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仕事
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快の仕事の覚える速さは早かった。元々、向いていたのかもと感じてしまう。
僕に対する生意気な態度は仕事では出さなかった。
営業もなかなか上手くいっていたし、他の社との交流もこなしていた。
ある日、商談の話が上がって快と2人で待ち合わせの場所まで向かった。
紹介されたのは、前の会社のお得意先だった。
「おー!小高君じゃないか!久しぶりだね。なんだ、見ないと思ったら、K商事に勤めていたのか」
と握手を、交わした。
「どうも、お久しぶりでこざいます。この度はよろしくお願いします。」
にこやかに挨拶を交わす。
「あ、こちらは一ノ瀬と申します。」
快を紹介し、快は、よろしくお願いします。と、丁寧に握手を交わした。そして、商談の話に進んだ。
商談がまとまり、満足気に取引先の男が背伸びした
「いやー、よかった。で、どうだね?この後、会食でも?」
「もちろんです。伺わせていただきます。」
「では、今晩19時にここで。」
料亭の名刺を渡された。
「かしこまりました。」
車に戻り、快に接待の準備をするようにと伝えた。
準備と行っても、家で着替えるだけなのだが。
――待ち合わせの料亭に10分前に着いて、予約を確認した。店員は
「6名様ですね。こちらへどうぞ。」
と、誰もいないテーブル式の部屋の席へ案内しされた。
僕と快は下座に着席し、取り引き先の男を、待った。少し緊張している快。
あの男、他に3人も連れてくるのか。
少し不安になったが、知らない間柄でもなかったので、何とか盛り上げて早目に切り上げようと考えていた時、男が入ってきた。
「いやー、お待たせ。今日は懐かしい顔も連れてきたよ。」
と、笑いながら後方を見た。
部屋へ入って来たのは、もう1人の男、そしてその男がエスコートして入って来たのは2人の女性。その1人は、あの時の女常務であった。
「⁈」
僕は一瞬で顔が強張った。そんな僕を不思議そうに見る快。
女常務は、部屋に入るなり高い声で
「あら~、小高君じゃない!前の会社、辞めたって聞いて心配してたのよ~」
ニヤニヤと舐めるように僕を見て、そのまま快に目を移した。
「まあ、こちらの方もK商事の方?」
目線を感じた快は勢いよく立ち上がり
「あ、はい!一ノ瀬と申します。この度はよろしくお願い致します!」
と両手を差し出して握手を交わした。
会食は和やかに進んだ。お互いの会社の特性や経済の動向、さらには個人の趣味の話まで広がった。
取引先の男たちは、明らかに2人の女性に媚を売っているのが分かる。それを感じているのか、2人は満足気に過ごしていた。
もう1人の女は常務の友人らしい。
…快を舐めるように見ていた。快はその視線に気づき、ニコッと微笑み返した。
何も知らないとは、こんなに無邪気なのか。そんな事を考えいると、テーブルの下で足がぶつかった。さっと引っ込めると、その足は追いかけてきて、僕のスネをなぞった。
「そろそろ2件目に行きましょうか」
男が促した。外には2台のタクシーが停まってあり、快と僕を後部座席に乗せるなり、男は運転手に行き先を伝えた。
「僕たち3人も後ろから着いて行きますので」
取引先の男と2人の女も後ろのタクシーに乗り込んだ。
あとの2人の男はどうやら乗らないようだ。
その2人は、にこやかににお疲れ様でした!と深々お辞儀をして車を見送る姿がバックミラーで見えた。
タクシーの中で快と2人。
僕はとても嫌な予感がした。
きっと、この嫌な予感はほぼ確実に当たるのだろうと困惑していた。
