お伽話 

六笠 嵩也

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第三章

3-7 ★

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「お父様…やっぱり…おら、恥ずかしい…」

「あぁ?なんだぁ?聞えんぞぉ。そんなに気になるならば儂は厨に水を運んでくる。だから気にすることは無い。着替えを用意して、しばらくしたら戻るから。」

嘉平は振り向きもせずに、勢い良く井戸から水を汲み上げている。筵の上に裸ん坊で立ち尽くす鈴虫を敢えて気に掛けないような素振りを見せた。上手くすれば客人に面白いものをご覧いただけるだろう。

「…うん。」

鈴虫は本当に誰も見ていないか辺りを見渡した。
門から少し入った庭の隅の方に一頭の馬が繋がれているが、他には見ているものは無いようだ。馬と目が合ってしまうのも気恥ずかしいが、隠しきれない程に張詰めた花芯の先端からじゅるり…と蜜が溢れてくる。それがまた潤滑となって心地良い。こうなると動かし始めた手を止める事は出来くなってしまっているのだ。思わず鈴虫は頬を薄紅に上気させながら馬を叱った。

「…お馬さん、見ちゃダメッ!…うぅ…ん、だぁめ、あっち向いててよぉ…もうっ!」

しかし馬が鈴虫の言う事を聞く筈も無い。それどころか人間から何か話しかけられたと思って手綱の範囲で近付いてくる。

「あぁぁん…ダメェ…なんでこっちに来るのぉ…アッアッ…どうしよう…あぁぁ…ん、来ないでッ!」

馬はしっかりと繋がれているので、だいぶ離れた位置から近付いては来ない。しかし、鈴虫にしてみれば、滅多に目にすることの無い大きな動物はちょっと怖いというのが本音だ。筵を汚したくないし、馬にも見られたくない、後ろには盥があるし、お日様に向かって自慰をするのも気が引ける。もう体は後には引けない状態になりつつあるのに、一体何処を向いてよいのか分からない。

「はぁぁ…こっちにおいで、ペロペロしてあげるから…!おい、お前たち、う、馬をどかしてこい。早く行けっ!はぁぁ…ペロペロさせてくれれば直ぐに昇天させてあげられるのにぃッ!」

「駄目です、駄目です。いま行ってごらんなさい、ここで見ていたのがバレてしまいますって。」

「しぃッ!…もうっ!イイ感じなんだから静かに!」

「はぁぁ…すまん、すまん。…ん?なんで謝らねばならんのだ?」

庭には誰も居ないはずなのに、あちこちから気配がして落ち着かない。それでも自分の感じやすい部分を良く知っている自分の手は、動きを止めることなく快楽を貪ってしまう。きっとこの気配は慣れない事をする緊張感からくるものだ。鈴虫はそう自分に言い聞かせて瞼を閉じてみた。

さきっさん…いま、おらを可愛がってくれてるのは…さきっさんの手だよ…
 さきっさん…さきっさんの手…おらのいいところ…さき…さ…が一番知ってる…
さきっさん…気持ちいい…よ…気持ちいい…さき…さ…

「アァッ!…気持ち…いい…あぁぁ…で、出ちゃうよ…アッ、アッ…いい…」

ぱたぱた…っと、乾いた地面に白濁が飛び散る。
瞼の裏の佐吉に縋りながら恍惚に浸ると満足感が体を満たしていった。鈴虫は瞼を閉じたままゆっくりと座り込み嬉しそうな笑みを見せる。会いたくてたまらない人とやっと愛し合えた…そこまでは言えないにしても、心の中で抱き締める事は出来た。そんな気がした。

「…もう…お馬さん、やっぱりずっと見てたのか。コラッ、まったくもうッ!ここで見た事は誰にも言わねぇでくだせ。…どうかお願いね? ふっ…ふふふっ…」

そう言った後から笑いが込み上げてきた。例えどんなに見られても、馬が秘密を喋ってしまう心配なんて無い。それに、一番大事な宝物には心の中で呼びかけただけ。馬になんて教えるのは勿体無くて絶対に嫌だ。
鈴虫は気分がさっぱりしたので、さっさと水を掛けて痕跡を消した。もう一度上がり湯を掛けて貰ったら着替えてお昼寝がしたい。

「お父様ぁ~お父様ぁ~、お湯とお着換えをお願いしま~す。」

鈴虫にしては大きな声で屋敷の奥に向かって声を掛ける。

嘉平は三人の客人が陣取る部屋の入り口に湯桶と着替えを持って立っていた。嘉平の視点から見る三人の客人は、自分が傍からどんな風に見られるかなどとは考えてもいないようだ。いい年をした大人が、まるで串団子のように重なり合って、障子の隙間に目玉を縦一列に並べている。嘉平は小さく咳払いをして三人を振り向かせた。

「かっ、嘉平殿。そち…ら…」

嘉平は口を真一文字にギュッとして首を横に振った。両手が塞がっているので、声を出すなという合図はこれしか出来ない。それを察して客人たちも慌てて口を引き締める。

「お父様ぁ~!早く早く、おら、ちょっと冷えてきたし、ちょっと眠くなった…ふわぁ…」

外からは鈴虫の催促が続く。嘉平はわざわざ三人を左右に掻き分けた。そして、障子を開ける為に一旦着替えを下に置く。その低い姿勢のまま三人を見渡して、絶対に気付かれないようにとそれぞれに目を合わせて合図する。それからゆっくりと障子を開けて、湯桶と着替えを持って廊下へ出た。もちろん目玉の幅ほどの隙間をご用意するのは客人への御持て成し。決して忘れる事も無い。
すっかり冷えてしまった盥の中に熱い湯をたして鈴虫を温める。せっかく熱が下がったのにここで風邪を引かせるわけにもいかない。客人への御持て成しは程々に切り上げた方が良いだろう。

