼ぶ奴なんて限られてるっていうのに」

 性格の荒さで察するに、せおり先生の妹あたりか。言葉遣いも少し似てるしな。

「そんなことより、いい加減俺の上からどいて欲しいんだが?」
「へぇ? ボクも女なんだけど、興奮もしないわけか~。つららだと興奮しまくりだったりするのか?」
「知らん! 言っとくが俺には色仕掛けは通用しない」
「なるほど。草壁新葉と七石麻に鍛えられたってわけか」

 七石先輩は馬乗りなんか絶対してくれないけどな。こういうのは主にアレしかしてこない。

 それにしてもこいつの狙いは何なんだ?

 こいつの役目が院瀬見つららに似合う男を見定める役目だとしたら、こいつに気に入られないと告白しても上手くいかないのでは。

「…………質問を変える。つららのことが好きか嫌いか、とりあえずそれだけを聞かせろ。それ以上のことは詮索しない」

 俺の気持ちなんてとっくに本人から聞かされていそうだが、言うだけでこの場から解放されるなら言ってやろう。

「す、好きだ」
「……この姿勢で言われても嘘くさい。上半身だけ起こせ」

 馬乗りは解除してくれないのかよ。しかし体を起こせるだけでも助かるし言うとおりにする。

「近すぎじゃないのか?」
「お前のは古風な告白だからいいだろ、別に。それと肩に手を置いて告白しろ。それから――」
「何だ? 色々注文があるのか?」
「単なる告白だと面白くないから、ナンパするつもりで言え」

 ナンパ?

 何でそんな面倒なことをさせるんだ。しかしこの際気にしても終わりそうに無いし、適当にしとこう。

 無関係な奴に告白の再現をしなければならないこと自体意味が分からないが、力づくでどかせるとそれはそれで厄介だからな。

「……そこの可愛いキミ。俺は好きだな、キミみたいな子が! だからどう?」

 下道のを参考にするとこんな感じだろうか。

「目を見てもう一度」

 院瀬見とは似てもいない奴だし低音ボイスな女子なのに、何で緊張してしまうんだろうな。

「キミが好きだぜ! ……これでいいだろ?」
「…………成立。立ち上がってやるからそのままじっとしてろよな」

 何で好きでも何でもない奴に告白か。しかしこれで家に帰れるな。

「もう帰っていいんだよな?」
「いいよ。目的は果たしたから。お疲れ~」

 ……何?

 何を言ってるんだこいつは。しかしここにいても何も始まらないしとっとと帰ってしまおう。

 外に出るとすっかり暗くなっていた――のはともかくとして、

「翔輝くん。お家に戻ったら、何があったのかお話……してくれますよね?」

 人通りのある所に出たら、待ち構えていたかのようなタイミングで院瀬見が俺の前に現れた。それも満面の笑顔で。

 仕組まれたか?

「もちろんだ。俺も言いたいことがあるからな!」

 しかし院瀬見も後ろめたいことがあるはずなので退くつもりは無い。

「うん。是非聞かせて欲しいです。色々と……」
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