「亮介?どうした?」
苦い顔をしていた僕を心配そうに快が覗き込む。
「なーんか、これが『大人の仕事』って感じだなー。政治家って毎日こんな感じなのか⁈」
笑って、強張った肩と首を回している。
「快、君は次の店に着いたら、酒に酔ったとこのまま帰れ。」
「え?俺酔ってねーし!絶好調だけど?」
「頼む」
深く暗い僕の口ぶりと雰囲気に
「どうした?亮介が酔ったんじゃね?亮介が帰ればいいじゃん。俺、1人でも何とかやれるから!」
と、腕をあげて上腕三頭筋をポンポンと叩いた。
「ダメだ!あの女達は、君をそうゆう目で見ている。そんな事は絶対させられない!」
怒鳴られて、腕をあげたままピタッと止まった快は、眉間に皺を寄せながら
「え?じゃ、亮介は俺を帰してどうするつもりなの?」
と聞いた。
「……何とかするさ」
そう言われて、快はさらに眉間の皺を深めた。
「じゃあ、俺も一緒に何とかするよ」
そして真っ直ぐ前を見つめる。
タクシーの窓の外は夜の街が流れていく。
ネオンの明かりが、快の頬にちらちらと映った。
その横顔を見て、胸の奥にざらつく不安が広がった。
2件目は高級ホテルのBARだった。
「ささ、こっちこっち!」
男が促し、奥のテーブルへ座った。
「小高さんは、ウイスキーの水割りでいいかしら?」
軽くウィンクをし、店員へ向かって片手をあげた。
「いゃあ、再会と出逢いに乾杯!」
と5つのグラスが音を立ててぶつかった。
他愛もない会話。
話の内容は、男女の情勢やら男に生まれ持った本能的な性質や衝動なんかを喜んで語っていた。
男のサガを今から目覚めさせようとの魂胆が見え見えだった。
どれも、快には聞かせたくない話だった。
いつの間にか、取り仕切っていた男が居なくなっていた。
女常務は「さてと!」と俺を見て「もう、分かってるでしょう?それぞれの場所へ行きましょう。」と僕の腕を掴んで耳元で「今夜はカクテル飲んでないみたいね。」
と笑った。
それを見た快は
「ちょっと待って下さい。どちらへ行くのですか?もう夜も遅いですし、俺たち失礼しようと思います。」
そう言いながら立ち上がった。
「ダメよ。あなたは、こちらのレディのエスコートをしなさい」
女常務の友人が快を艶かしく見つめて快の手を取った
「ふふ、よろしくね」
快は、その手をそっと振り解き
「どうして、俺たちがあなた達とこれ以上過ごさないといけないんですか?そんな決まりはないですよね?」
そして続けた
「これを断れば、俺たちには何か悪い事が待っていますか?そうだとしても、それでも構いません。」
そして女常務の友人を見て
「俺は、あなたとこれ以上ともに過ごす気はさっぱりありませんので。」
一瞬、時間が止まった。
女たちの表情が引きつる。
店の奥で氷がグラスに落ちる音だけが響いていた。
快はきっぱり言い放ち「亮介、行こう!」と俺を引っ張った。ポカーンとしている常務は
「あなた、何と失礼な!女性の誘いを断るなど、男として恥ずべき事よ!」
そう言われると、快はすかさず反論した
「失礼はどちらでしょう?俺も亮介もそういった仕事はしてませんので。セックスしようと誘ってるんですよね?俺は、本当に大切な人としか出来ません。あなた方も自分を大切になさった方がいいと思いますよ。では、失礼します。」
そして、僕を引っ張り店を出た。
後ろから女常務の大声が響いた
「小高さん、あなた不能だから逃げるのね!どうせ最後までできないんでしょう?なんて情けない!」
手を引かれて歩いた時、快の手は微かに震えていた。
そのままホテルの前のタクシーに乗り込んだ。
車内では何も言葉を交わさなかった。
ただ無言で窓の外を眺めている快は何を考えていたのだろう?
