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記憶の中のアイツ
しおりを挟む会社での悩みはどうしようもなかった。
そんな悩みを抱えていた頃、幼馴染の渡辺勝也から久しぶりに連絡が入った。
(久しぶり!亮介何してる?)
(2年ぶりか?どうした?)
(仕事頑張ってるか?ちょっと会えない?たまに飲みに行こうぜ!)
(そうだな。俺はいつでも行けるから勝也に合わせるよ)
夜の予定があれば、接待になった時に断れる。
(じゃ、来週土曜の19時、店の詳細は後で送るわ)
――――指定された大衆居酒屋。店に入ると勝也が大きく手をあげて手招いていた。席に着くなり
「ビール、頼んでおいたぞ!」
といつもの笑顔で得意げに親指を立てた
「お、ナイス!」
すぐにビールが運ばれて来て、とりあえず乾杯をした。
2人でビールを飲む沈黙。
懐かしい沈黙だった。僕はこの空気感がとても心地よい事を思い出してしまった。
「会社どうだ?楽しいか?」
ビールから口を離して、くぅー!と言いながら勝也は話した。
「どうかな。良くもなく、悪くもなく、ってとこだな?勝也は親父さんの会社で落ち着いてるんだろ?将来安泰で羨ましいよ。」
ちょっと間を置いて
「それがな……。俺、結婚しようと思ってる人が居て、それがバツ付きの子付き。」
心臓がドキリとした。
「結婚?お前が?」
「おう。俺だって男だぜー!」
ビールを持つ手が震えないように、動揺しないように努めた。
笑いながら
「だよなー」
とかろうじて答えたが、すぐに俯いて、通しに箸をつけた。勝也が続ける
「それがさ、親父は猛反対よ!あれは絶対許す様子は無いな。」
落ち着きを取り戻して残りのビールを飲み干した。
「でな、家を出ようと決めたのよ。彼女と彼女の子共と新天地で1から始めようってな!」
「そうか……」
勝也が僕のものになる事は世界がびっくり返っても無い事は、とうの昔から分かっていた。それでも、心の奥底に勝也への想いがまだ蠢いてる。
「すみませーん!生2つおかわりで!」
勝也が大声で注文する。
「でな、親父の会社、穴が空くんだよ。もし亮介さえ良ければ、来てくれないかな?親父も亮介の事は昔から知ってて、提案したらすんなりオッケーだったよ。家も、俺が住んでいたあの家に住んでいいから。俺がいなくなればただの空き家になるだけから、お前が好きに住んでくれば最高だよ!」
「おいおい、俺今の会社……」
話した途端、あの女常務の顔がチラついた。首を振って掻き消すと、目の前には愛おしい勝也の笑顔があった。
「実は、今の会社辞めようと思ってた所」
ため息をついて話した。
「おー、丁度いいじゃねーかよ!」
相変わらず声がデカい。僕の肩をバンバン叩きながら
「やっぱ持つべきは友だよなー。俺は、ほとんど勘当の身になるから、せめて俺の穴ぐらい埋めないとな。職種も大体は同じだし、お前は俺が見込んだ通り、いい人材だ!」
何となく選んだ職種が勝也と同じだった。
勝也に気持ちを伝える事は未来永劫無い。
ここらでいい加減、踏ん切りの付け所だ。
「とにかく、おめでとう!幸せになれよ!」
「おうよ!来年は俺もパパだ」
「何だよー!ダブルでめでたいな。よし!今日は飲むぞ!!」
ビールを高々と上げ、再び乾杯した。
――――そんな経緯で、僕はK商事へ転職し、家も勝也の家をそのまま引き継いだ。
辞める時、同僚達が何とも言えない顔で僕を見送った。
今度はお前らの内の誰かが接待役かもな!と心で思い、1番白羽の矢が立ちそうな同僚に(頑張れよ)との無言の応援でポンポンと肩を叩いてやった。
勝也への想いは勝也の結婚という節目で踏ん切りをつけ始めていた。
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