真実の愛の犠牲になるつもりはありませんー私は貴方の子どもさえ幸せに出来たらいいー

春目

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16.難航するルークの家庭教師探し

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ルークの為に立ち上がったマリィの行動は早かった。

ドレスを買い、化粧をし、立派な淑女の格好をすると、様々なサロンに顔を出した。

しかも、ただのサロンではない。社交界の顔役や知識人が集う名のあるサロンだ。ツテや知り合いはいなかったが美しいと今でも評判のマリィは幸い何処でも歓迎された。

マリィはサロンで様々な人々と交流しながら侍女と、そして、家庭教師を探した。

さりげなく侍女を探していると言えば、幸い直ぐに侍女は見つかった。

ケイト・グリーンという名前の彼女は伯爵家の14人兄弟の3女で末っ子だそうだが、他の家族はお淑やかで品のある者ばかりだというのに、社交界でも有名なじゃじゃ馬娘で、そのやんちゃで豪胆な性格から働き口に困っていたらしい。

気力も体力のある彼女ならルークと張り合えるだろう、とマリィは彼女を見込み、即採用した。

ケイトはマリィの見込んだ通り、ルークと張り合える良い侍女だった。ルークと出会うと直ぐに追いかけっこを初め、急に隠れんぼを始めるルークも彼女曰く野生の勘で瞬殺する勢いで見つけ出した。
またルークの周りで起こる一般人からしたら不可思議な現象も、素直な彼女は直ぐに受け入れてくれた。

「この家、妖精が住んでいるのですのね! まぁ、絵本みたい!」

ケイトは本当に良い侍女だった。
だが、ルークはケイトがいると今までのような隠れんぼが上手くいかないからか毎日悔しさを滲ませ対抗心を燃やしていた。

「今日こそケイトに見つからないようにするんだ」

屋敷はケイトが来てから更に賑やかになった。毎日のようにルークとケイトは走り回り、ルークは悔しそうだったが楽しそうだった。


こうして侍女は見つかった。
だが、問題は家庭教師だった。


とあるサロン。
マリィはその顔に微笑みを浮かべながらも内心、うんざりとしていた。

「マリィ夫人が家庭教師を探していると噂に聞きまして、丁度うちの独身の三男が……いえ、選ぶのはマリィ夫人ですから、でも、お耳に入れたく……」
「お、俺はどうですか! 学院卒業してますし、貴族教育だって受けてますから……それに、貴方を支えたりとか……」
「私の知り合いに丁度いいのがいますよ。ベルクス侯爵のところの次男。貴方を好いていると昔から……えっ、そういうのじゃない?」

マリィはうんざりしていた。
そう、探しても探しても明らかに下心を持った人間しか来ないのだ。
あわよくばマリィと……と思う不届き者が多すぎる。
マリィが欲しいのはルークを真面目に見てくれる家庭教師である。だが、男女問わず家庭教師を探しているのに、家庭教師の話で近づいてくるのは下心丸出しの男ばかり。

マリィはこの日ばかりは自分を呪った。

(まるで大河で砂金を探すようだわ……。全くまともな人が来ない。
私、貴方達の為に綺麗なわけじゃないのよ!
うぅ、どうしよう……)

ルークも6歳だ。早い子では4歳から始める貴族の子弟教育を始めるにはギリギリの年齢になる。
マリィは焦った。

(やっぱり陛下を頼る……? ううん、それは最終手段。あんな狸が手配する家庭教師なんてどんなのか分からないし……)

マリィは近寄ってくる下心丸出しの貴族達をどうにか捌いて全員に丁寧に断りながらお茶会をやり過ごした。

「はぁ、やっと終わった……」

お茶会が終わる頃にはマリィは疲れていた。疲労感が拭えないままマリィは馭者の手を借り、馬車に乗る。

(色んなサロンに顔を出したけど、結局、見つからず終いだわ。
私、高望みしているのかしら……?)

マリィはため息を吐いた。

だが、その時だった。

「誰だ、貴様は!? 何をする!」

馭者の絶叫にマリィは顔を上げる。
その瞬間、マリィの視界は暗転した。




その夜、ズィーガー公爵家別邸に、緊急の知らせが届いた。

「ルーク様! マリィ様が、マリィ様が……!」

血相を変えて食堂に帰ってきたケイトに、侍女達と乳母と一緒に夕飯を取っていたルークは唯ならぬ嫌な予感を感じ青ざめる。

「どうしましょう……! マリィ様が賊に攫われたと……警備隊から連絡が……!」

その言葉に侍女達は悲鳴を上げ、乳母はふらつき、ルークは……その顔から一切の表情が抜け落ちた。





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