――――部屋に戻り、ネクタイを外しながら快は口を開いた
「……ごめん、勝手にキレて。」
「いいんだ」
「でも、こんなの間違ってるよ!」
「そうかもね」
僕はゆったり息を吐きながら、答えた
「あの女常務とって昔何かあった?」
心配そうに僕を見ていた
僕は、快にあの日の出来事を話した。
「……あの頃、僕はそれが当たり前なんだと理解して、あの人や…他の人とも最後はセックスする覚悟を決めてたんだ。」
「……」
快は黙って聞いていた。
「僕はそれを望まれていたからね。でも、いつも僕は最後までできなかったんだ」
別に泣きたい訳じゃない。
でも、快に軽蔑されるのを覚悟で話した。
「何だよ!それ!」
怒りを露わに言葉を吐き捨て、ネクタイを荒めに首から引き抜いた。
「そうだよね。快の言う通り、そうゆう事は好きな人とするべきだ」
「だろ?」
「でも、世の中には、どんなに願っても、好きな人とできない人もいるんだ」
「それでも、そうゆう事は大切な人と……」
そう言った快を、強く抱きしめた。
「⁈」
びっくりした快は
「何だよ!いきなり!誰かと間違ってるんじゃないか?それとも本当はあの人とセックスしたかったとか?」
黙って首を横に振る
「僕は君がいい」
「はぁ?俺男だぞ!亮介……離せ!」
快の瞳が大きく見開かれた。
逃げようとした肩を、ふたたび抱き寄せた。
快の喉が、ごくりと鳴った。
僕の指先が震えているのが、自分でも分かった。
そっと唇を重ねた。
触れた唇の先に、全ての想いが溢れ出していく。
「ん!んんーー!」
びっくりしたのか最初は抵抗したが、次第に大人しくなり、力を抜いて快は僕の唇を受け入れた。
「僕はね、君の事が好きなんだよ。分かってくれる?」
「……俺だって、亮介が好きだ。でも、それを伝えたら亮介は俺から離れると思ってた」
「そんな訳ないでしょ!こんなに好きなのに。」
そして、もう一度優しく長くキスをした。
快のワイシャツのボタンをゆっくり外す。露わになった首筋にキスをする。右手はしっかり快の腰を引き寄せて、逃げないように力を込めた。
「ちょ、ちょっと待って!……俺、そうゆうの初めてで、どうしたらいいのか分からない」
快は亮介の目を見た瞬間、逃げたくなくなった。
快のおでこに自分おでこをくっつけながら
「ゆっくり、ゆっくり覚えていこうね」
と優しく笑って、そっと抱きしめた。
外では夜の雨が静かに降り始めていた。
2人の世界だけが、静かに温もりを帯びていた。
――夜中、ベッドから抜け出して端に座り、じっと治った自分の足を見つめていた。薄らと残る跡がまるで過去の傷の形みたいに見えた。
思い出してしまう。心から好きだった。
笑う顔が好きで、声が好きで、触れたいと願っていた。
でも、俺がそれを口にした瞬間、世界は一瞬で冷たくなった。
去っていく凌の後ろ姿が頭の奥にずっとこびりついて離れなかった。
それからは、誰かに好かれても信じられなくなった。
優しくされればされるほど、「どうせ、また壊れる」と思ってしまう。
笑うのも、喋るのも、本当はただ――怖かっただけなんだ。
夜はとても長い。
心臓の鼓動だけがやけにうるさく感じる。
月明かりが部屋の隅を照らして、その光の中に、あの日の俺が浮かび上がる。
泣きながら、絶望し、自分を捨てた自分。
「俺なんかを、亮介は本気で好きになったりしない」
そう思いながらも、彼の声を聞くだけで胸の奥が温かくなる。
まるで、もう一度やり直せるような気がしてしまう。
ダメだと分かっているのに、この家に居ると、世界が優しく見えてしまう。
そんな自分がいちばん、嫌いだった。
カーテンの隙間から風が入って、
泣いた頬にひんやりと触れた。
俺は息を吸い、声にならない言葉を呟いた。
「……どうか、この夜だけは、夢で終わらないで」
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