真実の愛の犠牲になるつもりはありませんー私は貴方の子どもさえ幸せに出来たらいいー

春目

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11. 歪な2人

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時は少し巻き戻る。
クリフォードとシルヴィーが住む本邸。
そこにクリフォードは別邸から逃げ帰っていた。服は濡れ足を前に出すだけで水が滴り、前足を出す度身体中に痛みが走っあ。

「なんなんだ! あれは!」

こんなことは初めてだった。クリフォードは元王子だ。生まれてから丁重に扱われてきた彼が一方的に暴行されるのは初めてだった。しかも、全く見えない何かに。

「クソクソッ! 私がこんな目に遭うなんて」

手も足も出ず袋叩きに合い、酷く屈辱的なことにクリフォードは逃げ帰るしかなかった。
だが、あんなものに対処できるような力はクリフォードになかった。

(一体誰の仕業だ? マリィ? いや、違う。アイツは襲われる私を見て酷く取り乱していた。あとは……ルークか? だが、あんな赤ん坊が俺を傷つけられるわけがない。悪霊でもいたのか? クソッ、兎にも角にも腹立つ)

クリフォードはそう結論づけ、ようやく帰って来れた自宅の中に入った。
中に入れば侍女達がクリフォードを出迎えた。
30代後半くらいの女性達で固められた侍女達は、何故かずぶ濡れで身体のあちこちを抑えて痛がる主人を見て瞠目したものの、無言のままテキパキと湯浴みの準備と着替えの用意を始めた。
そんな侍女の1人をクリフォードを捕まえた。

「おい、湯浴みを手伝ってほしいんだが?」

クリフォードの言う手伝いというのは身体を洗って欲しいということだ。
王子だった頃は全て侍女が洗っていた、髪も身体も、そして、言葉に出せないようなあの場所も、とにかく至る所を。

しかし、目の前の侍女はにっこりと笑みを浮かべ……。

……断った。

「私達の仕事ではありません。シルヴィー様にやっていただいたらどうでしょう?」
「は? シルヴィーは私の愛する人で侍女ではない」
「そうですか? では、ご自分で洗って下さいませ」

そう言って、さっさと侍女は立ち去ってしまう。
クリフォードは舌打ちした。公爵家の当主になってからいつもこうだ。
主人の身体を労るのも侍女の仕事だというのに、この公爵家の侍女達は全く仕事しない。しかし、侍女の雇用についても国王がその権限を握っている為、幾ら不満でもクリフォードがクビすることは出来ない。

(いいさ。どうせこの家には年増しかいない)

苛立ちながらもクリフォードは1人で入浴し1人で着替え部屋に戻る。
すると、そこにシルヴィーが待っていた。

「なんだ、シルヴィーか……何の用だ」
「……」
「シルヴィー?」

シルヴィーは何処か思い詰めた顔をしていた。その手は震え、クリフォードを見つめる目は不安に満ちていた。

「あの……別邸に行ったと聞きました。本当ですか?」
「あぁ、行った。散々な目に遭ったが……」

別邸で起こったことを思い出しクリフォードの表情は歪む。その表情を見て、シルヴィーは小さく安堵の吐息を吐いた。
それにクリフォードは全く気づかない。

「シルヴィー、あの女はムカつく奴だ。俺を何だと思ってやがる。水をかけただけでなく、あのような目に遭わすなど……」
「……あのような目?」
「見えない何かに暴行を受けたんだよ!」

何か思い当たることがあったのか、シルヴィーの顔がさあっと青ざめ強ばる。
あの瞬間を思い出しクリフォードは苛立ち、親指を噛みながら足を揺すった。

「気味が悪い。部屋中の物という物が私をぶっ叩いてきやがった! 
シルヴィー、あの屋敷には悪霊がいる! お前は近づかないように」
「…………そうですね」

クリフォードの話を聞きながら、シルヴィー青を通り越して顔面蒼白になる。

「クリフォード様、それってあの方……マリィ様にも被害に遭われたのですか?」
「さあ? 知らないな。自分の身を守るのが精一杯だった」
「そ、そうですか……」

シルヴィーは青ざめながらも複雑そうな顔をする。
そんな時、クリフォードはふと思い出した。

「そうだ……シルヴィー、ルークをマリィにやったらしいな、本当か?」
「…………っ!」

その問いにシルヴィーはこれ以上ないほど動揺した。
あまり触れられたくない話だったからだ。
だが、シルヴィーは察していた。
もしここで下手な言い訳をすれば、それこそマリィが嫉妬して自分からルークを奪ったのだと言ってしまったら、彼は誤解して嬉々と別邸に行ってしまうだろう……シルヴィーを放って。
それだけはシルヴィーは避けなくてはいけない。

(けれど、だからといって本当のことは……)

シルヴィーは息を飲んだ。真実は話せない。流石に失望・・される。だから、彼女は。

「……あ、憐れだと思ったです」
「憐れ?」
「あの方は一生子どもなんか抱けないではないですか……特に愛する人とできた子どもなんて。だから、抱かせてあげかったんです」

口から出任せにそう告げる。そんな出任せをクリフォードはどう受け取るのか、じっとクリフォードを見つめながら。

「そうか。お前がやったのか。マリィは何もしていないと……」
「は、はい……」
「……ふーん、そうか」

残念そうな顔をするクリフォード。しかし、身勝手極まりないシルヴィーに失望したというより、まるで思い通りに行かなかったような顔だ。
もしかしたら彼はマリィが自分を思って子どもを奪っていて欲しかったのかもしれない。
そう思うとシルヴィーはワンピースの裾を強く握りしめた。

「そんなことよりシルヴィー」

クリフォードは話を変え、シルヴィーに手を伸ばす。

「ルークをやって良かったのか。仮にも私の君の息子だろう? 心が痛まなかったのか?」
「……」

シルヴィーの肩に手を回しそう聞いてくるクリフォード。シルヴィーはそんな彼に微笑みを浮かべた。

「いいえ。私にはクリフォードがいますし、それに子どもなんて直ぐに次を作れば良いでしょう?」

その言葉にクリフォードは気を良くした。
一時は足枷に思えたシルヴィーだが、やはり良い女だ。クリフォードをよく理解し慮り立ててくれる。

「……それもそうだな。お前には私がいる。
その言い方、次の子どもが欲しいように聞こえるが?」
「えぇ、女の子が欲しいのです……」 
「そうか。私は何でも良い」

そう何だっていい。もし自分に似ていても似ていなくとも構わない。育てるのも可愛がるのもシルヴィーの仕事だ。自分に関わりのないもの。それが子育てというものだ。そう思いクリフォードは寝室の鍵を閉めた。
今夜、誰にも邪魔されない為に。
結局、2人は翌日の朝まで部屋から出てくることはなかった。



数ヶ月後
シルヴィーが懐妊したというニュースが別邸に飛び込んできた。



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