「ふわぁ…うぅん…。なぁんだぁ…お父様、そっちにいらしたんだ。なんだか音がするから誰か見てるんじゃないかって心配しちゃった。」

「なんだ欠伸なんかして。そんなに眠いのか。着替えをどれにするか見繕っていたんだよ。」

「うん。お湯も体も冷えてきちゃったよ。それに…なんか疲れてきた。」

「遅くなって悪かったね。でも、これくらいで眠っちゃいかん。もっと体力つけなくては。」

「そだね…」

「これっ!目を瞑っちゃいかん。まだだ、鈴虫や、お前、まだ痛いって言ってただろう。穴の奥に傷が出来ていないがだけ確かめなくては…これっ!裸のままで眠るな!」

体力のあまりない鈴虫にとっては一回であっても射精は消耗し過ぎるようだ。瞼がとろりと落ちてきて、頭の中は久々に干した温かいお布団のことでいっぱいだ。盥の中に座ったままで舟を漕ぎ出した鈴虫を、嘉平は何とかして立たせた。無垢な微笑みを湛えながら、半分夢の中を漂っている少年を叩き起こすのは残酷だ。しかし、痛みが残っているという事は傷を見落としている可能性ある。それも説得力のある話だろう。

「ほれ、ちょっとだけ見せてみなさい。お日様に尻穴を向けるのは厭だろう?母屋の方に尻を向けて…そう、四つん這い…あ、もういい、眠くて力が入らないなら支えてあげるから。」

鈴虫は厭々ではあるが仕方なく嘉平の言う通りに従った。

嘉平は背中に六個の眼球が全力で放つ威圧の視線を感じた。恐る恐る振り返ると、邪魔者は薙ぎ払うぞと言わんがばかりの気迫だ。冷や汗を垂らしながら嘉平は自分の体の位置をずらして客人の視線に道を譲った。
嘉平が譲った視線のその先には、四つん這いをする力は無く、ただ体を丸めて蹲ったような姿勢で眠りかけた鈴虫の姿がある。濡れた黒髪は横に流し、まるで蝋のように白く滑らかな背中と可愛い尻が此方を向いている。嘉平はその尻朶を掴んで割り開くと、少し赤みの帯びた菊の花を日の下に曝け出した。

「きゃッ!」

短い悲鳴と共に鈴虫の体に力が入る。
まるで誰かに見せびらかすように必要以上に力を込めて割り開かれているのを感じたからだ。鈴虫は嫌な予感がして筵の上を思いっきり二度叩いて拒絶の合図を出した。

「…ぃやっ…ね、お父様、ぃやっ…そんな、アッ、だめ、広げないで…痛いよ、引っ張らないで。」

「ぅぅ…影になっているからねぇ、よく見える様にしないと…嫌って言ったら興醒めするねぇ。」

「お父様!ぃやッ!やめて、ねぇ、約束した…よ。あぁぁ…中はやめてっ!…ぃやっ…中に入れないで…いっ、痛いッ、だめ、お願い、痛いからッ!」

「いま、手持ちに香油が無いから、ちょいと唾つけて入る範囲だけ確かめよう。少しの間だけ我慢しなさい。」

嘉平はそう言うと中指の腹をきつく閉じられた後孔に押し当て、そのまま躊躇なく押し込んだ。板塀の外まで届きかねないような鈴虫の悲鳴が響く。しばらく休んでいたと言うのに時間を掛けて慣らすこともせず、半ば強引に節くれ立った武骨な指が挿入されたのだ。

「…ぃやっ…痛い、動かさないで…やめて…ぃやぁぁ…もう、いやぁ…アッ、ダメ、そんな奥まで入れないで…ぁぁ…そこもコリコリしないでよぉ…もうやめて…ぃやぁぁ……」

「…大丈夫だ。血も膿も無さそうだ…おい、鈴虫?…すず…む…し…!?」

「…もう…いやだ…せっかくお湯で綺麗にしたのに…もう…ぃやぁ…お父様、きらい…お約束も守らない…きらい…」

指を抜き去る頃には鈴虫は泣き崩れていた。しばらく背中を大きく上下させながらしゃくり上げている。疲れて眠くなっていたところに追い打ちをかける様に、喚きながらの大泣きをしてしまったのだ。もう、まともに意識を保っていられようも無い。怒りと悲しみを抱え込んだまま、鈴虫は蹲った体勢で眠りに就いていてしまった。
嘉平は肩を竦めて後ろを振り返る。障子がスルスル…と開いて、中から三人の客人が姿を現した。三人とも眉根を寄せて困惑の表情を示している。

「嘉平殿、…やりすぎ。ほれ、現身様にいつまでそんな恰好をさせておくのだ。手を貸して着替えさせなさい。」

「…相済みませぬ。お悦び頂きたく…少々無理をさせてしまいました。」

「ううむ。現身様の嫌がる事は好まん。わかるか、嘉平殿。私はなぁ…この現身様に心底惚れてしまったようなのだ。絶対に苦しませるような事はさせてはならん。気持ちよぉ~くして差し上げるのだ。」

そう言うと男は干してあった布団を堂の中に取り込みに行った。泣きはらした顔の鈴虫を温かな布団が受け止める。今日の所はここまでと、断りを入れて客人は帰って行った。門の外まで送り届けて戻ると、堂の中は静かすぎる程に静かだ。夕餉には起こすと約束したが、今日はもう一つ約束を破る事になるかも知れない。今さら起こすのは無理だろう。眠る鈴虫の傍らで嘉平が深々と頭を下げる。そして、消え入るような声で詫びた。

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